公差解析
公差解析とは、複数の部品を組み合わせたとき、各部品の寸法公差や幾何公差が積み重なって、組立品の隙間や位置ずれがどこまで変わるかを予測する手法である。英語ではTolerance Analysis、寸法の積み上げ計算を指して「スタックアップ解析」と呼ぶこともある。設計段階で組立不良の起こる確率を数値で見積もれるため、自動車、精密機器、家電、航空機などの機械設計で広く使われている。逆向きの考え方、つまり組立品に求める精度から各部品の公差を割り振る作業は「公差設計」または「公差配分」と呼ばれ、解析とセットで行うことが多い。
組立不良から見る必要性
図面上では問題がなくても、量産で部品を組み合わせると入らない、ガタが大きすぎるといった不具合が出ることがある。原因の多くは公差の「足し算」にある。たとえば厚さ公差±0.1mmの板を5枚重ねると、全体の厚さは最悪で±0.5mmずれる。ハウジングの内寸に対する余裕が0.3mmしかなければ、条件によっては組み立てられない。試作品は少数なので偶然うまく組めてしまい、月産1万台規模の量産に入ってから問題が見つかる、という順序をたどりやすい。公差解析は、こうした不具合を金型の手配前に見つけるための手段として発達した。
ワーストケース法とRSS法
代表的な計算方法は2つある。1つ目のワーストケース法(算術和法)は、すべての部品が同時に公差の上限または下限になると考える。組立寸法のばらつき幅は Twc = Σ |Ti| で求める。2つ目のRSS法(Root Sum Square、二乗和平方根法)は、各部品の寸法が独立に正規分布に従うと考え、Trss = √(Σ Ti2) で計算する。先ほどの板5枚の例に当てはめると、ワーストケースでは±0.5mm、RSSでは±0.1×√5 ≒ ±0.224mmとなり、2倍以上の差がつく。部品の公差を±3σの範囲と見なした場合、RSSの結果も組立品の約99.73%が収まる範囲を示す。
| 手法 | 前提 | 結果の幅 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| ワーストケース法 | 全部品が同時に限界値になる | 最も大きい | 安全部品、少量生産、部品点数が少ない場合 |
| RSS法 | 寸法が独立した正規分布に従う | 最も小さい | 量産品で工程が安定している場合 |
| 修正RSS法 | RSSの結果に補正係数をかける | 中間 | 平均値のずれが予想される場合 |
| モンテカルロ法 | 任意の分布を乱数で再現する | 分布の形による | 非線形な関係や三次元形状を含む場合 |
平均値のずれと補正係数
RSS法には「各部品の平均値が公差の中心にある」という暗黙の前提がある。実際の加工では工具の摩耗や金型の修正によって平均値がずれるため、RSSの結果は楽観的になりやすい。そこで1962年にA. Benderが提案したのが、RSSの結果に1.5倍前後の係数をかける方法で、「ベンダー係数」と呼ばれる。1980年代にMotorolaが広めたシックスシグマでも、長期的な平均値のずれを1.5σと見込んでいる。補正係数の大きさは工程の安定性によって変わるため、社内の実測データをもとに決めるとよい。
寸法連鎖の組み方
計算の前に、どの寸法がつながって目的の隙間を決めているのかを整理する必要がある。この寸法のつながりを寸法連鎖(寸法ループ)と呼び、次の順序で組み立てるのが一般的である。
- 評価したい隙間や位置ずれ(目的寸法)を1つ決める
- 目的寸法の一端から出発し、部品の接触面を経由してもう一端に戻る経路をたどる
- 経路上の寸法に正負の向きを付け、それぞれの公差を書き出す
- 寸法が角度や半径を通じて効く場合は、感度係数(偏微分値)を求める
- ワーストケース法とRSS法の両方で計算し、許容範囲と比べる
ここでよくある失敗は、ループに関係のない寸法を入れてしまうこと、そしてはめあい部のすきまを見落とすことである。軸と穴のすきまはガタとして位置ずれに直接効くため、はめあいの公差域クラス(JIS B 0401-1、ISO 286-1)から最大すきまを取り出し、ループに加える必要がある。
幾何公差を含む三次元解析
一次元の寸法連鎖だけでは、穴の位置度や面の平面度による傾きの影響を正しく扱えない。幾何公差の表し方はJIS B 0021(ISO 1101)で定められており、ISO 8015の独立の原則のもとでは、寸法公差と幾何公差は別々に効くものとして扱う。三次元の解析には、CADモデルの上で組立の順序や基準面の拘束条件を設定し、数千~数万回のモンテカルロ・シミュレーションを行うCATツールが使われる。代表的な製品はSiemensのVSA、DCSの3DCS、PTCのCETOL 6σなどである。これらのツールは、どの寸法がばらつきに最も効いているかを寄与率として示すので、どこの公差を厳しくすれば効果が大きいかを判断しやすい。
現場で判断を分けるポイント
RSS法を使うかどうかは、計算方法の好みではなく、部品メーカー側の工程能力で決まる。RSS法の前提を満たすには、各部品の工程能力指数Cpkが1.33以上(±4σ相当)であることを取引条件として求め、初回の量産品で実測して確認する必要がある。購入品のように相手の工程が分からない場合は、ワーストケース法で評価するのが無難である。
コストの面では、公差を1段階厳しくすると加工の手間が大きく増える点に注意したい。切削加工でIT8からIT6へ上げると、仕上げ工程の追加や研削への切り替えが必要になり、部品単価が1.5~2倍程度に上がる例も珍しくない。一方で、ワーストケース法に合わせて全部品の公差を厳しくするより、寄与率の高い2~3寸法だけを厳しくする方が、トータルコストを抑えやすい。測定の信頼性も欠かせない。三次元測定機やノギスの測定誤差がばらつきの中に含まれてしまうため、ゲージR&Rを10%以下に抑えたうえでデータを取ることが望ましい。
一般公差との関係
図面上で個別に公差が指示されていない寸法には、JIS B 0405(ISO 2768-1)の普通公差が適用される。中級(m)では、6mmを超え30mm以下の寸法で±0.2mm、30mmを超え120mm以下で±0.3mmである。公差解析のループにこうした寸法が含まれていると、意外と大きなばらつき要因になることがある。重要な寸法連鎖に入る寸法は普通公差に任せず、個別に公差を記入しておくことで、品質管理や検査の対象も明確になる。
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