ボーリングヘッド|オフセット調整で高精度内径仕上げ

ボーリングヘッド

ボーリングヘッドは、フライス盤やマシニングセンタに装着し、既存の下穴を所定の寸法・幾何精度に内径仕上げするための可変偏心式ツーリングである。刃物座を微調整ねじで半径方向へ移動させる構造を持ち、直径の微細な補正が可能である。ボーリング加工はリーマ仕上げでは達しにくい同軸度・真円度・円筒度や面粗さの要求に応え、量産から多品種少量まで幅広く用いられる。主軸インターフェースはBTやHSK、ストレートシャンクなどがあり、CNC機での自動化にも適する。

構造と機能

本体はヘッド本体、スライド(キャリッジ)、微調整ねじ、ロック機構、カートリッジ(刃物座)で構成される。微調整ねじの最小目盛は一般に1目盛あたり半径方向で数μmオーダであり、直径変化量は偏心量の2倍となる(D変化=2e)。高精度品ではゼロ戻しやダイヤルインジケータ、デジタル表示を備え、繰返し精度の高い調整が可能である。チップはISO形状のインサートを用い、ワイパ刃で面粗さを向上させる。

種類(ラフ・ファイン・特殊)

荒加工用(ラフ)ボーリングヘッドは高送り・大切込みに対応し、切りくず排出性と剛性を重視する。仕上げ用(ファイン)は微小送りと微調整を軸に、Ra 0.4〜1.6程度の面粗さと厳しい径公差に狙いを定める。小径域にはマイクロボーリングヘッドがあり、φ6〜の範囲で1μm級の設定が可能である。長突き出し用途向けには制振(アンチバイブレーション)機構付きがあり、共振を避けてビビリを抑える。

取り付け規格とモジュラシステム

主軸側はBT-30/40/50、HSK-A63などが一般的で、現場のツールプリセッタと連携して段取り時間を短縮する。先端側はモジュラ式で、エクステンション、アダプタ、ブリッジ、カートリッジを組み合わせて径・長さを最適化する。位置決めはテーパ+キーや精密ねじ・面合わせ等で高い繰返し精度を確保する。

刃先とチップの選定

被削材が炭素鋼・合金鋼・鋳鉄・アルミ合金などで異なるため、母材(超硬・サーメット・CBN等)と被膜(TiAlN、AlTiNなど)を使い分ける。ノーズRは仕上げ粗さとコーナ強度のトレードオフで決め、Rが大きいほど面は滑らかになるが切削抵抗も増す。鋳鉄にはネガランドやホーニング、アルミにはポリッシュ刃先と鋭利なすくい角が有効である。

芯出し・バランス・剛性

ホルダのフェースランアウトとヘッドの同心度をダイヤルゲージで確認し、主軸テーパー・プルスタッド・フランジ面の清浄を徹底する。高速回転では動バランス不良がビビリ・面荒れ・主軸負荷増大を招くため、対向ウェイトやバランススクリュで調整する。突き出し比L/Dは小さく保ち、やむを得ず長い場合は送り・切込みを落として剛性不足を補う。

切削条件の考え方

周速は被削材・チップに依存するが、鋼でおおむね80〜180 m/min、鋳鉄で80〜200 m/min、アルミで200 m/min超が目安となる。送りは1回転当たり送りfnを用い、荒で0.10〜0.40 mm/rev、仕上げで0.02〜0.12 mm/rev程度から試行する。切込みは半径方向apで管理し、仕上げはapを小さく一定に保つ。クーラントは切りくず排出と熱安定に有効だが、極小apでは断続を避けるためミストや低圧が安定する場合がある。

精度管理と公差

一般にIT7〜IT8程度の径公差と良好な真円度・円筒度を狙える。微調整は「半径で合わせ、直径に効く」点を運用に徹底し、半径方向1μmの調整は直径2μmの変化になる。温度上昇はヘッド・ホルダ・ワークの熱膨張を招くため、連続加工ではワーク計測のタイミングを一定化し、補正量を小刻みに適用する。面粗さは刃先の逃げ面摩耗とワイパ有無で大きく変化する。

段取りと測定

プリセッタで刃先高さとオフセットを合わせ、機上では基準穴で試し削り→内径ゲージ(2点式・3点式)で測定→微調整→本番の順に進める。深穴では途中リトラクトと切りくず排出、エアブロー併用で再切削を避ける。端面からの逃げ量や干渉も重要で、ヘッド径、ネジ頭、カートリッジの出っ張りを図面で事前に確認する。

トラブルシューティング

代表的な不具合はビビリ、テーパ穴、ラッパ形状、面荒れ、寸法ばらつきである。原因は過大な突き出し、バランス不良、主軸・ホルダの汚れ、刃先摩耗、過大送り・周速不適、切りくず噛み込みなどが多い。以下の基本対策を順に適用すると安定を得やすい。

  • 突き出し短縮と制振ホルダの採用、クランプねじの増し締め
  • 周速の低減→送りの最適化(仕上げはfnを小さく)、apを一定化
  • 動バランスの再調整、対向ウェイト位置の見直し
  • 刃先交換・ホーニング見直し、ワイパ刃の活用
  • 切りくず排出の強化(エア・スルークーラント・逃げ溝の確保)

安全と保全

主軸停止・機械ロック下で調整し、ロックねじの締結忘れを防止する。プルスタッド規格適合の確認、テーパー面の防錆と清掃、微調整ねじの潤滑、ダイヤル・デジタル表示のゼロ点管理を定期的に実施する。保守履歴を残し、寸法補正量と工具寿命を見える化すると再現性が向上する。

適用範囲と限界

一般に中大径域の精密内径仕上げで威力を発揮し、座ぐり面との同軸や段穴の仕上げにも適する。一方、極小径や超深穴では工具剛性と切りくず排出が制約となるため、制振バーや段階加工、下穴公差の厳守など周辺要素を総合的に設計することが重要である。適切なヘッド選定と条件最適化により、ボーリングヘッドは高い寸法安定と良好な面品位を長期にわたり提供し得る。