ラップ仕上げ|平面度・粗さをサブミクロンで管理

ラップ仕上げ

ラップ仕上げは、平坦度と表面粗さを同時に高度化する仕上げ加工であり、鋳鉄やセラミックなどのラッププレート上で遊離砥粒をスラリーとして介在させ、工作物と相対運動させることで微小切削・塑性流動・微破砕を生じさせる工程である。研削やホーニングよりも低い加工圧・低速で、サブミクロン級の平面度やRa 0.01μm級の鏡面を狙える。機械シールリング、ゲージブロック、バルブシート、光学部品、セラミックス部材、超硬工具座など、平面度・平行度が品質の本質となる部位で広く用いられる。

定義と目的

ラップ仕上げは、遊離砥粒(Al₂O₃、SiC、ダイヤモンド等)を含むスラリーと、微小な凹凸を有するラッププレートとの三体摩耗を利用して微量除去を行う加工である。目的は、(1)平坦度の向上、(2)表面粗さの低減、(3)平行度・厚みばらつき(TTV)の抑制である。研磨(ポリッシング)が光沢や最終鏡面の創成を主眼とするのに対し、ラッピングは幾何学精度(平面度・平行度)を厳密に作り込む点に強みがある。

仕組みと除去メカニズム

砥粒はプレート表面に半埋没して切れ刃として働く成分と、スラリー中を浮遊して転がり・擦過する成分に分かれる。工作物表面の微小突起が砥粒によって剪断・微破砕され、表面が均される。除去速度は、おおむね面圧Pと相対速度Vに比例し、同じ条件でも材料(硬さ、靱性、化学親和性)により係数が異なる。砥粒径が大きいほど除去能は上がるが、スクラッチ痕のリスクが増すため、工程内で粒度を段階的に微細化するのが定石である。

Prestonの式と経験則

実務では除去量(MRR)をMRR=k・P・Vと近似する「Prestonの式」を手掛かりに初期条件を設計する。ここでkは材料・砥粒・プレート・スラリーの組合せで決まる係数である。P(面圧)を上げると平面化は進むが、エッジロールオフやスクラッチの危険が増す。V(相対速度)を上げると能率は上がるが、発熱・乾き・スラリー膜破断を招きやすい。定常流のスラリー供給で潤滑膜を維持し、温度上昇と乾きの回避が重要である。

装置構成と方式

装置は片面ラップ盤と両面ラップ盤に大別される。主要構成はラッププレート(鋳鉄、銅、樹脂結合体、セラミック)、コンディショニングリング、キャリア(ワーク保持)、スラリー供給系、回転駆動である。鋳鉄プレートは保持と切れ味のバランスに優れ、ダイヤモンドスラリーとの相性もよい。コンディショニングリングはプレートの目直しと平面保持に用い、幾何学的安定性を保つ。

片面・両面の運動学

片面はプレート上でワークをリングや治具で走行させ、均一な走査を与える。両面は上下2枚のプレートで同時に挟み、キャリアの惑星運動で両面同時に平行度を作り込む。両面はTTV低減に有利で、量産部品の厚みバラつき管理に適する。

砥粒とスラリー

  • Al₂O₃:鉄鋼・SUS・一般金属に多用。#1000〜#8000(粒径1〜10μm)で段階的に微細化。
  • SiC:硬質材向けの標準砥粒。#600〜#3000(3〜30μm)で粗〜中仕上げ。
  • ダイヤモンド:超硬、セラミックス、ガラス等の高硬度材に有効(0.1〜6μm)。
  • 媒体:水系は洗浄性と環境性に優れ、油系は潤滑・スクラッチ低減に寄与。
  • 運用:ワンパス(使い捨て)か循環ろ過(1〜5μm級フィルタ)。過粗粒の混入防止が要点。

スラリー濃度は薄すぎると切れ味不足、濃すぎると摩擦・発熱とスクラッチが増える。工作物・プレート・目の状態に合わせて最適域を探るのがラップ仕上げの肝である。

達成可能な精度と評価指標

  • 表面粗さ:Ra 0.03〜0.01μm程度(材料・砥粒に依存)。
  • 平坦度:φ100mmで1μm級、条件が揃えば数百nm級。
  • 平行度・TTV:両面ラップで数μm以下への収束が可能。
  • 規格:表面性状の表記はJIS B 0601等の定義に従う。

