バイメタル|温度差で湾曲する二層複合金属

バイメタル

バイメタルは、熱膨張係数の異なる2種類の金属を積層一体化させ、温度変化に応じて曲がる機械的たわみを利用する要素である。温度によって生じる曲率をスイッチ動作や微小な位置変位に変換でき、電動機の過熱保護、家庭用サーモスタット、熱リレー、温度計などで広く用いられる。電源や計測回路を必要とせず、構造が簡単で信頼性が高いことが特長である。

定義と働き

バイメタルは高CTE側と低CTE側の2層から成り、温度上昇時には高CTE層がより大きく伸びるため、低CTE側へ凸となる方向に曲がる。この可逆的たわみを機械接点やバネ機構に結合し、一定温度でオン・オフする温度スイッチや、連続変位として読み取る指示計へ変換する。電気−機械変換素子としては古典的だが、現在も堅牢な一次安全機構として重宝されている。

熱膨張差による変形の原理

2層板の曲率は、おおよそ「Δα×ΔT」と板厚比・弾性率比の関数で決まる。薄いほど敏感に曲がり、厚いほど剛性が増す。繰返し温度サイクルでも弾性域内であれば再現性は高いが、長期にはクリープや残留応力の緩和がわずかに生じるため、設計では安全側のマージンを確保する。

材料構成と特性

代表例は低CTEのインバー系合金と高CTEの黄銅・銅合金の組合せである。高CTE側は導電性・加工性・耐食性、低CTE側は寸法安定性と弾性限を重視する。使用温度域により、耐酸化性や磁性の影響も考慮する。接点用途では表面硬化や貴金属めっきと組み合わせ、接触抵抗と溶着のバランスを最適化する。

形状と機構のバリエーション

バイメタルの代表形状は帯板とスナップ動作を持つ円板である。帯板は連続的なたわみを得やすく、円板は臨界点で急峻に反転しヒステリシスを確保しやすい。前者は指示計や熱補償、後者は温度スイッチに多用される。固定はリベットやボルト締結、溶接・ろう付けなどで行い、熱抵抗と機械拘束の両面から最適化する。

主要用途

  • 温度スイッチ/サーモスタット:設定温度で接点を開閉し、ヒーターやモータを保護する。
  • 熱リレー:巻線のジュール熱とバイメタルを組み合わせ、過負荷時に遮断する。
  • 機械式温度計:連続変位を指針に伝え、直読する。
  • 時計・計測機の熱補償:ばねや振動子の温度偏差を機械的に相殺する。

電子式の温度検知であるサーミスタMEMSセンサーと比べ、電源不要・高温雰囲気に強い一方、出力が機械量で応答が比較的遅い点が相違である。保護回路では過電流に対してヒューズ溶断前の一次保護として機能させる設計もある。

設計パラメータと選定指針

  1. 温度設定:動作温度(ON)と復帰温度(OFF)の差を用途に合わせ設定する。スナップ円板は差を大きく取りやすい。
  2. 感度とストローク:板厚比と長さで変位量を調整する。必要ストロークが小さい場合はテコ機構で拡大する。
  3. 負荷条件:接点開閉なら電流・電圧・力率、機械変位なら必要押付力とストロークを見積もる。
  4. 環境:湿熱・振動・油気・粉じんの影響を評価し、封止や表面処理を選ぶ。
  5. 寿命:開閉回数、温度サイクル数から材料の疲労余寿命を見込む。

回路・機器への適用上の注意

接点のチャタリングを避けるため、ヒステリシスを十分確保する。誘導性負荷ではアーク抑制用のRCスナバやバリスタを併用する。熱時定数は取り付けの熱抵抗に依存するため、熱源との距離や放熱条件を管理する。過負荷保護ではヒューズや電子式保護と役割分担し、誤動作や過熱の二次災害を防ぐ。

製造プロセスと品質管理

バイメタル帯は一般にクラッド圧延や拡散接合で製造され、均一な接合界面と残留応力管理が要となる。コイル材から打抜き・曲げ・成形し、校正焼鈍で初期曲率を整える。量産では温度サイクル試験、曲率検査、接点の電気耐久(通電・遮断)などを行い、ロット間のばらつきを管理する。

設計式の目安とヒステリシス

2層板の曲率kは、簡略にはk≒C×(Δα×ΔT)/tで表せる(Cは弾性率比・厚み比の関数、tは全厚)。スナップ円板は幾何学的座屈を利用し、上昇時と下降時で臨界温度が異なるヒステリシスを持つ。これによりスイッチの誤動作や断続発熱を抑え、安定した制御が可能となる。

実装例と検証

電動機保護では巻線に熱結合させ、温度上昇で接点を開く。電気ポットやアイロンではハウジングに熱結合し、設定温度付近でオン・オフ制御する。評価では無負荷曲率、負荷時の動作温度、周囲温度の影響、繰返し耐久を確認し、校正値のドリフトを年次点検に織り込む。

他方式との使い分け

バイメタルは機械的・受動的な一次安全に強く、単体で完結する利点がある。一方で高精度な温度計測や急峻応答が必要な場合はサーミスタなどの電子式を併用し、冗長化やフェイルセーフを確立するのが実務的である。用途・精度・コストの三条件で最適な組合せを設計する。