固定価格買取制度
固定価格買取制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を、国が定めた価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務づけた制度である。英語のFeed-in Tariffを略してFITと呼ばれる。日本では「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再エネ特措法)」に基づき、2012年7月1日に始まった。対象は太陽光発電、風力発電、中小水力発電、地熱発電、バイオマス発電の5電源である。買取費用の多くは電気の利用者が「再エネ賦課金」として負担しており、制度の恩恵と負担が国民全体に広く及ぶ点に特徴がある。
制度が生まれるまで
源流は1990年代のドイツにある。ドイツは1991年に電力供給法を施行し、2000年の再生可能エネルギー法(EEG)で買取価格を電源別に固定する仕組みを確立した。日本は当初、電気事業者に一定量の再エネ利用を課すRPS制度を2003年に導入したが、普及は伸び悩んだ。転機は2009年11月に始まった住宅用太陽光の余剰電力買取制度で、買取価格は48円/kWhと当時の電気料金のおよそ2倍に設定された。その後、2011年3月の東日本大震災を経て再エネ特措法が同年8月に成立し、全量買取を含む現在の固定価格買取制度へと拡大されている。
買取の仕組みと価格決定
発電事業者は経済産業大臣から事業計画の認定を受け、送配電事業者と特定契約を結ぶ。2017年4月の改正法施行以降、買取義務者は小売電気事業者から一般送配電事業者に移った。価格と期間は、有識者で構成する調達価格等算定委員会の意見をもとに毎年度決められる。算定の考え方は、標準的な設備費・運転維持費に適正な利潤(IRR)を上乗せし、事業が成り立つ水準を逆算するというものである。調達期間は住宅用太陽光(10kW未満)が10年、事業用太陽光(10kW以上)が20年、地熱は15年となっている。
再エネ賦課金の算定式
賦課金単価はおおむね次の式で求められる。
賦課金単価(円/kWh)=(買取費用 − 回避可能費用 + 事務費)÷ 想定販売電力量
回避可能費用とは、再エネを買い取ったことで電力会社が発電せずに済んだ費用を指し、卸電力市場価格に連動する。そのため市場価格が高騰した2023年度は単価が1.40円/kWhまで下がった。制度初年度の2012年度は0.22円/kWhにすぎなかったが、2026年度は4.18円/kWhと過去最高になっている。月400kWhを使う家庭では月額約1,672円、年間で約2万円の負担となる計算である。
太陽光の買取価格はどう下がったか
開始当初の価格は国際的にも高かった。事業用太陽光は40円/kWh(税抜)に設定され、メガソーラーへの投資が全国で急増している。設備単価の低下に合わせて価格は段階的に引き下げられ、250kW以上の大規模案件には入札制が導入された。主な推移は次のとおり。
| 年度 | 住宅用(10kW未満) | 事業用(10kW以上・地上設置) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2012年度 | 42円 | 40円 | 制度開始 |
| 2016年度 | 31〜33円 | 24円 | 出力制御対応機器の有無で区分 |
| 2020年度 | 21円 | 13円(10〜50kW) | 低圧に地域活用要件 |
| 2026年度 | 24円(1〜4年目)/8.3円(5〜10年目) | 9.9円(10〜50kW)、9.6円(50〜250kW) | 初期投資支援スキーム |
2025年度下期からは、住宅用と屋根設置の事業用で「初期投資支援スキーム」が採られた。前半の価格を高くして投資回収を早め、後半は8.3円/kWhに下げる二段階方式である。屋根設置の10kW以上は最初の5年間が19円/kWhとなっており、地上設置よりも明らかに優遇されている。土地造成を伴う野立て案件から屋根への誘導という政策意図が読み取れる。
急拡大がもたらした課題
高い買取価格は太陽光への極端な偏りを生んだ。認定だけを取得して着工しない「未稼働案件」が大量に発生し、2017年の改正では運転開始期限(事業用太陽光は認定から3年)が設けられた。期限を過ぎると調達期間がその分だけ短くなる。九州では2018年10月に離島以外で初の出力抑制が実施され、系統連系の容量不足も表面化した。林地開発による土砂災害リスクや景観問題をめぐって、地方自治体が独自の条例を定める動きも広がっている。
廃棄等費用の積立
10kW以上の太陽光では、2022年7月から廃棄等費用の外部積立が義務化された。調達期間終了前の10年間、売電収入から源泉徴収的に差し引かれる。放置パネルの発生を防ぐための措置である。
FIP制度への移行
2022年4月施行の改正法でFIP(Feed-in Premium)制度が創設された。FITでは市場価格と無関係に一定額が支払われるが、FIPでは発電事業者が卸電力市場などで電気を売り、基準価格と参照価格の差額をプレミアムとして受け取る。需要が多い時間帯に売れば収入が増えるため、蓄電池の併設や発電予測の精度向上が収益に直結する。50kW以上の新規案件では原則としてFIPが選択され、1,000kW以上は2022年度からFIPのみの対象となった。地上設置の事業用太陽光は2027年度以降、FIT・FIPともに支援対象外とする方向で議論が進んでいる。
設備導入の現場で気をつけたい点
EPC(設計・調達・建設)事業者や工場の設備担当者にとって、価格そのものより重要になるのが認定要件である。10〜50kWの低圧案件には2020年度から地域活用要件が課され、発電量の30%以上を自家消費する体制が求められる。工場屋根に載せる場合、休日の稼働停止で自家消費率が落ちる点を見落としやすい。設計段階で年間の負荷曲線と発電量を突き合わせておく必要がある。
長期の収支計画では、パワーコンディショナの交換費用を見込んでおくことも欠かせない。一般的な設計寿命は10〜15年で、20年の調達期間中に少なくとも1回の更新が発生する。50kW級なら交換費用が数十万円から100万円を超えることもあり、O&M契約にどこまで含めるかで見積の比較結果が大きく変わる。
卒FITと自家消費の時代
2009年に余剰電力買取制度で売電を始めた住宅は、10年後の2019年11月から順次買取期間を終えた。いわゆる「2019年問題」である。期間満了後は大手電力会社の買取単価が7〜9円/kWh程度に下がるのに対し、購入する電気は30円/kWhを超える場合が多い。このため売るより使う方が有利になり、蓄電池やV2H(電気自動車から住宅への給電)を組み合わせた自家消費への転換が進んでいる。企業でもPPA(電力購入契約)モデルによる屋根置き太陽光が増え、固定価格買取制度は再エネ普及の起爆剤から、市場統合へ向かう過渡的な支援策へと役割を変えつつある。
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