シールド線
シールド線とは、外来電磁界の侵入や内部信号の放射を低減するために導体群の外周に金属遮蔽層を設けたケーブルである。ノイズ源と被害系の結合を断つ受動的対策であり、低周波の商用電源ノイズから高周波のEMI、静電気放電、無線RFまで幅広く有効である。音響・計測・産業通信・車載・医療機器・高速データ伝送など、多様な分野で信号整合とEMC適合に寄与する。
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構造と材料
シールド線の基本構造は、中心導体(単線/撚線)、絶縁体、撚り合わせ(対/三つ編み)、シールド層、シースから成る。シールド層は銅編組、アルミ箔(アルミ/ポリエステルラミネート)、編組+箔の複合が主流である。編組は柔軟・低抵抗で接続が容易、箔は高周波の遮蔽効果が高い。必要に応じてドレインワイヤ(裸銅/錫めっき)を添えて接地を安定化する。外被シースはPVC、PE、PUR、耐油・難燃・耐熱など用途別仕様が選択される。
遮蔽の物理原理
- 静電遮蔽:導電層により電界を等電位化し、容量性結合を抑制する。箔シールドが有効。
- 磁界遮蔽:低周波磁界に対しては編組・箔の効果が限定的で、線径太めの編組密度向上やツイスト、ループ最小化が有効。必要に応じて高透磁率材の活用を検討する。
- 電磁波遮蔽:周波数に応じた表皮効果により、シールド層に誘導される渦電流が減衰を生む。減衰量はシールド抵抗・厚み・覆い率・接続インピーダンスに依存する。
シールド方式の種類
- 編組シールド:銅線を編み上げた一般的方式。覆い率と導通性のバランスが良い。
- 箔シールド:軽量・薄型で高周波減衰に優れる。ドレインワイヤ併用が典型。
- 複合シールド:箔+編組で広帯域に対応。産業用EthernetやUSB 3.0等で多用。
- 二重/三重シールド:厳しいEMC環境で採用。相互のギャップずらしで漏洩路を低減。
終端・接地の要点
シールド線の効果は終端品質で大きく左右される。360°面接触でのクランプ接続により接地インピーダンスを最小化することが望ましい。ドレインワイヤを長く残す「ピッグテール」は高周波でインダクタンスが増し、遮蔽効果を劣化させるため避ける。接地は片端/両端の選択が論点となるが、低周波の誘導やグランドループを避ける必要がある場合は片端接地、高周波の放射抑制を重視する場合は両端接地が有利である。
片端/両端接地の指針
- アナログ低周波・高インピーダンス計測:片端接地でループ抑制。
- 高速差動・広帯域ノイズ:筐体側と機器側の両端で360°接地、機器間の等電位化を併用。
規格と評価
- EMC適合:放射/伝導エミッション、イミュニティ試験に対し、シールド線はケーブル対策の中心となる。
- 伝送特性:特性インピーダンス、減衰、近端/遠端クロストーク、リターンロスを重視。ツイストペア+シールド(STP)は平衡性と遮蔽を両立する。
- 難燃・環境:UL、CSA、JIS、RoHS等の要求に適合させる。
用途別設計の勘所
- 音響・スタジオ:マイク用は箔+編組、低マイクロフォニック材料、片端接地が定石。
- 産業通信:RS-485、CANはツイストペア+シールドで外来ノイズと放射を抑制。終端抵抗と接地ポリシの整合が重要。
- 車載:高dV/dtのインバータやDC-DC近傍では二重シールドや360°アースクランプを推奨。
- 医療:EMIマージン確保と漏れ電流管理の両立が要件。シールドの接地は保護接地設計と統一方針で運用。
- 高速I/O:USB、HDMI、DisplayPortは編組+箔、360°コネクタシェル接続が基本。
敷設・取り扱い
- 曲げ半径を守る(固定:外径×4〜6、可動:×8〜10目安)。
- 被覆ストリップは適正長にし、シールド露出を最短化。
- 筐体貫通部は導通のあるケーブルグランドで360°クランプ。
- 電源線からの距離確保、または導管/トレイで分離。交差は直交とする。
- 余長はループや巻取りを作らず等電位面に沿わせる。
よくある不具合と対策
- グランドループ:複数接地点でのループ電流によりハムが発生。等電位ボンディング、片端接地、アイソレータで対処。
- ピッグテール接続:高周波で遮蔽劣化。360°接続と短尺化。
- 遮蔽断線・編組密度不足:ケーブル更新、覆い率向上、複合シールド採用。
- 不適切な混載:パワーと信号の同束配線は避け、必要なら追加シールドや隔壁を設ける。
選定手順(実務フロー)
- ノイズ環境を特定(周波数帯、電界/磁界、連続/過渡)。
- 信号方式を確認(平衡/不平衡、帯域、インピーダンス)。
- シールド型式を仮選定(箔/編組/複合、単/多重)。
- 終端方式を設計(360°接続、片端/両端、ドレイン処理)。
- 評価指標を設定(減衰量、クロストーク、EMC試験項目)。
- 試作・実機評価で最適化(接地、配索、クランプ位置)。
誤解しやすいポイント
- 「シールドは万能」ではない:低周波磁界やCM(コモンモード)起因には配線ロジックやツイスト、フィルタ併用が不可欠。
- 「どこかで接地すれば良い」ではない:接続インピーダンスとループを最小化する設計が要。
- 「減衰=覆い率のみ」ではない:材料抵抗、厚さ、連続性、端子処理が支配的である。
関連技術との関係
シールド線は、ツイストペアの平衡性向上、フェライトコアやコモンモードチョークによるフィルタリング、筐体シールドによるファラデーケージ効果と組み合わせて効果を最大化する。特に高速差動では、平衡維持(レイアウト対称性)と360°端末接続の両立が鍵である。装置間の接地ポリシを統一し、等電位ボンディングを徹底することで、残留ノイズの逃げ道を確保できる。
まとめの実務ヒント
- 周波数を意識:低周波はループ最小化、高周波は360°接続重視。
- 箔+編組の複合で広帯域を網羅、必要なら多重化。
- 配線は短く直線的に、余長は面に沿わせる。
- 評価は実機で:EMIスキャン、近傍界プローブ、リターンロス測定で定量確認。
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