ネットワーク外部性|利用者が増えるほど価値が高まる効果

ネットワーク外部性

ネットワーク外部性とは、ある財やサービスを利用する人が増えるほど、一人ひとりの利用者が受け取る便益も大きくなる性質を指す経済学の概念である。網络効果(ネットワーク効果)とも呼ばれ、電話やファクシミリ、SNS、ゲーム機、業務用ソフトウェアなど、利用者同士がつながることで価値が生まれる製品に広く見られる。市場取引を通さずに他者へ影響が及ぶ点で、外部性の一種に分類される。

理論の成り立ち

学術的な議論の出発点は、1974年にジェフリー・ロールフスがベル研究所で発表した電話サービスの需要分析とされる。加入者が1人しかいない電話には価値がなく、加入者が増えるにつれて通話できる相手が広がる。ロールフスはこの単純な事実を需要曲線の形に落とし込み、一定の加入者数を超えるまで市場が立ち上がらない可能性を示した。その後、1985年にマイケル・カッツとカール・シャピロが American Economic Review に論文を発表し、互換性の選択と企業間競争を結びつけて理論を整理した。同じ年にはジョセフ・ファレルとガース・サロナーも、標準化をめぐる移行の遅れ(過剰慣性)を論じている。1980年代半ばは、この分野の基礎が一気に固まった時期にあたる。

直接効果と間接効果

ネットワーク外部性は、効果が生まれる経路によって大きく2つに分けられる。違いを整理すると次のようになる。

区分 価値が生まれる仕組み 代表例
直接的ネットワーク外部性 同じ製品の利用者同士が直接つながる 電話、ファクシミリ、メッセージアプリ
間接的ネットワーク外部性 利用者が増えると補完財(ソフト、部品、サービス)が充実する ゲーム機とソフト、OSとアプリ、DVDプレーヤーとソフト
両面市場型 異なる2つの利用者層が互いを引き寄せる クレジットカード、ECモール、求人サイト

間接効果の場合、利用者は互いに通信しているわけではない。それでも、ハードの普及台数が増えればソフト会社が参入しやすくなり、結果としてハードの魅力が高まる。家庭用ゲーム機メーカーが本体を原価割れに近い価格で売り出すことがあるのは、この循環を早く回すためである。

メトカーフの法則と価値の見積もり

ネットワークの価値を数量的に表す試みとして知られるのが、イーサネットの考案者ロバート・メトカーフにちなむメトカーフの法則である。n台の端末がつながる場合、可能な接続の組み合わせは n(n−1)/2 通りとなり、価値はおおむね n2 に比例すると考える。端末が10台なら接続は45通り、100台なら4,950通りに膨らむ。利用者数が10倍になると価値は約100倍になる計算である。

法則への批判

2005年から2006年にかけて、アンドリュー・オドリズコらは、すべての接続が同じ価値を持つという前提は非現実的だと指摘し、価値は n log n 程度にとどまるとする見方を示した。大半の利用者は一部の相手としかやり取りしないためである。

規格争いに見る実例

ネットワーク外部性が強い市場では、わずかな初期の差が積み重なり、最終的に一つの規格が市場をほぼ独占しやすい。家庭用ビデオでは、ソニーが1975年にベータマックスを、日本ビクターが1976年にVHSを発売した。画質ではベータが優れていたとする評価も多いが、録画時間の長さと提携メーカーの多さでVHSがレンタルビデオ店の棚を押さえ、デファクトスタンダードとなった。光ディスクでも同じ構図が繰り返され、2008年2月に東芝がHD DVDからの撤退を発表し、Blu-ray Discが残った。

キーボードのQWERTY配列は、経路依存性の例としてよく引かれる。1873年にショールズらが設計し、レミントン社のタイプライターに採用された配列が、技術的な理由が薄れた後も使われ続けている。経済史家のポール・デービッドは1985年の論文でこれを論じた。もっとも、ほかの配列が本当に効率的だったのかについては反論もあり、評価は定まっていない。

製造業の現場で働く効果

消費者向け製品だけの話ではない。B2Bの取引や生産設備の選定でも、取引先や周辺機器との互換性が意思決定を左右する。代表的な場面を挙げる。

  • 3次元CAD:完成車メーカーが特定のCADを指定すると、部品サプライヤーも同じソフトを導入せざるを得ない。1ライセンスあたり数百万円規模の費用がかかっても、図面の変換ミスを避ける方が得と判断されやすい。
  • 中間ファイル形式:異なるCAD間の受け渡しには、1994年に国際規格となったSTEP(ISO 10303)が使われるが、形状以外の設計意図までは完全に移せない。
  • 産業用ネットワーク:PLCとサーボアンプ、I/O機器をつなぐ方式には、日本発のCC-Link、欧州で強いPROFINETやEtherCATなどがある。対応機器の品ぞろえが多い方式ほど選ばれやすい。
  • 電子データ交換(EDI):受発注システムは業界ごとに標準が決まることが多く、主要な取引先が採用した方式に中小企業が合わせる形になる。

実務では、仕様書の性能比較よりも「保守部品が10年後も手に入るか」「近隣の協力会社が同じ方式に慣れているか」が最終判断を決める例が少なくない。海外工場に設備を移す際、現地で普及していない通信方式を選んだために技術者の確保に苦労したという話もよく聞かれる。

ロックインとスイッチングコスト

一度ある規格を採用すると、教育費やデータ移行費といったスイッチングコストが膨らみ、別の規格への乗り換えが難しくなる。これがロックインと呼ばれる状態で、供給側の企業にとっては長期的な収益源となる。

クリティカル・マスと普及戦略

利用者が少ない段階では便益も小さいため、普及が進まない。ある水準を超えると自然に利用者が増え始める境目を、クリティカル・マスという。新しいプラットフォームを立ち上げる企業は、この壁を越えるために、無料提供や初期利用者への割引、補完製品メーカーへの開発支援などを組み合わせる。ファクシミリが日本の事業所に急速に広がったのも、1980年にG3規格(ITU-T T.4)が国際的に統一され、メーカーを問わず送受信できるようになってからである。規格の統一が、クリティカル・マスへ到達する時間を大きく縮めた例といえる。

負の効果と独占への懸念

利用者が増えるほど価値が下がる場合もある。回線の混雑や、出品者の増えすぎで目当ての商品が探しにくくなる現象がこれにあたり、負のネットワーク外部性と呼ばれる。競争政策の面でも課題は残る。勝者総取りになりやすい市場では、優れた後発技術が入り込めない恐れがあり、欧州連合が2022年に成立させたデジタル市場法(DMA)は、巨大プラットフォームの相互運用性確保を求める規定を盛り込んだ。ネットワーク外部性は便利さを生む力であると同時に、市場の固定化を招く力でもあり、両面から捉える必要がある。

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