評価は触針式・光学式の粗さ計、光学フラットや干渉計による縞観察で行う。縞の直線性・間隔から平面度を読み取り、測定面の清浄度を確保する。

工程設計(条件出しと管理項目)

  • 面圧P:5〜30kPaを目安に調整。高すぎるとエッジロールオフ、低すぎると能率不足。
  • 相対速度V:プレート回転・キャリア回転の組合せで設計。局所滞留を避ける走査。
  • スラリーQ:定常供給で乾き防止。循環時は濾過と温度管理。
  • 粒度ステップ:粗→中→仕上げ(例:#800→#1500→#4000)。
  • 温度管理:発熱は平面度劣化の原因。クーラントや休止で制御。

初期は粗粒で形状誤差を均し、工程後半で粒度を落として粗さを整える。各ステップで洗浄を徹底し、粗粒の持ち込みを遮断することがラップ仕上げの安定再現性に効く。

品質管理と測定法

  • 粗さ・平面度:サンプル頻度を定め、規格値・管理図でトレンド監視。
  • 清浄度:工程間洗浄(超音波+界面活性剤)と乾燥で異物再付着を抑制。
  • 寸法:厚み・TTV・平行度を非接触・接触の両測器でクロスチェック。

プレートのドレッシング/コンディショニング

ダイヤモンドドレッサやSiCで目直しし、プレートの平面・目の開き(テクスチャ)を回復する。ドレッシング不足はうねり・多角縞・スジの原因となるため、定期運用が必要である。

欠陥事例と対策

  • スクラッチ:過大粒子混入、過荷重、乾き→濾過強化、供給増、P低減。
  • ピット/ポーリング:脆性材での局所破砕→粒度微細化、P・V低減。
  • 曇り/ヘーズ:化学反応や汚染→スラリー見直し、洗浄性改善。
  • エッジロールオフ:端部の過研磨→走査改善、治具見直し、P分布均一化。
  • オレンジピール:プレート目詰まり→ドレッシング、スラリー更新。

欠陥はプレート状態、スラリー清浄度、P・V・Qの整合性で大半が制御できる。工程内のフィードバックループを設けて早期是正する。

材料別の要点

  • 炭素鋼・SUS:Al₂O₃主体、水系スラリー。腐食抑止を配慮。
  • 超硬・SiC・Si₃N₄:ダイヤモンド必須。低P・安定Qでスクラッチ抑制。
  • アルミ・銅:軟質で砥粒の埋没・引きずりに注意。軟らかいプレートと微粒で運用。
  • ガラス・光学材:ダイヤ微粒で平面度を作り、必要に応じてポリッシングへ接続。

材料特性(硬さ、靱性、化学反応性)に合わせ、砥粒種・粒度・媒体とプレートの組合せを最適化するのがラップ仕上げの設計思想である。

安全・環境とコスト

微粉体スラリーはエアロゾル化を避け、PPEを使用し、漏洩時は速やかに拭取り・回収する。循環運用時はフィルタ詰まりと菌繁殖を監視し、廃スラリーは法規に沿って適正処理する。消耗は砥粒・プレート・フィルタに現れるため、単位除去量当たりコストで工程を評価し、最小総コスト点を探る。

関連加工・周辺用語

  • 研削加工:切れ刃確定の二体摩耗中心で能率に優れる。
  • ホーニング:円筒内面などの幾何修正と表面性状整えに有効。
  • ポリッシング:化学機械作用で最終鏡面を狙う(CMP含む)。
  • バフ仕上げ:柔軟工具で光沢付与。寸法・平面度の作り込みは限定的。

ラップ仕上げは、これら周辺加工と組み合わせることで、形状創成から幾何精度の追い込み、最終光沢までの一貫プロセスを構築できる。工程境界での洗浄・検査を要に据え、一貫した面品質を確保することが要諦である。