カソード
カソード(陰極, cathode)とは、電気化学・電子工学・半導体素子など多様な文脈で用いられる概念であり、最も一般的な定義は「還元反応が起こる電極」である。電池の放電系では正極側、電解では負極側となるなど極性の符号は系の駆動条件で変わるが、「還元が生じる場所」という機能的定義を採れば混乱を避けられる。
電気化学における定義
電気化学ではカソードは電子を受け取る場であり、酸素還元(O2 + 4H+ + 4e− → 2H2O)、金属イオンの析出(Cu2+ + 2e− → Cu)、水素発生(2H+ + 2e− → H2)などが代表例である。平衡電位はNernst式で記述され、実際の作動電位は過電圧を含む。
自発電池と電解の極性
ガルバニ電池や二次電池の放電時にはカソードは正極で、外部回路へ電子を供給するアノードとは逆側にある。一方、電解では外部電源によって電子を供給される電極がカソードとなり、符号は負になる。機能(還元)で覚えると混乱しない。
反応速度と過電圧
カソード反応の速度は活性化過電圧・濃度過電圧・抵抗過電圧の和で規定される。Tafel式(η = a + b log i)は活性化支配域の電流–電位関係を与え、触媒(Pt, Ni-Mo, Fe–N–C)や表面粗さ、結合水、pHが交換電流密度および勾配に影響を及ぼす。
拡散律速と境界層
溶質の供給が不十分だとカソード電流は拡散限界に達し、限界電流密度で頭打ちとなる。撹拌、流動セル、回転円盤電極(RDE)などで境界層厚さを制御し、物質移動律速を緩和する設計が有効である。
カソード材料と設計
不活性カソード材としてPt, C(グラファイト, GDL付き炭素紙)などが用いられ、電析やメッキでは母材鋼やCu板など被処理物自体がカソードとなる。電流密度の均一化には治具、遮蔽板、補助電極、カソードムーバでの搬送が有効である。
電析・メッキにおける役割
電気メッキでは被加工物をカソードとし、Faradayの法則 m = (M I t)/(n F) で析出質量が決まる。浴組成(主塩・導電塩・緩衝剤・添加剤)、温度、pH、撹拌、電流波形(DC/脈流/パルス)が結晶粒、内部応力、密着性、平滑性を左右する。
腐食防食との関係
鋼構造物の防食では、外部分極で電位を卑化してカソード化する「陰極防食」を用いる。流電陽極法ではAl/Zn/Mgなどを接続し、外部電源法では整流器で電流を印加する。過度の卑化は水素脆化を誘発しうるためモニタリングが要る。
真空管・電子銃でのカソード
真空管では熱陰極カソードが熱電子放出源である。酸化物被覆Ni管などを加熱し、仕事関数を下げて電子を放出する。Child–Langmuir則(空間電荷制限)で電流が上限づけられ、グリッド電極で制御する。間接加熱カソードはヒータと絶縁される。
半導体ダイオード・LEDのカソード
pn接合ダイオードではn側がカソードで、回路図記号のバー側がそれに対応する。LEDでは短いリードや樹脂の平坦面がカソード識別の目安で、順方向ではアノード→カソードに向けて電流が流れる(正孔流としては逆向き)。ESD保護と極性管理が重要である。
二次電池における用語整理
二次電池では放電時に還元が起こる電極がカソードであり、多くのLi-ion系では金属酸化物(例:LiCoO2)が正極かつカソードとなる。充電時は反応が逆転し、機器設計や論文表記では「正極/負極」と「カソード/アノード」を区別して記述する。
記号・表記と極性管理
欧州系図面ではドイツ語由来の“Kathode”から端子記号“K”が使われる場合がある。装置・基板上のマーキング、色分け、キーイングでカソード配置ミスを防ぐ。水素発生や有機浴の揮散などカソード側の安全対策(換気、遮蔽、電解停止時の処置)も欠かせない。
測定・評価手法
カソード挙動の評価には線形掃引ボルタンメトリー(LSV)、回転円盤電極でのK–L解析、電気化学インピーダンス分光(EIS)、分極曲線のTafel外挿、参照電極(SHE/RHE/Ag|AgCl)の校正が用いられる。膜抵抗や触媒劣化の分離同定に有効である。