サイクリックボルタンメトリー|電位往復で電極反応を解析する手法

サイクリックボルタンメトリー

サイクリックボルタンメトリー(Cyclic Voltammetry、略称CV)は、電極の電位を一定速度で往復掃引し、そのとき流れる電流を記録する電気化学測定法である。横軸に電位、縦軸に電流をとった曲線はサイクリックボルタモグラムと呼ばれ、物質がどの電位で酸化・還元されるか、反応が速いか遅いか、生成物が安定かどうかを1回の測定でおおまかに判定できる。用語はJIS K 0213(分析化学用語―電気化学部門)にも収録されており、研究室の基礎評価から電池材料やめっき液の品質管理まで幅広く使われている。

ポーラログラフィーから生まれた測定法

源流は1922年にヘイロフスキーが考案した滴下水銀電極によるポーラログラフィーにある。1948年、RandlesとŠevčíkがそれぞれ独立に、電位を直線的に掃引したときのピーク電流の式を導いた。1964年にはNicholsonとShainが反応機構ごとの理論曲線を体系的に示し、測定結果を定量的に解釈する道が開けた。1970年代以降はポテンショスタットの電子化が進み、水銀を使わない固体電極での測定が主流になっている。

三電極系の構成

測定には三電極方式を用いる。反応を観察する作用電極、電位の基準となる参照電極、電流を流すための対極の3本を電解液に浸し、ポテンショスタットで作用電極と参照電極の電位差を制御する。作用電極には直径3mm程度のグラッシーカーボン、白金、金がよく選ばれる。参照電極は水溶液系なら銀塩化銀電極(飽和KCl中で標準水素電極に対し約+0.197V)、非水系ではAg/Ag+電極が標準的である。

電解液には溶液の抵抗を下げるため、0.1mol/L前後の支持電解質を加える。非水系では過塩素酸テトラブチルアンモニウムや六フッ化リン酸テトラブチルアンモニウムが定番となっている。溶存酸素は-0.2V付近から還元電流を生じて妨害となるため、窒素やアルゴンを10分程度通気して除去しておく。

ボルタモグラムの読み方

電位を正方向へ掃引すると、還元体が酸化されてアノードピークが現れる。折り返して負方向へ戻ると、生成した酸化体が還元され、今度はカソードピークが現れる。2つのピーク電位の差ΔEpは電子移動の速さを示す指標となる。

ネルンスト式に従う可逆系では、25℃でΔEp ≒ 59/n mV(nは移動電子数)となり、掃引速度を変えても値はほとんど動かない。ピーク電流ipはRandles–Ševčík式で表される。

ip = 2.69 × 105 n3/2 A D1/2 C v1/2
(ip:ピーク電流[A]、A:電極面積[cm2]、D:拡散係数[cm2/s]、C:濃度[mol/cm3]、v:掃引速度[V/s]、25℃)

ipがv1/2に比例すれば拡散律速、vそのものに比例すれば電極表面への吸着種の反応とみなせる。この切り分けは、掃引速度を10、20、50、100、200mV/sと段階的に変えて測るだけで行える。

可逆性による波形の違い

電子移動の速度定数k0の大きさによって、波形は次のように分類される。

分類 ΔEpの目安 掃引速度依存性 代表例
可逆系 約59/n mV ほぼ一定 フェロセン/フェロセニウム
準可逆系 59/n mVより大きい 速度とともに拡大 多くの金属錯体
非可逆系 逆方向のピークなし ピーク電位が移動 有機物の多電子酸化

逆ピークが小さい、あるいは消える場合には、電子移動の後に化学反応が続いて生成物が別の物質に変わる「EC機構」も疑う。可逆性の低さと化学反応の併発は波形だけでは区別しにくい。ipc/ipaの比を掃引速度ごとに追うと判断がつけやすくなる。

製造業での用途

工業分野でサイクリックボルタンメトリーが使われる場面は、おおよそ次のとおりである。

  • リチウムイオン電池の正極・負極材料の電位評価と、電解液の電位窓(分解電位)の確認
  • 燃料電池用白金触媒の電気化学的有効表面積(ECSA)の算出。水素吸着波の電荷量を210μC/cm2で割って求める
  • 電解めっき液に含まれる光沢剤・抑制剤の濃度管理(CVS法)
  • 金属材料の不動態化挙動や腐食の評価
  • キャパシタ電極の電気二重層容量の測定

めっき現場のCVS分析

プリント基板の硫酸銅めっきラインでは、CVS(サイクリックボルタンメトリックストリッピング)が添加剤管理の事実上の標準になっている。白金回転電極上で銅の析出と溶解を繰り返し、溶解ピークの面積から添加剤の効き具合を数値化する。専用分析装置は1台で数百万円規模になるが、ハルセル試験よりも再現性が高く、添加剤の過剰補給による液寿命の短縮を防げる。月に数百リットル単位で薬液を補給するラインなら、薬品代の削減だけで数年で投資を回収した例も珍しくない。

測定で失敗しやすい点

データの再現性を左右するのは、装置よりも電極の前処理である。グラッシーカーボン電極は、粒径0.05μmのアルミナスラリーでバフ研磨して超音波洗浄するのが基本手順となる。研磨を省くと前回の吸着物が残ってピークがなまり、ΔEpが数十mV広がることもある。

非水溶媒で見落とされやすいのが、溶液抵抗によるIRドロップである。抵抗が1kΩあれば10μAの電流で10mVの電位誤差が生じ、可逆系でも準可逆系のように見えてしまう。参照電極の先端(ルギン管)を作用電極に近づけるか、ポテンショスタットのIR補償機能を使うとよい。参照電極の電位は使用中に少しずつずれるため、内部標準としてフェロセンを添加し、測定電位をFc/Fc+基準に換算して報告する方法が広く採用されている。

掃引速度は100mV/sを起点にするのが無難である。1V/sを超えると電気二重層の充電電流が目立ってファラデー電流が埋もれやすく、反対に5mV/s以下では自然対流の影響が出始める。測定範囲も最初から欲張らない。水溶液系では、水の理論分解電圧1.23Vに過電圧を加えた範囲が実質的な上限になる。電位窓の端を越えて掃引すると、溶媒の分解生成物で電極表面が汚れ、その後のデータがすべて使えなくなる。

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