三足土器
三足土器は、器体の底部に三つの脚(支脚)を備える土器であり、直火にかけやすく安定性に優れる調理・供献用容器である。中国新石器時代の黄河・長江流域で発達し、袋状の中空脚をもつ「鬲」や、実心円錐状の脚をもつ鼎系の土器など多様な亜型を生んだ。やがて青銅器の鼎・鬲に連続し、祭祀・威信の象徴としても位置づけられる。日本列島や朝鮮半島では限定的な受容にとどまるが、交易・文化接触の痕跡を読み解く鍵概念として重要である。
起源と分布
黄土地帯を中心とする華北の新石器文化において、強い還元炎で焼成された灰黒色系の土器群の中から三足土器が体系化した。黄河中流域の仰韶文化後期から長江下流域の精緻な土器・玉文化(たとえば良渚文化)に至る広域に変種が分布し、龍山系土器との接合部では薄手化・硬焼成化が進む。長江下流では河姆渡遺跡のように湿潤環境への適応を示す木製・骨製具と並行して、煮沸・蒸煮を前提とする脚付き器が供献具として用いられた可能性が高い。これらは広義の中国文明の形成期における食文化・宗教儀礼の地域差を可視化する資料である。
形態と分類
器形は、器腹と脚部の接合方法・脚断面・口縁部の成形で細分される。袋足(中空)型は熱効率に優れ、実心円錐脚は強度と施工性に利点がある。器腹は丸底からやや扁平へと推移し、口縁は外反・直立・内反など時期差が大きい。装飾は条痕・縄文・磨消痕・刻目が見られ、機能と審美の両面を担った。
- 鬲(れき):中空の袋足を三本備える煮沸用器。器腹下部に三つの隔壁状突起が連続。
- 鼎系土器:実心円錐脚を三本持つ。深鍋状で煮炊き・供献に適合。
- 板状脚・輪状脚:地域限定の派生型で、地盤条件や炉構造に対応。
用途と機能
三足土器の主機能は煮沸・煎じ・温保持である。三脚は不整地でも安定し、火床に隙間を確保して気流を通すため着火・加熱効率が高い。器底や脚に付着する煤・炭化残滓は使用痕として判別でき、宴会・配食・祖先祭祀など多用途に転用された。供献具としてのセット使用(壺・皿・盉との組合せ)も確認され、食器体系の中核を占めた。
調理実験と痕跡
実験考古学では、雑穀粥や肉湯を反復調理すると脚付近に温度勾配が生じ、器腹下帯で脂質の吸着・再炭化が進むことが示される。土器表面の微細なスパルレーション、内面の灰被膜、リム近傍の磨耗帯は反復使用に特有である。残存脂質分析により、粟・黍など雑穀に由来するバイオマーカーや動物性脂質の混在が検出される事例もある。
製作技法と焼成
成形は輪積み・貼り合わせを基本とし、脚は別作成ののちに内外から丹念に圧着する。脚付根は応力集中を避けるため厚肉化され、内面に補強の肋(リブ)を設ける例もある。胎土は砂・雲母片・藁などの混和材で熱衝撃に耐えるよう調整され、焼成は地上炉から半地下式窖窯まで幅が広い。表面仕上げは磨消縄文・スリップ塗布・ヘラ研磨が併用される。
年代判定と編年
三足土器は脚断面や口縁形態の微細な変異が時期指標となるため、層位と併せた編年に有効である。器高/器径比、脚長/器高比、リム角の推移は系列化しやすく、集落内の区画や炉跡・灰坑との関連から機能分化の時期も推定できる。放射性炭素年代の較正と出土環境の比較により、黄河中流の薄手灰陶段階と長江下流の黒陶段階の時間差が整理される。
儀礼性と象徴
土器段階の三足土器は、食の共同性を演出する器物であると同時に、のちの青銅器時代に顕在化する威信財の先駆である。鼎に継承された三脚の意匠は権威の視覚化に寄与し、「問鼎」の語に見られる政治的象徴性へと連続する。供献・祖先祭祀でのセット配置や、器壁への刻画・塗彩の選択は、共同体の記憶装置としての機能を反映する。
東アジア比較と日本列島
朝鮮半島では無文土器期に脚付器が点在するが、主流化はしない。日本列島の縄文・弥生社会では、土器は多様であるものの三脚制は稀で、支脚付の模倣器や持ち込み品が限られて確認されるのみである。むしろ稲作の導入と関連する煮沸器の変化は、炊飯技術・炉構造・燃料選択の差異として追跡される(稲作農業・黄土地帯・中国文明の発生の項参照)。広域比較は、政治形成・食文化・交換ネットワークの理解に資する(関連:中国の少数民族・漢民族)。