トランクリッド
トランクリッドは乗用車の後部に設けられる後開きの外板パネルであり、荷室へのアクセス、防水・防塵、盗難抑止、空力・騒音性能の確保といった複合的な役割を担う部品である。一般に外側のアウターパネルと骨格となるインナーパネルの二重構造で、縁部はヘミングで一体化する。開閉は左右いずれかのヒンジで支持し、ラッチとストライカーで確実に閉鎖し、ウェザーストリップでシール性を確保する。品質上はギャップ&フラッシュ、面精度、閉め音、耐久、腐食などの管理が重要であり、近年はイージークローズや電動開閉など快適性機能の搭載も増えている。
役割と機能
トランクリッドの第一の役割は荷室の開口を提供することである。さらに、雨水や粉塵の侵入を防ぐシール性、走行時の風切り音や振動を抑えるNVH性能、閉鎖時の剛性確保、車両後端の空力形状形成といった機能も持つ。ラッチ機構は二段階噛合いで安全性を高め、車内からの緊急解放機構を備える。外板品質は意匠価値に直結し、映り込みや面のうねりを抑える設計・製造が求められる。
構造と主要部品
構造はアウターパネル(意匠面)と、リブ・ビードで補強したインナーパネルを基本とする。縁部はフランジ成形後にヘミングでかしめ、端面の鋭縁対策と剛性を両立させる。荷重はヒンジからボディ側へ伝達され、ラッチ・ストライカーが閉鎖保持を担う。ウェザーストリップで周方向にシールラインを形成し、内装トリムで剛性部材を覆いながら騒音・振動を低減する。
- インナーパネル:骨格・補強、ロック補強、ヒンジベース
- アウターパネル:意匠面、面精度・塗装外観
- ヒンジ・ストライカー・ラッチ:支持・閉鎖・位置決め
- ウェザーストリップ:周方向シール、止水・防塵
- ガススプリング/トーションバー:開閉補助・保持
- 内装トリム・ワイヤハーネス:意匠・配線保護・NVH
材料選定
トランクリッドの材料は、外板品位と軽量化、耐食性、コストのバランスで選ぶ。鋼板(低炭素鋼・高張力鋼)は成形性とコストに優れる。アルミ合金は軽量であり、ヒンジ荷重や開閉力低減に寄与するが、電食対策や接合工法の最適化が要る。樹脂やCFRPは軽量・自由形状に利点があるが、塗装・剛性・コストで検討が必要になる。ヘミングやスポット溶接、接着併用など材料に応じた接合設計を行う。
製造プロセス
- プレス成形:アウターは深絞り+パネル面品位重視、インナーは補強リブ・ビード形成。
- トリム・ピアス:余肉切除、穴開け、フランジ成形。
- 接合:スポット溶接、ろう付け、接着併用で局所剛性と耐水を確保。
- ヘミング:外板縁のかしめで二枚を一体化し、端部品質と剛性を両立。
- シーリング・防錆:シームシーラ、電着塗装で耐食性を確保。
- 上塗り・組付:塗装後、ヒンジ・ラッチ・ウェザーストリップ・内装を組む。
工程では寸法精度と面精度、ギャップ&フラッシュの公差管理が要である。ヒンジ基準点、ストライカー位置、ウェザーストリップの圧縮量を統合的に合わせ込み、閉め音や水密性能を安定させる。
開閉・保持機構
ヒンジ配置はボディ開口部の剛性と意匠に合わせて決め、開度・開閉力・干渉を検討する。保持にはトーションバーまたはガススプリングを用い、開度全域で操作力を最適化する。ラッチは二段ストライクで安全に閉鎖し、イージークローズは最後の数mmをモータで引き込み、パワー開閉はモータと制御で自動化する。挟み込み検知や非常解放、ハンズフリー起動など快適・安全機能を組み込む。
耐久・品質評価
耐久では開閉繰返し、段差路共振、熱サイクル、塩水・シャワーテストで健全性を確認する。品質は面外剛性、閉め音、風切り音、漏水、錆、チップ傷、トリムのビビリを評価し、補強配置や制振材、シールラインの見直しで改善する。ハーネス屈曲やガススプリングの作動特性も長期安定が求められる。
安全・法規対応
二重ロックと車内緊急解放装置で閉じ込め防止を図る。外周の鋭縁はヘミング・トリムで処理し、歩行者保護要件や後方視界確保に配慮する。バックカメラやライセンスランプの取り付け位置、ガーニッシュの設計は視認性と意匠の両立が必要である。
設計ポイント
- 開口寸法と剛性:大開口でもねじり・曲げに耐える骨格設計。
- 質量と操作力:軽量化で開閉力低減、ヒンジ・補助機構の適正化。
- シールと水管理:ドリップ形状、排水路、ウェザーストリップ圧。
- 公差設計:ギャップ&フラッシュ、面差、チリ合わせ。
- NVH:制振材、ビード、トリム支持でビビリ抑制。
- 取付要素:ヒンジ・ストライカーの位置決めと取付ボルトの強度・緩み防止。
電動化・スマート機能
パワー開閉はモータ・ECU・センサで制御し、ソフトクローズやキックセンサー、スマートキー連携を実装する。挟み込み検知や障害物学習で安全性を高め、開度メモリや車庫環境への適応などユーザビリティを向上させる。重量増はヒンジ荷重や車体剛性への影響があるため、軽量化と電装配置の最適化が重要である。
関連部位との関係
トランクリッドはクォーターパネルと開口縁で連続面を形成し、後端ではリアバンパーやガーニッシュと隙間・段差を管理する。上方はルーフからの雨水流を考慮し、側方はサイドシルや開口補強との荷重経路を整える。外板一体の面質・意匠・空力・耐久を総合し、製造ばらつきを見込んだ堅牢な設計・工程計画を行う。