バッテリーセルバランス
バッテリーセルバランスとは、多直列セルで構成されるパックにおいて各セルの電圧・充電率の偏差を抑え、過充電や過放電を防ぎ、有効容量と寿命を最大化するための制御・回路の総称である。セル個体差(容量、内部抵抗、自己放電、温度係数)や経年劣化により生じる不均一を、BMS(Battery Management System)が監視し、放電またはエネルギー移送で均一化する。均一化は電動車、定置蓄電、UPSなど大電力応用で必須の機能であり、信頼性・安全性・コスト・熱設計のバランスを取る設計判断が求められる。
目的と前提
セルは公称容量が同一でも、温度や製造ばらつきでSOC(State of Charge)が揃わない。最も電圧が高いセルが上限に達すると充電が止まり、最も低いセルが下限に達すると放電が止まるため、パックとしての可用容量が縮小する。バッテリーセルバランスは、このボトルネック化を抑えつつ、過電圧・過放電・熱暴走リスクを低減することを狙う。基礎としてセルのOCV–SOC特性、内部抵抗、温度依存性、自己放電を理解しておく必要がある。
- セル間ばらつきの原因:容量差、内部抵抗差、自己放電の差、温度分布、経年劣化(SOH)
- 監視信号:セル電圧、温度、電流、推定SOC・SOH
- 運用条件:充電中・静置中・放電中で最適なバランス条件が異なる
方式:パッシブバランス(抵抗消費型)
パッシブ方式は、電圧の高いセルにシャント抵抗を接続し、余剰電荷を熱として消費して追従させる単純・低コストの手法である。回路はMOSFET+抵抗が基本で、制御は電圧しきい値とヒステリシスで駆動する。利点は部品点数が少なく堅牢である点、欠点は効率が低く発熱が大きい点である。実務では平衡電流(例:50–200 mA級)の選定、抵抗の定格・熱拡散、バランス動作の開始/停止電圧、タイムアウト保護を設計する。
- 熱設計:消費電力はP=I^2RまたはP≈V×Iで見積もり、周辺部品や基板の温度上昇を評価する
- 動作点:Top-of-Charge(満充電近傍)での電圧しきいによりバランスを優先すると、充電終盤の時間延伸とトレードオフ
- ノイズ対策:スイッチング遷移のdV/dt抑制、検出配線のツイスト・ケルビン接続、EMC配慮
方式:アクティブバランス(エネルギー移送型)
アクティブ方式はエネルギーを高電位セルから低電位セルへ移送する。セル間直結型(キャパシタスワップ、インダクタ/トランス結合)、集中型(セル→バス→セルの二段DC-DC)など多様である。効率が高く大容量パックに適する一方、回路が複雑でコストが上がり、制御も高度化する。等化電流は数百mA〜数A級まで取り得るが、配線・絶縁・冷却の制約が支配的になる。
- セルtoセル:近接セル間の短距離移送で配線損失が小さい
- 集中型:モジュール間のエネルギー再配分が容易でスケーラブル
- 効率:パッシブ比で損失が小さく、長時間の均等化で優位
制御アルゴリズムと発動条件
単純な電圧差トリガから、電流積算(クーロンカウンタ)とOCV参照、温度補償、さらにはフィルタ(EKF/UKF)によるSOC・SOH推定まで幅がある。開始条件は「最大–最小セル電圧差が閾値超過」「特定セルが上限近傍」「静置N分経過でOCV安定」などを組み合わせる。終了条件は差分収束、タイムアウト、温度上限、充電段階の遷移等で決める。誤動作を避けるためヒステリシスとデューティ制御を併用する。
- 検出:ノイズに強い多点サンプリングと移動平均
- 判断:電圧差・推定SOC差・温度差の複合条件
- 制御:PWMで等化電流を制限し熱暴走を防止
設計要点(熱・安全・レイアウト)
抵抗消費型では発熱源の配置と放熱パターン、近傍部品の温度定格、難燃材の採用が要点である。アクティブ型では磁性部品の損失、スイッチング損、アイソレーション、絶縁距離(クリアランス/クリープ)、フォールト時のエネルギー経路を明確化する。高電圧スタックではアイソレーテッド通信、センス配線の共通インピーダンスに注意する。基板はセル計測アナログ部とパワー部を分離し、リターンのループ面積を最小化する。
評価と妥当性確認
評価指標は「等化時間」「等化損失(Wh)」「到達ばらつき(mV)」「温度上昇」「動作率」である。セルシミュレータやHILを用いてコーナー(低温・高温・経年模擬・容量不一致)を検証し、ログからセル毎の収束挙動を確認する。実機セルでは静置後のOCV再測定で見かけの均一化と真のSOC均一化を区別する。サービス運用では保守時のセル交換や容量選別の手順と整合させる。
適用場面と運用戦略
電動車は充電終了間際での等化を重視し、定置蓄電は夜間アイドル時間を活用して深い均一化を行う。長期保管や輸送では中間SOCでの微弱等化によりセル偏差を拡大させない。劣化セルが混在する場合、パッシブだけでは追随が困難となるため、アクティブ併用やセル選別の再設計が必要である。関連してサイクル寿命やカレンダー寿命の管理方針と一貫させることが重要である。
関連概念と参考トピック
高レート充電時の電圧上昇や発熱はCレートに依存し、過放電は極端な偏差と劣化を招くため深放電に注意する。セル界面の化学的安定はSEI膜の形成と変化に関係し、外部インタフェースや充電設備の仕様はAC充電器、急速充電規格のCHAdeMOやCCS理解と合わせて設計する。これらを総合してバッテリーセルバランスの制御目標を設定し、パックの安全性・効率・寿命の最適化を図るべきである。