乾燥炉|省エネ加熱で均一乾燥 品質を安定

乾燥炉

乾燥炉は、被処理物に熱と気流を与え、内部および表面の水分・溶剤を除去する産業用熱処理設備である。熱移動(対流・伝導・放射)と物質移動(拡散・蒸発)のバランス設計が品質とスループットを左右する。乾燥は一般に恒率乾燥期間と減率乾燥期間に分かれ、前者では表面蒸発が律速、後者では内部拡散が律速となる。製造現場では温度均一性、滞留時間、雰囲気制御(空気・窒素・真空)、安全(防爆)を統合的に満たすことが求められるため、乾燥炉の選定・設計はプロセス工学と安全工学の交点に位置する重要テーマである。

原理と乾燥機構

乾燥の駆動力は、温度差と蒸気分圧差(または相対湿度差)である。恒率期間では表面が常に湿潤で、供給熱は主として蒸発潜熱に費やされる。減率期間では内部から表面への拡散が律速となり、粒子径、孔構造、含浸樹脂の粘性など材料因子が支配的となる。熱収支は概略的に Q = m・cp・ΔT + L・W で表せ、ここで m はプロセスガス質量流量、cp は比熱、ΔT は加熱昇温分、L は蒸発潜熱、W は蒸発量である。乾燥炉ではこの熱収支と排気側の湿分負荷を両立させるため、循環風量と新鮮空気導入量(または真空排気量)を整定する。

構造と主要コンポーネント

  • 加熱部:電気ヒータ(シーズ・パネル)や熱風発生器。温度帯に応じてSUS304/316接ガス部を選ぶ。
  • 循環系:耐熱ファンと整流板で炉内流速分布を均一化する。熱風の短絡防止に仕切板を設ける。
  • 断熱・気密:ロックウールやセラミックファイバで断熱し、扉シールで漏れを抑える。
  • 搬送・治具:トレイ、ラック、メッシュベルト、ローラ。熱膨張と脱落防止を考慮する。
  • 排気・回収:溶剤乾燥では凝縮器や活性炭回収、必要に応じRTO/RCO。
  • 計装・安全:熱電対/RTD、差圧、O2、VOC監視、インターロック、非常停止。

方式の種類

  • 熱風対流式:最も汎用的。循環風で均一化し、温度ムラを低減する。
  • 真空乾燥炉:沸点を下げて低温乾燥が可能。含浸品や熱に弱い材料に適する。
  • 赤外線/遠赤外:表面吸収が大きく立上りが速い。塗膜の表乾に有効。
  • マイクロ波併用:内部加熱で減率期間を短縮できるが、適用評価が必須。
  • 流動層・回転ドラム:粉体の熱・物質移動を促進し、連続乾燥に適する。
  • 連続式ベルト/トンネル:大量生産向け。ゾーン分割でプロファイル最適化。
  • バッチ式キャビネット:多品種少量向け。段替えや治具変更が容易である。
  • 窒素パージ/不活性雰囲気:酸化防止・防爆。露点管理で水分再吸着を抑制。

プロセス設計と能力算定

要求スループットから蒸発量を推算し、必要熱量と風量を決める。滞留時間 t は必要乾燥時間と同等以上に設定し、連続機なら炉長 = 搬送速度 × t で算出する。熱交換器を用いた給気予熱や排気凝縮により、Q の削減が可能である。温度均一性は±(例)2〜5 ℃を狙い、風速0.5〜2.0 m/s程度で表面ガス境膜を薄くする。真空乾燥では圧力−温度−蒸気圧曲線から到達圧力を決定し、ポンプ容量はリークを見込んで余裕をもたせる。治具の蓄熱も時間遅れ要因であるため、試運転で空炉/有負荷双方の昇温プロファイルを取得する。

制御・計測と品質管理

温調はPIDで行い、オーバーシュート抑制に前置補償やソフトスタートを用いる。多点温度をデータロガで取得し、9点以上のマッピングで均一性を検証する。乾燥終点は重量減少率、含水率、電極シートの残留溶剤量などで規定し、SPCでロット間ばらつきを監視する。クリーン度が要求される場合はHEPAフィルタと陽圧制御を併用し、乾燥炉内の再付着や微粒子汚染を抑える。

エネルギー効率と環境対策

熱損失は壁体伝熱と排気潜顕熱が大宗を占める。断熱の見直し、排気の顕熱回収、熱ポンプやヒートパイプ、ゾーン停止による間欠運転で削減できる。溶剤系ではVOC排出を抑えるため、凝縮回収や活性炭吸着、必要に応じRTO/RCOを選定する。真空乾燥では冷凍凝縮器とドラフトの組合せで効率的に除去できる。露点モニタで乾燥雰囲気の水分負荷を可視化し、過剰排気を避けることが省エネに直結する。

安全・法規とリスク低減

溶剤乾燥では可燃性蒸気のLEL管理が必須である。インターロック(扉開→ヒータ停止、排気停止→ヒータ停止、O2上昇→窒素増量)を実装し、失火やファン停止時のフェールセーフを設ける。電気安全(アース、過電流保護)、温度過昇防止(二重独立リミッタ)、非常停止系の定期点検を行う。材料安全データ(SDS)に基づき防爆区分や換気必要量を設定し、乾燥炉の気密・パージ性能を定期検証する。

防爆と溶剤乾燥の留意点

inertingでは目標O2濃度をLEL換算で十分低く維持する。初期パージは炉内容積と漏れを考慮し、置換回数を確保する。連続運転では排気−補給窒素のバランスでO2を制御し、ガス分析計の二重化で故障検出を高める。帯電対策としてアースと帯電防止材を併用し、静電火花の発生源(搬送部、フィルタ、ロール)を最小化する。

代表的な用途

電池電極のスラリー塗工後乾燥、プリプレグや樹脂含浸材の溶剤除去、半導体のベーキング、金属部品の洗浄後乾燥、塗装ラインの表乾・本乾、粉体の含水率調整、セラミックス成形体の予備乾燥、食品の低温乾燥など幅広い。ワーク特性(熱容量、厚み、吸湿性)に合わせ、乾燥炉の方式とプロファイルを最適化することが歩留まり改善につながる。

選定のチェックリスト

  1. ワーク寸法・質量・装填姿勢(トレイ/ベルト/ハンガ)。
  2. 到達温度・許容温度勾配・許容オーバーシュート。
  3. 必要乾燥時間とスループット、段替頻度。
  4. 雰囲気(空気/窒素/真空)と露点/酸素濃度の目標。
  5. 許容温度均一性と風速レンジ、粒子管理の要否。
  6. 対象溶剤とVOC対策方式(回収/酸化)。
  7. 設置スペース、電源・ガス・冷却水インフラ。
  8. 保全性(清掃・フィルタ交換・センサ校正)の容易さ。

保守・トラブルシューティング

周期保全ではファン軸受の給脂、ベルトやシールの点検、フィルタ差圧監視、熱電対/RTDの校正を行う。温度ムラは循環風の短絡や装填密度の不均一で生じやすく、整流板や治具開口率の見直しで改善する。乾燥ムラや黄変が出る場合はプロファイルの立上りを緩和し、減率期間に比重を置く。オーバーシュートはPIDゲインの過大やセンサ配置の遅れが原因であり、モデル追従型制御や予測制御の導入が有効である。真空系の乾燥遅れはリークと到達圧不足が原因で、パッキンの劣化や配管フランジを重点点検する。以上の基本を押さえることで、乾燥炉の安定稼働と品質一貫性を確保できる。