スラスト軸受
スラスト軸受とは、軸方向(アキシアル方向)の荷重を支持することを目的とした軸受である。回転軸に対して垂直に働くラジアル荷重を受けるジャーナル用の軸受とは役割が異なり、立て軸のポンプや水車、自動車のトランスミッション、旋回台など、軸の長手方向に力が作用する箇所で用いられる。転がり軸受の分類では、転動体と軌道輪の接触角が45°を超え90°以下のものがスラスト軸受と定義され、45°以下のものはラジアル軸受に区分される。玉を用いるスラスト玉軸受、ころを用いるスラストころ軸受のほか、油膜で支持するすべり形式のスラスト軸受も存在し、荷重の大きさと回転速度に応じて使い分けられる。
ラジアル軸受との違い
軸受にかかる荷重には、軸に直角なラジアル荷重と、軸に平行なアキシアル荷重(スラスト荷重)の2種類がある。深溝玉軸受はラジアル荷重を主体に両方向のアキシアル荷重も負担できるが、アキシアル荷重が支配的な条件では接触楕円が溝の肩に乗り上げ、早期剥離を起こしやすい。スラスト軸受は軌道盤を軸方向に対向させた構造をもち、転動体が荷重を垂直に受け止めるため、アキシアル方向の負荷容量と剛性が大きい。反面、遠心力によって転動体が外側へ押し付けられるため許容回転速度は低く、同寸法の深溝玉軸受と比べて2分の1から3分の1程度にとどまる。高速でアキシアル荷重を受けたい場合は、接触角15°〜40°のアンギュラ玉軸受を組合せで使う方が有利になることが多い。
スラスト軸受の種類
転がり形式のスラスト軸受は、転動体の形状によって特性が大きく変わる。スラスト玉軸受はJIS B 1512に寸法系列が規定され、呼び番号51100系・51200系などが標準品として流通する。単式は一方向、複式は両方向のアキシアル荷重に対応する。より大きな荷重にはころを用いた形式が選ばれ、その特徴は次のとおり整理できる。
| 形式 | 転動体 | 特徴 |
|---|---|---|
| スラスト玉軸受 | 玉 | 構造が簡単で安価。中荷重・低中速向け |
| スラスト円筒ころ軸受 | 円筒ころ | 負荷容量と剛性が大きいが差動すべりが生じる |
| スラスト針状ころ軸受 | 針状ころ | 断面高さが数mmと小さく省スペース |
| スラスト自動調心ころ軸受 | 球面ころ | 調心性をもち、若干のラジアル荷重も負担可能 |
すべり形式のスラスト軸受
大形の立軸機械では、転がり形式ではなくすべり軸受形式のスラスト軸受が採用される。代表例が1905年に考案されたミシェル形(ティルティングパッド形)で、扇形のパッドが傾くことでくさび状の油膜を形成し、荷重を流体軸受の原理で非接触支持する。水力発電所の立軸水車発電機では、回転部の全重量と水圧スラストを合わせて数百〜数千トンに達する荷重をこの形式が支えており、油膜厚さは運転中でも数十µm程度に保たれる。外部から圧油を供給する静圧形は油圧ベアリングの一種として、起動・停止時の金属接触を防ぐ目的で併用される。
差動すべりと潤滑上の制約
スラスト円筒ころ軸受には固有の課題がある。ころは円柱であるため本来直進しようとするが、軌道盤上では放射状に並んで円運動を強いられる。ころの内径側と外径側では周速が異なるため、転がりに加えて滑りが必ず発生する。これが差動すべりと呼ばれる現象で、発熱と潤滑膜の破断を招く。低速回転であっても油潤滑が推奨され、グリース潤滑で済ませる場合は基準となる許容回転速度をさらに落として運用するのが実務上の定石といえる。玉形式でも遠心力とジャイロモーメントの影響で高速域の滑りは避けられず、dmn値(軸受ピッチ円径×回転速度)による速度制限の管理が欠かせない。
用途と使用例
スラスト軸受が活躍するのは、重力や推進力が軸方向に集中する場面である。船舶では、プロペラの推力を船体に伝える推力軸が伝動軸系の途中に設けられ、専用のスラスト軸受ブロックが数百kNの推力を受け持つ。自動車ではマニュアルトランスミッションのクラッチレリーズ部、ステアリングコラム、ターボチャージャの軸端などに使われる。工作機械の旋回テーブルやクレーンの旋回輪、油圧プレスのねじ部にも組み込まれ、家庭用ではターンテーブルや回転椅子の座面下にプレス製の安価なスラスト玉軸受が入っている。円すい形のころで合成荷重を受ける円すいころ軸受を対向配置し、スラスト軸受を省略する設計も自動車のデファレンシャルなどでは一般的である。
選定と組付けの注意点
選定で見落としやすいのは最小アキシアル荷重の確保である。スラスト玉軸受は無負荷または軽負荷で高速回転させると、玉が公転せずに滑走して軌道面を損傷するため、メーカーは遠心力に見合う最小荷重(一般に基本静定格荷重の0.02倍前後を目安とする式)を規定している。ばね座金や皿ばねで常時予圧を与える設計はこの対策として現場で多用される。組付けでは、軸側の内輪軌道盤とハウジング側の外輪軌道盤の内外径が異なるため、上下を取り違えると軌道盤が軸に干渉して回転不良を起こす。軌道盤の直角度と取付面の平面度も寿命を左右し、傾きがあると荷重が一部の転動体に集中する。周辺要素である軸の段付き寸法や軸継手との位置関係、対になるローラーベアリングの固定側・自由側の設定まで含めて、軸系全体で荷重の逃げ道を設計することが求められる。
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