シボ加工|金型表面に凹凸模様を施す加工技術

シボ加工

シボ加工とは、金型や製品の表面に微細な凹凸模様を付ける表面処理の総称である。皮革の「しぼ」に由来する言葉で、革目調・梨地・幾何学柄・木目調など、模様の種類は数千に及ぶ。樹脂成形品の場合は製品そのものではなく金型のキャビティ面に模様を彫り込み、射出成形によって成形品へ転写する方法が一般的である。凹凸の深さはおおむね10〜200μmで、用途は自動車の内装部品から家電の外装、文具、医療機器の筐体まで幅広い。

成形品の外観課題とシボの役割

樹脂成形品の表面を平滑なまま仕上げると、ヒケやウェルドライン、フローマークといった成形不良がはっきり見えてしまう。鏡面に近い面ほど光をそのまま反射するので、わずか数μmのうねりでも目に付きやすい。表面に凹凸があれば光は乱反射し、こうした欠陥は目立たなくなる。指紋や小さな擦り傷が付きにくくなること、手で握ったときに滑りにくくなること、安価なPPやABSでも本革や金属のような質感を出せることも、シボ加工が採用される理由である。自動車のインストルメントパネルでは、フロントガラスへの映り込みを防ぐ目的で、60°鏡面光沢度を1〜3程度に抑える低光沢の仕様が多い。

主な加工方法の比較

金型へのシボ付けは、化学的な腐食を使う方法と、物理的に表面を削ったり溶かしたりする方法に大きく分かれる。国内で最も広く行われているのはエッチング(腐食シボ)である。2010年代以降は5軸制御のレーザー加工機による「レーザーシボ」も急速に普及した。

方式 原理 深さの目安 特徴
エッチング 耐酸性のマスクを転写し、塩化第二鉄液などで腐食 20〜200μm 柄の種類が多くコストが比較的安い。多段腐食で立体的な模様も作れる
レーザーシボ 3Dデータをもとにレーザーで層状に除去 5〜150μm 再現性が高く、薬液を使わない。設備費が高い
サンドブラスト アルミナやガラスビーズの砥粒を吹き付ける 数μm〜30μm 梨地向き。柄の形を指定することはできない
放電加工 電極と金型との間の放電で表面を溶融 10〜50μm 電極の面粗さがそのまま転写される。部分補修にも使える

腐食シボの工程

腐食シボでは、まず金型を脱脂・洗浄し、柄を印刷した転写フィルムを曲面に沿って手作業で貼り付ける。続いてマスキングをしない部分を薬液で溶かす。液温は40〜50℃程度に管理されることが多い。曲面への貼り込みは職人の技能に頼る部分が大きく、柄の継ぎ目をどれだけ目立たなくできるかで仕上がりが決まる。

金型設計で守るべき抜き勾配

設計段階で見落とされやすいのが抜き勾配である。シボの凹凸はアンダーカットとして働くため、勾配が足りないと離型するときに側面の模様が擦れ、白化や「シボ流れ」が起きる。よく使われる目安は「シボ深さ25μmにつき勾配1°以上」で、深さ100μmの革シボなら側壁に4°以上の勾配が必要になる。この数値はシボメーカーごとに推奨表として公開されており、ABSのような硬い材料ではやや大きめに、PPのような柔らかく収縮の大きい材料では緩めに設定されることもある。

現場で困りやすいのは、製品設計が固まってから意匠部門が深いシボを指定するケースである。勾配が0.5°しかない側面に深いシボを入れることはできず、浅い柄に変えるか、金型の側壁を削り直すことになる。手戻りの費用は数十万円規模になることも珍しくないため、金型の発注前にシボ番号と深さを決めておくのが望ましい。

金型材料と仕上がりの関係

腐食シボは鋼材の組織の影響を強く受ける。炭素鋼のS50Cやプリハードン鋼のNAK80、HPM系などはシボ付けしやすい材料として知られる。ただし同じ金型の中に硬さや成分の違う部分があると、腐食の速さが変わってしまう。特に注意したいのが溶接補修部である。肉盛りした箇所だけ色調や深さが変わる「シボむら」は、成形品の上でははっきりわかる。補修用には母材と同じ成分の溶接棒を使う、溶接後に熱処理で組織をならす、といった対策がとられる。

入れ子構造の金型も厄介である。入れ子と本体の鋼種が違うと境界で光沢差が出るため、意匠面にかかる部品は同一ロットの鋼材でそろえるのが基本になる。

主な用途

需要の中心は自動車内装である。インストルメントパネル、ドアトリム、コンソール、ピラーガーニッシュなど、乗員の目に触れる樹脂部品のほとんどに何らかのシボが施されている。自動車メーカーはそれぞれ独自のシボ番号体系と光沢度の基準を持っており、車種ごとに内装全体の質感をそろえている。

  • 家電:テレビの背面カバー、エアコン室内機のパネル、掃除機の筐体
  • OA機器:複合機の外装、マウスやキーボードの握る部分
  • 日用品・文具:ボールペンのグリップ、化粧品容器、収納ケース
  • 医療・産業機器:計測器の筐体、手袋をしたまま操作する部分の滑り止め

樹脂成形以外では、合成皮革や塩ビシートにエンボスロールで模様を付ける方法も「シボ付け」と呼ばれる。原理は異なるが、ロールの表面を彫り込む工程には腐食や彫刻の技術が使われており、金型のシボと技術的なつながりは深い。

品質評価と管理の方法

仕上がりの評価には、光沢度と表面粗さの2つの指標がよく使われる。光沢度はJIS Z 8741に基づいて60°の鏡面光沢度で測定し、表面粗さはJIS B 0601に定められたRaやRzで数値化する。それでも、人の目で見たときの印象が数値と一致しないことは多い。そのため実務では、量産前にシボ見本板(テストピース)と成形品を並べ、D65光源のもとで目視比較する手順が組み込まれている。

量産が始まってからは、成形を重ねるうちにシボ面がガスで汚れたり摩耗したりして、光沢が少しずつ上がっていく。数十万ショットを超えたあたりで「テカリ」が出始め、再シボ(既存の模様を落としてから付け直す処理)や、ガラスビーズによる軽いブラストで光沢を戻すことが多い。再シボのたびに型の寸法はわずかに大きくなるため、何回まで再シボできるかを最初の金型設計で見込んでおく必要がある。

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