フラックス除去|基板を守る仕上げ技術

フラックス除去

フラックス除去とは、はんだ付けやろう付けの工程で使用したフラックスの残渣を、洗浄によって基板や部材表面から取り除く作業を指す。フラックスは酸化膜を溶かして濡れ性を高める役割を担うが、反応後に残る成分の多くは吸湿性やイオン性を帯びており、放置すると絶縁抵抗の低下やマイグレーション、腐食の原因になる。とりわけ電子機器のプリント基板実装や自動車用電装品の分野では、残渣管理の巧拙が製品寿命そのものを左右する工程として位置づけられている。

除去工程が重視されるようになった背景

この工程の位置づけは、1990年代まで主流だった松脂系RMAフラックスの時代と、2000年代以降の鉛フリーはんだ移行期とで大きく変化してきた。RMAフラックスは活性度が高く濡れ性に優れる半面、洗浄を前提とした設計が一般的だった。鉛フリー化にともないウェーブはんだやリフローの加熱プロファイルが上昇し、フラックス自体の熱分解特性も変化したため、必要な洗浄条件は都度見直されてきた。近年は基板の狭ピッチ化が進み、部品直下のわずかな隙間に取り残されるブリッジ状の残渣をどう除くかが、新たな検討課題として浮上している。かつては洗浄液に塩素系溶剤を用いる例も多かったが、オゾン層破壊物質の規制強化を受けて1990年代後半以降は代替溶剤や水系洗浄剤への切り替えが急速に進んだ経緯もある。

ノンクリーンフラックスと洗浄要否の判断

ノンクリーンフラックスは残渣量が少なく、絶縁抵抗も規定値を満たすよう設計されているため、コンシューマ機器の多くは洗浄工程そのものを省いている。ただし、航空宇宙や医療機器、車載の高電圧回路といった高信頼性用途では、長期使用時の腐食リスクを避けるため洗浄を実施する例が少なくない。フラックスの分類ではROL0・ROL1のように残渣量やハロゲン含有量で区分されており、この分類そのものが洗浄要否を判断する材料になる。

洗浄方式の分類

洗浄方式は装置形態によっていくつかに分けられる。バッチ式は槽に部材を浸漬し、必要に応じて超音波を併用する方式で、多品種少量生産に向く。インライン式はコンベアで基板を搬送しながら噴流洗浄を連続的に行う方式で、量産ラインの歩留まり管理に適している。

  • バッチ式(浸漬洗浄と超音波の併用)
  • インライン式(コンベア搬送とスプレー噴流の組み合わせ)
  • スプレーインエア式(槽内で噴霧しながら洗浄する方式)
  • 蒸気脱脂式(溶剤蒸気による最終仕上げ洗浄)

超音波洗浄との組み合わせ

複雑形状の部品下に残った残渣を落とす際には、超音波洗浄機を併用する場合が多い。28〜40kHz帯のキャビテーションで隙間に入り込んだ残渣を剥離できる一方、細径ワイヤボンドやMEMSセンサを内蔵する部品では、キャビテーション圧が接合部にダメージを与える懸念がある。採用にあたっては部品メーカが定める許容周波数や出力の上限を事前に確認しておく必要がある。

洗浄剤の種類

洗浄剤はおおむね水系、半水系、溶剤系の三つに分けられる。水系は界面活性剤を添加した温水(55〜65℃程度)でロジン系残渣を分解するもので、廃液処理の負荷は大きいがランニングコストは低い。溶剤系はイソプロピルアルコール(IPA)やHFE系溶剤を用いる方式で、乾燥が速く微細な隙間への浸透性も高いが、消防法上の危険物管理や大気への揮発性有機化合物(VOC)排出への対策を要する。

規格による残渣清浄度の管理

残渣の許容レベルはROSE試験(Resistivity of Solvent Extract)やイオンクロマトグラフィーで定量化し、表面絶縁抵抗(SIR)試験とあわせて評価するのが一般的である。国内外には複数の規格が並存しており、用途や取引先の要求水準に応じて使い分ける必要がある。清浄度の合格ラインは業界や製品分野によって幅があり、車載電装品では一般民生機器よりも厳しい抵抗率基準を独自に設定する発注元も見受けられる。

規格 試験内容 評価指標
JIS Z 3197 抽出液の電気抵抗率測定 清浄度(MΩ・cm)
ISO 9455シリーズ フラックスの腐食性・活性度試験 酸価、ハライド含有量
IPC J-STD-001 はんだ付け全般の許容基準 残渣分類、外観判定

工程条件の設定

実務では洗浄温度60℃前後、浸漬時間3〜5分を起点とし、超音波を併用する場合はさらに3〜5分程度の追加処理を組み合わせることが多い。すすぎには抵抗率1MΩ・cm以上の純水を用い、乾燥は80〜100℃の熱風で水分を完全に飛ばす。乾燥が不十分だとスルーホールの内部やコネクタの隙間に水分が残留し、後工程での腐食やマイグレーションを誘発するため、乾燥炉内の温度分布を定期的に確認しておくとよい。

現場で生じやすい課題

  • LGAやBGAなど狭ギャップ部品の下面は残渣が抜けにくく、洗浄後の目視確認が難しい
  • アンダーフィル樹脂を充填する前段階での洗浄不足は、後工程でのボイド発生につながる
  • フリップチップボンダで実装した微小バンプの周辺は、超音波が届きにくい死角になりやすい
  • ろう接由来のホウ砂系フラックスは水溶性が高い半面、除去し残すと接合部表面の白色化を招く

洗浄工程の追加は設備投資とランニングコストの両方を押し上げるため、量産現場ではノンクリーンフラックス採用によるコスト削減と、洗浄工程維持による長期信頼性の確保とを、製品ごとの要求水準に照らして判断することになる。少量のリワークでは、はんだごてによる部分修正のあとに綿棒やフラックスペンでIPAを塗布し、手作業で残渣を拭き取るケースも珍しくない。自動洗浄ラインを通さない修正ほど、この手作業の丁寧さが最終的な絶縁信頼性を左右する。

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