セル温度|熱管理が性能と寿命を決める

セル温度

セル温度はリチウムイオン電池などの電気化学セルの内部状態を支配する一次指標である。反応速度、内部抵抗、リチウムの析出・拡散、SEI層の成長、ガス発生、さらには熱暴走の閾値まで、ほぼ全ての現象がセル温度に依存する。一般に20〜40℃での運用が望ましく、EV用途では15〜35℃に維持する設計が多い。温度が10℃上がると劣化速度が約2倍になるという経験則(Arrhenius則に基づく近似)が使われ、セル温度管理はサイクル寿命・カレンダー寿命、出力性能、安全性を直結的に規定する。

測定位置と代表値

セル温度は「表面温度」と「コア温度」に大別される。面実装NTCサーミスタやRTD(Pt100等)は取り付け容易だが、発熱ピークはコアで先行するため温度勾配ΔTを見込む補正が必要である。ファイバ光温度計は電磁ノイズや高電位環境に強い。モジュールやパックではセル間の温度均一性(ΔTcell)を監視し、設計段階でセンサー配置、熱経路、配線対称性を整えることが重要である。

発熱メカニズムとエネルギーバランス

  • ジュール発熱:I²R。低温では内部抵抗が増え、同一電流でも発熱が増える。
  • 反応(エントロピー)熱:I·T·(dE/dT)。SOCと温度で符号が変わり、充電が吸熱になる領域も存在する。
  • 副反応:SEI成長や電解液分解が長期的に熱・劣化へ寄与する。

簡略熱収支はQ̇≈I²R+I·T·(dE/dT)−対流・伝導・放射での損失で表せる。よってセル温度上昇は電流、内部抵抗、周囲の熱抵抗により決まる。

BMSによる温度管理戦略

BMSはセル温度を用いて充放電電流、電圧、出力をダイナミックに制限する。温度アラーム・フォールト遮断、ログ記録、セルバランシングの発熱考慮、ヒータ駆動や冷却系統の制御まで担う。C-rateの上限は温度に依存し、低温急速充電はLiメタル析出の危険があるため厳格に抑制される。

温度に応じた充放電制限

例として、0℃付近では急速充電を禁止し昇温プレコンディショニングを行う。45℃超では出力を段階的にデレーティングし、50〜60℃で充放電停止とする設計が一般的である。これら閾値はセル化学、寿命目標、冷却能力により最適化される。

温度推定(モデリングとオブザーバ)

直感的なセンサー配置に加え、RC熱モデルとKalman filter等を用いたソフトウェア推定でコアのセル温度を間接的に推測する。OCV-SOC関係、インピーダンス(EIS)、端子電力損を入力とし、推定温度を安全制御にフィードバックすることでセンサー数を抑えつつ精度を確保できる。

熱設計:セルからパックへ

セル温度の安定化には、セル→タブ→熱拡散板→コールドプレートの連続的な低熱抵抗経路を作ることが要点である。ギャップフィラーやTIMで接触熱抵抗を下げ、構体の熱容量を活用してピークを平滑化する。レイアウト対称性とダクト・マニホールドの均一化でセル間ΔTを抑える。

冷却方式の比較と選定

  • 空冷:構成が簡素で軽量。高周速ファンと整流ダクトで均一化を図る。
  • 液冷:コールドプレート+グリコール循環で高熱流束に対応。HVACと連携し昇温・降温の両制御が可能。
  • ヒートパイプ/ベイパーチャンバー:面内拡散でホットスポットを緩和。

選定はピーク出力、環境温度、パッケージ制約、信頼性要求(耐漏れ・冗長)で総合評価する。

寿命・安全への影響

高いセル温度はSEI成長を加速し電解液を劣化させ、カレンダー寿命を短縮する。低温×高電流ではLi析出・プラティングが起こり、内部短絡やガス化リスクを増す。熱暴走は80〜120℃付近からの副反応加速が引き金となり、電解液・正極の発熱で自己加速するため、パック内伝播抑止の隔壁・ベント設計も必須である。

セル間温度ムラの管理

実務ではΔTcell≤3〜5℃を目標にする。ムラはSOC推定誤差、抵抗ばらつき、バランシング過熱を招くため、冷却の均一化、セル選別、経路対称、熱源(DC/DC等)からの隔離で抑える。アルゴリズム面では温度重み付きバランシングや温度勾配検知のフォールトロジックを組み込む。

評価・試験とデータ活用

HPPCやEIS試験ではセル温度を安定化させた状態で測定し、温度係数を別途取得する。安全規格の観点ではIEC 62133、UN 38.3等で温度範囲や異常試験が定義される。実運用では1 Hz以上の温度・電流・電圧の同時ロギングを行い、SOH推定モデルに温度履歴を組み込むと劣化予測の精度が向上する。

設計実務の目安(チートシート)

  • 運用目標セル温度:15–35℃、短時間ピークは40℃台前半まで。
  • セル間ΔT:常用≤3–5℃、過渡時でも≤8–10℃。
  • 急速充電:5℃未満は原則禁止、10〜15℃でプレヒート必須。
  • Arrhenius近似:+10℃で劣化×約2。寿命換算に反映。
  • モデル化:RC熱モデル+Kalman filterでコア温度推定。
  • アーキ:低熱抵抗経路(セル→TIM→拡散板→コールドプレート)を明示的に設計。

セル温度は単なるモニタ値ではなく、性能・寿命・安全の制約条件であり、電気(I²R)と化学(dE/dT)、そして機械・熱(Rθ・Cth)の交点で最適化する設計変数である。電流プロファイル、冷却能力、周囲環境、BMS制御を統合し、温度に起因するリスクを前提条件として織り込むことが高信頼パック設計の基礎となる。