カドミウム(Cd)|めっきと電池用途・毒性に注意喚起

カドミウム(Cd)

カドミウム(Cd)は原子番号48の遷移後元素に分類される重金属であり、亜鉛製錬の副産物として得られることが多い金属である。銀白色で軟らかく、延性・展性に富み、比較的低い融点をもつため溶解・鋳造・めっきに適する。一方で毒性が強く、腎機能障害や骨軟化をもたらすことから、各種規制(RoHS、REACHなど)の対象となってきた。近代工業では航空宇宙分野の高信頼めっき、ニカド電池、半導体化合物(CdTe、CdS、CdSe)などの重要用途を担ってきたが、環境負荷の観点から代替材料への移行が進行中である。

原子構造と結晶学的特徴

カドミウムの電子配置は[Kr]4d105s2であり、d殻が充填されているため常磁性を示さず概ね反磁性である。常温常圧での結晶構造は六方最密充填(hcp)で、c/a比が理想値から外れることで塑性変形の結晶方位依存性が生じやすい。亜鉛と同様に転位運動が比較的起こりやすく、冷間加工で硬化するが、焼なましで容易に再結晶し軟化する。こうした結晶学的背景は、成形・めっき後の応力緩和挙動や密着性、摩耗特性に影響を与える。

物理・化学的性質

カドミウムは密度が高く、融点は低温側に位置する。電気・熱伝導率は中程度で、表面は空気中でゆっくりと酸化され酸化カドミウム皮膜を形成する。主な酸化数は+2で、酸では容易に溶解し塩や硝酸塩を生じる一方、強塩基性溶液でも錯体形成を伴い溶解する場合がある。硫化物(CdS)は鮮黄色顔料として知られ、酸化物(CdO)は高温での蒸気や粉じん暴露が危険である。アルミニウムや鋼との電位差は防食設計上重要で、犠牲防食的に作用しうるが、電食の条件次第では逆効果となるため系全体の腐食電位バランス設計が求められる。

資源・製錬プロセス

工業的生産は主に硫化亜鉛精鉱の焙焼・浸出・電解精製工程に付随して行われる。焙焼で生成した酸化カドミウムは溶液中へ移行し、溶媒抽出やセメンテーション、電解・蒸留などで高純度化される。ニッケルや銅の製錬でも副次的に回収される。高純度金属は半導体用化合物や標準線源、分析用標準物質の基材として用いられ、インピーダンス特性や不純物管理が品質を左右する。

  1. 焙焼:ZnS中のCdをCdOとして濃縮
  2. 浸出・抽出:選択的にCdを溶離し不純物を除去
  3. 電解・蒸留:高純度化(Zn、Pb、Cuなどの除去)

主要用途

歴史的に多様な用途があるが、現在は環境規制の影響で使用領域が精選されている。とりわけ部材信頼性や特殊機能が重視される場面で利用が残る。

  • 耐食・摺動:鋼部材へのカドミウムめっきは潤滑性と耐塩水性に優れる。
  • 電池:ニカド(Ni-Cd)電池は高放電特性と耐久性を有するが、回収・代替が進む。
  • 半導体:CdTe薄膜太陽電池、CdS/CdSeの光電子デバイス、検出器用CdZnTe。
  • 顔料・安定剤:CdS系黄色顔料や旧来のPVC安定剤(現行は代替主流)。
  • 原子力:熱中性子吸収能を活かした制御材(近年はB、Hfなどへ移行)。

表面処理(カドミウムめっき)

カドミウムめっきは、鋼・高力ボルト・航空宇宙用締結体において、耐食性・摺動性・ねじ込み時の焼付き抑制を同時に満たす目的で用いられてきた。電解めっき後は水素脆化対策のベーキングが推奨され、後処理としてクロメート(光沢・耐食向上)を付与する場合がある。アルミニウム合金との接触腐食を抑えやすい点や、均一電着性の高さも利点である。一方、廃液管理と作業者暴露管理のコストが大きく、亜鉛-ニッケル合金めっちなどへの置換が進む。

  • 利点:高耐食・潤滑性・ねじのトルク管理性、海洋環境での信頼性
  • 留意点:水素脆化、廃液処理、規制順守、代替材料との性能比較

合金・化合物材料

Cdは低融点合金の組成元素として用いられてきたほか、銀ろうの濡れ性改善に添加された歴史がある(現在は代替が一般的)。化合物ではCdTeが代表的で、バンドギャップと吸収係数のバランスから薄膜太陽電池に適合する。CdZnTeは室温動作の放射線検出器材料として注目され、CdSやCdSeは光伝導・発光デバイス、量子ドットの母材として研究・実装が進んだ。

分析・評価と規格の枠組み

材料・製品中のCd含有量は、AASやICP-MSによる定量、スクリーニングにはXRFが広く用いられる。めっき皮膜厚はXRF、クーロメトリー、断面観察で評価する。電気電子機器ではRoHSの上限値(一般に0.01%)が設計・購買の基準となり、輸入国毎の試験報告や適合宣言が求められる。職業暴露管理では作業環境測定、個人ばく露測定、尿中・血中バイオマーカーのモニタリングが重要である。

毒性・環境影響とリスクマネジメント

カドミウムはIARCで発がん性の区分に位置づけられ、腎尿細管障害、骨代謝異常、呼吸器障害を引き起こす。粉じん・ヒュームの吸入は極めて危険で、めっき鋼材の溶接・切断時には酸化カドミウムの発生を最小化する局所排気・湿式集じん・呼吸用保護具が必須である。廃棄は特別管理産業廃棄物としての手順に従い、回収・再資源化を徹底する。供給網では代替設計、含有量トレーサビリティ、適合証跡の整備がリスク低減の核心である。

溶接・切削・加熱工程での実務上の注意

めっき鋼の前処理では、研削・剥離・加熱に伴うCdヒュームを抑えるため工程設計を見直し、密閉化と換気を両立させる。工程変更が困難な場合でも、低温・短時間化、スクラップの密閉保管、発生源近接の捕集フード、適切なカートリッジ選定を行う。教育訓練と健康診断の定期化、緊急時対応手順の明文化は、規制遵守だけでなく企業のレジリエンス向上にも資する。製品設計段階でCdフリー化を進めることが、最終的な環境負荷と保守コストの縮減に直結する。