トランスミッションマウント
トランスミッションマウントは、車両シャシに対してトランスミッション(変速機)を支持し、エンジンドライブトレインから伝わる荷重とNVH(Noise, Vibration, Harshness)を低減する防振要素である。エンジンマウントと協調してパワートレインの姿勢を制御し、発進・加減速・シフト時の揺動を抑えるほか、衝突・段差入力時の落下防止や位置決め機能も担う。
機能と役割
本マウントは「支持」「制振」「位置決め」の三機能をバランスさせる。支持では縦・横・上下の3軸荷重とモーメントを受け、制振では固有振動数をパワートレイン励振周波数帯から外すことで伝達率を下げる。位置決めではシフトリンケージやドライブシャフト角度を安定化し、ギヤ鳴きや共振を抑制する。
構造と材料
構造はブラケット・インナー/アウタースリーブ・ゴム(または液封体)・ストッパから成る。一般に耐熱・耐油性に優れるゴムを用い、必要に応じて液封(フルード)チャンバーやオリフィスを設ける。金属部は鋼板プレスやアルミダイカストが多く、表面は防錆処理を施す。締結はボルトとナットで行い、座面形状と締付け管理が重要である。
タイプの分類
- ゴム系:コストと信頼性に優れ、広く採用
- 液封(ハイドロマウント):低周波制振と高周波遮断を両立
- 可変マウント:バキューム切替や電制で動特性を可変
- トルクロッド併用:横方向の揺動を別系で拘束
設計パラメータ
要点は静剛性・動剛性・損失係数(減衰)・取付位置である。静剛性は車体姿勢や発進ジャダーに、動剛性は共振周波数帯とアイドル振動に影響する。取付三角形の辺長と高さは回転中心位置を規定し、ノーズダイブ時の回転モードを左右する。
NVHメカニズム
パワートレインの1次・2次励振やギヤメッシュ由来の高周波が入力となる。動特性は温度・プリロード・振幅依存性を持ち、動的剛性は周波数とともに増加する。液封ではオリフィス流路により位相遅れを与え、アイドル域の波形を抑える。車体側クロスメンバ・サブフレームの剛性も連成するため、締結部のトルク管理が不可欠である。
評価と試験
- 静・動剛性試験:せん断・圧縮・組付け姿勢でのベンチ測定
- 耐久:熱老化、耐油、塩水噴霧、ストローク繰返し
- 車両評価:アイドル振動、こぶ越え、シフトショック、こもり音
- 解析:CAE/FEAでモード推定と取り付け最適化
取付と整備の要点
交換時は支持治具でパワートレイン荷重を受け、規定トルクで締結する。ブッシュ偏心や位置決めピンを基準に組み、車重が掛かった状態で最終締めを行うとねじり初期歪みを避けられる。併せてエンジンマウントやサブフレームのガタも点検する。
故障モードと症状
- ゴム亀裂・剥離:加速時の打音、振動増大、シフトショック悪化
- 液封漏れ:にじみ、低周波のこもり音増加
- ストッパ摩耗:段差で金属接触音
選定とチューニング
純正同等では快適性を重視し、強化タイプは旋回・変速応答を向上させるが、アイドル振動が増える傾向にある。使用目的と許容NVHを明確化し、ゴム硬度や液封仕様を選定する。締結部材は適切なねじ呼びと強度区分を採用する。
材料特性の基礎
ゴムは温度依存が強く、動的特性は履歴損失に支配される。硬度と弾性の関係は単純でないため、実機姿勢での動特性評価が有効である。必要に応じてゴム配合や補強材を見直し、金属側は鋼やアルミニウムの疲労強度と溶接品質を確保する。
関連部品とシステム視点
本マウントはエンジンマウント、サブフレーム、クロスメンバ、ステー、ボルト・ワッシャ類と一体で機能する。ギヤボックスの支持点とドライブシャフト角、排気系ハンガの柔軟性まで含めた総合最適化が肝要である。
よくある設計指針
- 固有振動数:アイドル帯域を外す(例:10〜15 Hz目安)
- 回転中心:車両重心と励振方向を意識して配置
- 締付管理:規定トルクと再使用限度の順守
用語メモ
- 動剛性:周波数依存の見かけ剛性
- 損失係数:エネルギー散逸の尺度
- 伝達率:入力振動が車体へ伝わる割合