ホールセンサ
ホールセンサは、磁束密度Bと電流Iが直交する半導体に生じるホール電圧VHを利用し、磁場・位置・回転・電流を非接触で検出する磁気センサである。素子自体は小型で耐塵・耐油に強く、光学部品を要さないため長寿命で、回転体のゼロスピード検出や絶縁型電流計測にも適する。産業機械や家電、車載の回転検出ではエンコーダと併用されることがあり、異物や油煙が多い環境では光学式のフォトインタラプタより保守性に優れる場合がある。
原理(ホール効果)
ホール効果は、キャリアが流れる導電体に外部磁束密度Bが垂直に印加されるとローレンツ力によりキャリアが偏向し、電流Iの流路と直交方向に電位差VHが生じる現象である。理想化すると VH=(RH・I・B)/t で表され、tは素子厚み、RHはホール係数(おおむね 1/(q・n))である。高ドーピング半導体は感度が高いが温度ドリフトが増える傾向があるため、IC化ではチョッパ安定化やオフセットキャンセルで補償する。
構造と材料
ホールセンサのコアはクロス形状のホール素子で、材料はInSb・InAs・GaAs・Siなどが用いられる。近年はCMOSプロセス上にホール素子、低ノイズアンプ、A/D、コンパレータ、温度補償回路を一体化した「Hall IC」が主流である。軸感度はX/Y/Zのいずれかに定義され、パッケージのオリエンテーションマークで磁場印加方向を管理する。
パッケージと実装
SOT-23やSOICなどの小型パッケージが一般的である。空隙(エアギャップ)や傾きは感度と直線性に直結するため、治具でギャップ再現性を確保する。磁気シールドやヨークで漏れ磁束を制御し、ストレイ磁場の影響を低減する。
動作方式
- リニア型:出力がBに比例する。オフセットと感度S(mV/mTやLSB/mT)を持ち、電流検出や角度・距離のアナログ計測に用いる。
- スイッチ型:設定しきい値を超えるとON/OFFを出力する。単極(N極のみ検出)、双極(N/S双方でオン/オフを分離)、オムニポーラなどがある。
- ラッチ型:着磁極性で状態を記憶するため、BLDCのロータ位置検出に適する。
- 電流センサ型:磁気回路にギャップを設けホール素子を配置し、導体電流の周回磁場を絶縁のまま検出する。
主要特性と指標
- 感度・直線性:ダイ上のばらつきや温度で変化する。校正でゲイン・オフセットを補正する。
- オフセット・ドリフト:温度係数(ppm/℃)で規定。チョッパ安定化で低減可能。
- ヒステリシス:スイッチ型ではチャタ抑制に有効。過大だと位置分解能が悪化する。
- 帯域幅:数百Hz〜数十kHz程度が一般的。高速回転計測では帯域とS/Nの最適化が要る。
- 雑音:1/fノイズと熱雑音が支配的。フィルタ設計と平均化でS/Nを稼ぐ。
- 電源・消費:1.8〜5V級、数mA以下の低消費電流品が普及。低電圧起動とリップル耐性を確認する。
回路とノイズ対策
リニア出力は低ノイズアンプとローパスで平滑し、必要ならΔΣ型ADCで高分解能化する。スイッチ型はオープンドレイン出力が多く、プルアップの定数と負荷容量でエッジを整える。EMI/ESD対策としてTVSダイオード、RCスナバ、グラウンドパターンの帰還経路短縮が有効である。粉塵・油煙環境では光学式より保守点が少なく、回転体の原点検出でも有利となる。
キャリブレーション
2点または多点のB印加でゲイン/オフセット/直線性を補正し、温度チャンバーで温度係数を取得してソフト補償する。治具は磁石位置とギャップの再現性を±0.05mm程度で管理すると良い。
設計要点(磁石・ギャップ・幾何)
磁石はNdFeBやフェライトが一般的で、着磁方向(軸・径方向)と形状でB分布が変わる。エアギャップが大きいほどBは急減し、微小なセンシング領域では擬似的に距離の3乗則的に低下することが多い。ヨークで磁束を集束し、素子の感度軸と磁束線を平行に近づける配置が基本である。回転検出ではギア歯やマグネットホイールのピッチと素子間隔で出力ハーモニクスが決まる。
代表的な用途
- BLDC位置検出:ラッチ型でロータ極を検出し、通電位相を決める。異常時は振動センサで状態監視を補完する。
- 速度・回転:ギヤ歯車やスプロケットの通過磁場を検出し、ゼロスピードでも動作する。
- 絶縁電流計測:バスバー周りに磁気回路を組み、リニア型で電流波形を取得する。
- 位置・近接:スライダ位置、扉開閉、液面フロートの磁石追従など。
- 車載:車輪速、クランク/カム、ペダル・シート・シフタ位置など(AEC-Q100対応品を選定)。
- 計測・制御:モータ制御で加速度センサやジャイロセンサと組み合わせ、状態推定を行う。
他技術との使い分けの要点
ホールセンサは光を使わないため、粉塵・油煙・水滴環境で有利である。反面、外乱磁場の影響を受けうるため、金属構造での磁気シールドや差動配置での耐性向上が有効である。角度・回転の高分解能化には多極マグネットと差動リニア型の組合せや、同一機器内でエンコーダを併用する設計がある。力計測ではロードセル、圧力では圧力センサ、流量では流量センサのように、物理量に適合した変換原理を選ぶ。
規格・信頼性・安全
車載用途ではAEC-Q100やISO 26262での安全要求に適合したデバイスが用いられる。自己診断(基準磁場注入、出力監視)、過/逆接保護、広温度範囲(−40〜150℃級)、ESD(HBM/CDM)耐性が評価点となる。プリント基板ではクラックやはんだ応力でオフセットが変動しうるため、スリットやスティッフナーで応力を逃がす。
導入時チェックリスト
- 必要帯域とS/N、ゼロスピード要否、温度範囲を定義する。
- 磁石の材質・着磁・寸法、公差とエアギャップの再現性を見積もる。
- 差動配置・シールド・ヨークで外乱磁場と機械許容を両立させる。
- ゲイン/オフセット/温度補償の校正フローを量産ラインに組み込む。
- EMC・ESD・環境試験(熱衝撃、振動)を回路と合わせて評価する。
- 必要に応じて振動センサやフォトインタラプタ、回転子検出ではエンコーダと役割分担する。
ホールセンサは、単純なしきい値スイッチから高精度アナログ計測まで適用範囲が広く、堅牢性と実装自由度の高さから工業・車載・家電で標準的な選択肢となっている。設計では幾何と磁場分布の整合、ドリフト補償、外乱磁場対策、量産校正の4点を先に固めることが成功の近道である。