ホイートストンブリッジ
ホイートストンブリッジは、4個の抵抗を菱形に配置し、対向する2点間の電位差を零に調整することで未知抵抗を高精度に求める電気計測回路である。電源から2本の枝(R1–R2とR3–Rx)に電流を分け、中央の検出器(電圧計やガルバノメータ、差動アンプ)で橋の不平衡電圧を観測する。平衡(ブリッジ・バランス)時には検出器に電流が流れず、比の等式 R1/R2 = R3/Rx が成立するため、未知抵抗 Rx = (R3·R2)/R1 または Rx = (R2/R1)·R3 として求まる。直流計測の基本構成であり、標準抵抗と比較する相対測定なので供給電圧の絶対値に依存しにくく、高い再現性と精度を得やすい。
原理と平衡条件
菱形の上側ノードをA、下側をB、左中点をC、右中点をDとする。電源はA–B間、検出器はC–D間に接続する。C点電位は分圧 Vc = Vs·R2/(R1+R2)、D点電位は Vd = Vs·Rx/(R3+Rx) で与えられ、ブリッジ電圧 Vcd = Vc − Vd となる。平衡は Vcd = 0、すなわち R1/R2 = R3/Rx を満たす状態である。分流や内部抵抗の影響が無視できる理想条件では、平衡時の検出器電流は0であり、検出器の抵抗値に計算結果は依存しない。これにより標準抵抗の精度がそのまま未知抵抗の精度に反映される。
ブリッジ電圧と感度
不平衡時の出力は Vout = Vs·(R2/(R1+R2) − Rx/(R3+Rx)) で表せる。Rx が平衡点近傍で微小変化 ΔR だけ変動するときの感度は、近似的に dVout/dRx ≈ −Vs·R3/(R3+Rx)^2 で与えられ、R1:R2 を R3:Rx に近づけるほど直線性と感度が向上する。ひずみゲージなどの微小な相対抵抗変化(ΔR/R)が対象の場合、Vout はおおむね Vs に比例し、ブリッジ各辺のマッチング(公差・温度係数)が感度のばらつきと零点ドリフトを左右する。差動アンプで検出し、同相成分を抑えると微小信号でも高いS/Nで測定できる。
抵抗測定の手順
- 既知の標準抵抗 R1, R2, R3 を準備し、測定対象を Rx に接続する。
- 電源 Vs を投入し、検出器(高入力インピーダンスの電圧計またはガルバノメータ)をC–D間に接続する。
- R1–R2 または R3 を可変抵抗として調整し、検出器指示が零(Vout ≈ 0)となる点を探す。
- 平衡点での各抵抗値を読み取り、Rx = (R2/R1)·R3 を計算する。
- 必要に応じて反転配置(枝の入れ替え)で再測定し、平均をとって系統誤差を抑える。
誤差要因と対策
主な誤差は(1)抵抗の許容差と温度係数(TCR)、(2)配線・接点抵抗、(3)検出器の有限入力抵抗、(4)電源のリップルと雑音、(5)熱起電力(熱電対効果)である。対策として、同一TCR・高精度(0.1%以下)の金属皮膜抵抗を採用し、温度を安定化する。低抵抗測定では4端子法(ケルビン接続)でリード・接点の影響を分離する。検出器は高入力インピーダンスの計装アンプを用いてブリッジ負荷を小さくする。配線は左右対称・ツイスト・シールドで熱起電力と磁界誘導を抑え、ゼロ点を正負両側から追い込むことで熱起電力のオフセットを打ち消す。
応用:ひずみゲージブリッジ
ホイートストンブリッジはひずみゲージの読み出しに広く用いられる。ゲージの相対抵抗変化は ΔR/R ≈ GF·ε(GFはゲージ係数、εはひずみ)であり、クォータブリッジ(1アクティブ)、ハーフブリッジ(2アクティブ)、フルブリッジ(4アクティブ)の構成を選ぶ。フルブリッジでは感度が最大で温度ドリフトや曲げ成分の打ち消しが可能になる。励起は定電圧または定電流とし、計装アンプで差動増幅してA/D変換する。リードワイヤ補償として3線または4線方式を用いると、配線抵抗の温度依存を抑えられる。温度補償用ダミーゲージを対辺に入れるのも有効である。
低抵抗・高抵抗への拡張
ミリオーム級の低抵抗はリード・接点の影響が支配的となるため、4端子のケルビン二重ブリッジ(Kelvin double bridge)を用いる。これは標準抵抗側にも4端子接続を採用し、比較経路と電流供給経路を分離して接触抵抗の誤差を除去する。一方、メガオーム級の高抵抗では漏れ電流と表面汚染が問題となるため、ガードリングと高絶縁材を用い、湿度管理とクリーンな端子処理を行う。検出器には超高入力インピーダンスのエレクトロメータや電荷増幅器を使い、微小電流の影響を抑制する。
ACブリッジとインピーダンス測定
交流励起を用いると、抵抗だけでなくインダクタンスやキャパシタンスを含む複素インピーダンスを精密に比較できる。代表例としてMaxwellブリッジ(L–Rの測定)、Hayブリッジ(高Qコイル)、Wienブリッジ(Cの測定と周波数基準)がある。平衡条件はベクトルで成立させる必要があり、位相を含む2条件を満たすよう2つの可変要素で調整する。同期検波とロックイン検出を併用すれば、雑音に埋もれた微小不平衡成分を高感度に抽出できる。
実装上の設計要点
- マッチング:R1–R2、R3–Rxは比精度が支配的。トリム可能な精密抵抗ネットワークを用いる。
- 励起:Vsは安定な低雑音源。自己発熱を避けるためブリッジ消費を見積もり、ゲージでは数十mW以下に抑える。
- 検出:計装アンプのCMRRと入力オフセット・ドリフトが零点安定性を決める。必要帯域だけを確保しローパスで雑音を抑制。
- レイアウト:差動配線の対称性、ツイスト、シールド、スター接地。熱勾配を避け、左右を同一環境に置く。
- デジタル化:ratiometric測定(励起とA/D参照を共有)で電源変動の影響を相殺。オフセット・ゲイン補正をソフトで再現性良く適用。
記号と式の注意
本稿では抵抗を R1, R2, R3, Rx、電源を Vs、検出出力を Vout とした。平衡式 R1/R2 = R3/Rx、出力式 Vout = Vs·(R2/(R1+R2) − Rx/(R3+Rx)) は理想条件の近似である。実際には配線抵抗、検出器の有限インピーダンス、温度依存、熱起電力が加わるため、4端子法、温度管理、差動増幅、同期検波などの実装的配慮を重ねて実用精度を確保することが重要である。さらに、用途に応じて直流型、交流型、ケルビン二重ブリッジを使い分けると、ホイートストンブリッジの特長である比測定の強みを最大限に生かせる。
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