オービタル|偏心軌道でムラ少ない仕上げ研磨

オービタル

オービタルとは、原子や分子中の電子の存在確率分布を与える波動関数(軌道)のことであり、古典的な「粒子が描く軌道」ではない。軌道はシュレディンガー方程式の解として得られ、三次元空間における確率密度と位相(符号)をもつ。原子では原子核のクーロン場に束縛された原子軌道(AO)、分子では原子軌道の線形結合で構成される分子軌道(MO)として記述される。各軌道には最大2個の電子(スピン反平行)が収容され、電子配置や化学結合、物性(磁性・光学応答・反応性)を体系的に説明する基礎概念である。

量子数と軌道の種類

水素様原子の固有状態は主量子数n、方位量子数l、磁気量子数m、スピン量子数msで特定される。l=0,1,2,3…はそれぞれs,p,d,f軌道に対応し、角運動量の大きさや節面の数を規定する。角度方向の節はl個、動径方向の節はn−l−1個であり、形状はsが球対称、pが二葉、dが四葉・ドーナツ状など特徴的である。多電子原子では遮蔽と相関のためエネルギーはnだけでなくlにも依存し、近似的順序として1s<2s<2p<3s<3p<4s<3d<4p…が用いられる。

  • 主量子数n:軌道の大きさ・エネルギー準位を規定する。
  • 方位量子数l:形状(s,p,d,f)と角度節の数を規定する。
  • 磁気量子数m:空間的な向きを規定し、2l+1個の縮退軌道を与える。
  • スピン量子数ms:±1/2。1軌道あたり2電子まで許容(パウリの排他原理)。

原子軌道と分子軌道(LCAO-MO)

分子では原子軌道の線形結合(LCAO)により分子軌道が構成され、重なり積分と対称性により結合性(bonding)、反結合性(antibonding)、非結合性(nonbonding)が生じる。σ結合は核間軸に対して回転対称、π結合は節面を介した側方重なりに由来する。電子を結合性軌道へ、反結合性軌道から排除するほど結合次数が増し、結合が強く短くなる。前者と後者の占有差から結合次数= (Nbonding−Nantibonding)/2 と定義される。最も高い占有軌道HOMOと最も低い空軌道LUMOのエネルギー差は反応性や光学遷移の指標となる。

電子配置と周期表の体系

実元素の基底状態はアウフバウの原理、パウリの排他原理、フントの規則で近似的に決まる。未充填縮退軌道では、電子はスピンを揃えて別々の軌道に入ることで交換相互作用が安定化する。これにより周期表のブロック(s,p,d,f)が整理され、価電子配置が化学的性質(原子半径、イオン化エネルギー、電気陰性度、磁性)を規定する。未対電子を含む配置は常磁性、全て対になれば反磁性となる。

ハイブリダイゼーション(混成軌道)

多中心結合や立体配置の説明には混成軌道が有効である。sp混成は直線(180°)、sp2は正三角形平面(120°)、sp3は正四面体(109.5°)の配向を与える。σ結合は混成軌道同士の正面重なりで強固になり、π結合は未混成p軌道の側方重なりで形成される。混成の度合いは原子間の電気陰性度差や結合の多重度、超共役などの効果と併せて実測値(結合長・結合角)を良好に再現する。

可視化、節面、確率解釈

可視化では|ψ|2等値面(電子密度等値面)や動径分布関数4πr2|R(r)|2を用いる。色分けされた位相(±)は干渉の符号を示し、LCAOでの結合性・反結合性の判別に不可欠である。節面は電子が存在しない領域であり、角度節はl個、動径節はn−l−1個でカウントできる。注意すべきは、オービタルは観測量ではなく、測定は密度や遷移エネルギーなど可観測量に投影される点である。

理論的基盤と計算化学

厳密解が得られるのは水素様原子のみであり、多電子系では近似が必須である。ハートリー–フォック(HF)は平均場近似でスレーター行列式から軌道を得る。電子相関は後処理(MP2、CI、CC)や密度汎関数理論(DFT)の交換・相関汎関数で取り込む。局在化の異なる概念(自然軌道、ボンド軌道、ワニエ関数)が用途別に使い分けられる。固体では分子軌道がk空間に展開したバンドとして現れ、HOMO–LUMOギャップはバンドギャップに対応づけられる。

関連する測定・実験的手掛かり

軌道エネルギーや占有は各種分光法から推定される。光電子分光(XPS/UPS)は結合エネルギーを与え、紫外・可視吸収や蛍光スペクトルはHOMO→LUMOなどの遷移を反映する。EPRは未対電子の存在を、NMRの化学シフトは電子密度分布と遮蔽効果を示す。STM/AFMは表面の状態密度や空間分布を可視化し、理論計算と組み合わせてオービタル像の解釈が進む。

解釈上の注意と限界

オービタルは数学的表象であり、基底関数やゲージ、局在化手法に依存する。図示される「形」は等値面の選び方次第で見え方が変わる。また、個々の電子を同時に位置と運動量で特定できず、測定過程で状態が変化する点にも留意するべきである。したがって、軌道は「観測される物理量を説明・予測するための便利なモデル」であり、分光データや結晶構造、反応速度論と整合的に用いることが重要である。