三平方の定理|直角三角形に潜む数学の美学

三平方の定理

三平方の定理は、直角三角形の3辺の長さの関係を表す定理である。直角を挟む2辺の長さをa、b、斜辺の長さをcとするとき、a2 + b2 = c2が成り立つ。ピタゴラスの定理とも呼ばれ、紀元前6世紀のギリシャの数学者ピタゴラスの名にちなむ。中学校の数学で第3学年に学ぶ内容であり、測量や建築、機械設計に至るまで、長さを扱うあらゆる場面で用いられている。

古代文明に残る足跡

この関係を最初に発見したのがピタゴラスだったかどうかは、実のところ定かではない。バビロニアの粘土板「プリンプトン322」(紀元前1800年頃)には、3辺の比が整数になる組が15行にわたって刻まれており、ピタゴラスより1000年以上前に、すでにこの種の数が知られていたことを示している。古代エジプトでは、縄を3:4:5の比に結んで直角を作り、ナイル川の氾濫後に農地を測り直したと伝えられる。中国では『周髀算経』に「勾股定理」として記され、日本では江戸時代の和算家が「鉤股弦の法」と呼んで研究した。

定理の内容と式の意味

直角三角形の斜辺を一辺とする正方形の面積は、他の2辺をそれぞれ一辺とする正方形の面積の和に等しい。これが定理の幾何学的な意味である。式で書けばa2 + b2 = c2となる。斜辺の長さを求めたいときはc = √(a2 + b2)、他の辺を求めたいときはa = √(c2 − b2)と変形すればよい。たとえばa = 3、b = 4であれば、c2 = 9 + 16 = 25となり、c = 5と求まる。

代表的な証明方法

証明の数は極めて多く、アメリカの数学者E.S.ルーミスが1927年に刊行した著書『The Pythagorean Proposition』には、371通りが収録されている。代表的なものを下の表にまとめる。

証明の名称 考え方 特徴
正方形の面積による証明 1辺a + bの大正方形を、合同な4つの直角三角形と小正方形に分割する 中学校の教科書で標準的に扱われる
相似による証明 斜辺への垂線で3つの相似な三角形を作り、辺の比を比較する 代数的な処理で完結する
ユークリッドの証明 『原論』第1巻命題47。三角形の面積の等しさを積み重ねる 紀元前300年頃の古典的な論法
ガーフィールドの証明 台形の面積を2通りに表して等置する 第20代米国大統領J.A.ガーフィールドが1876年に発表

ピタゴラス数の世界

a2 + b2 = c2を満たす自然数の組をピタゴラス数という。(3, 4, 5)、(5, 12, 13)、(8, 15, 17)、(7, 24, 25)などが知られる。mとnをm > nの自然数とすれば、(m2 − n2, 2mn, m2 + n2)の形で無数の組を生成できる。m = 2、n = 1なら(3, 4, 5)、m = 3、n = 2なら(5, 12, 13)である。

現場での使いどころ

建築現場では、基礎の墨出しや直角の確認に3:4:5の比が今も使われる。たとえば3m、4m、5mの位置に印を付け、対角が5mになれば直角が出ている。高価なトータルステーションを用意せずとも、メジャー1本で済む点が重宝される。機械加工の分野では、図面に直角方向の寸法しか記載されていない斜め穴の中心間距離を、この定理で逆算する場面が多い。たとえば縦30mm、横40mmに位置する2つの穴の中心距離は50mmとなる。

空間への拡張

定理は平面に限らない。直方体の対角線の長さdは、3辺の長さをa、b、cとしてd = √(a2 + b2 + c2)で表される。縦3、横4、高さ12の直方体なら対角線は13である。座標平面上の2点間の距離の公式も、この定理から直接導かれる。さらに一般化すれば、ベクトルの内積やユークリッド空間のノルムへとつながる。

余弦定理との関係

任意の三角形について成り立つ余弦定理c2 = a2 + b2 − 2ab cos Cは、C = 90°でcos C = 0となり、三平方の定理に一致する。つまり三平方の定理は余弦定理の特別な場合である。

逆の成立と応用

三角形の3辺についてa2 + b2 = c2が成り立てば、その三角形は辺cを斜辺とする直角三角形である。これを三平方の定理の逆という。辺の長さだけから直角かどうかを判定できるため、2辺の長さがわかっているだけの図形でも検証が容易になる。フェルマーの最終定理は、指数を3以上にした場合にan + bn = cnを満たす自然数解が存在しないと主張するもので、1995年にアンドリュー・ワイルズが証明した。

無理数の発見と代表的な値

一辺が1の正方形の対角線は√2となる。この値が分数で表せないことは、ピタゴラス学派にとって衝撃であったと伝えられている。無理数の存在がこの定理から導かれたわけである。中学校の入試や平方根の学習では、次の値を覚えておくと計算が速い。

  • 正方形の対角線:一辺の√2倍(約1.414倍)
  • 正三角形の高さ:一辺の√3/2倍(約0.866倍)
  • 30°、60°、90°の直角三角形:辺の比は1:√3:2
  • 45°、45°、90°の直角三角形:辺の比は1:1:√2
  • JIS P 0138のA4判紙(210mm × 297mm):対角線は約363.7mm

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