アルミ陽極酸化
アルミ陽極酸化とは、アルミニウムまたはアルミニウム合金を電解液中で陽極として通電し、表面に人工的な酸化皮膜を生成させる表面処理技術である。通称は「アルマイト」で、JIS H8601では硫酸法による皮膜を規定している。生成される酸化アルミニウム皮膜は硬度・耐食性・絶縁性に優れ、皮膜厚みは用途に応じて5μmから25μm程度まで作り分けられる。装飾用途から工業用途まで幅広く採用され、住宅サッシからカメラボディ、半導体製造装置の部品まで応用範囲は極めて広い。
酸化皮膜が生まれる仕組み
処理対象のアルミニウムを希硫酸浴中の陽極に接続し、対極(カソード)には鉛板やアルミニウム板を用いる。直流電流を流すと陽極表面で酸化反応が進み、金属アルミニウムが酸化アルミニウム(Al2O3)へと変化していく。一般的な条件は硫酸濃度15〜20%、液温18℃前後、電流密度1〜1.5A/dm²、電圧15〜20V程度である。皮膜は表面に垂直な無数の細孔をもつポーラス層と、金属素地に接する緻密なバリア層の二層構造をとる。この細孔構造こそが、後述する染色や封孔処理を可能にする鍵となる。
硫酸法とその他の電解液
工業的に最も普及しているのは硫酸法だが、電解液の種類によって皮膜特性は変わる。シュウ酸法は硫酸法より皮膜が硬く着色性にも優れる一方、電力コストが高い。クロム酸法は皮膜が薄く柔軟性に富むため、疲労強度を落としたくない航空機部品などに用いられてきたが、六価クロムを含むため近年は採用例が減っている。
| 方式 | 主な電解液 | 皮膜厚みの目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 硫酸法 | 希硫酸(15〜20%) | 5〜25μm | コストが低く汎用性が高い |
| シュウ酸法 | シュウ酸水溶液 | 10〜30μm | 硬く着色安定性が良い |
| クロム酸法 | クロム酸水溶液 | 2〜8μm | 皮膜が薄く疲労強度低下が小さい |
硬質アルマイトとの違い
耐摩耗性を重視する部品には、硬質陽極酸化(硬質アルマイト、JIS H8603)が選ばれる。液温を0〜5℃まで下げ、電流密度を通常アルマイトの数倍に引き上げて皮膜成長を制御する点が異なる。皮膜厚みは25〜60μmに達し、表面硬度はHV400前後まで高まる。A7075-T6のような高力合金にも適用できるが、皮膜が厚くなるほど寸法変化が無視できなくなるため、精密なはめあい部品では図面上で仕上がり寸法を考慮した下地寸法の設計が欠かせない。
封孔処理(シーリング)
陽極酸化直後の皮膜は多孔質のままで、細孔が開いた状態だと汚れや腐食成分が入り込みやすい。そこで95〜100℃の沸騰水、または酢酸ニッケル塩浴に浸漬して細孔をベーマイト化させ閉塞する封孔処理を行う。ニッケルめっきのように金属皮膜を新たに被せる処理とは異なり、封孔は既存の酸化皮膜そのものを緻密化させる工程である点が特徴だ。封孔不足のまま出荷すると、屋外使用品では数年で白い斑点状の腐食(白錆)が生じることがある。
着色とデザイン性
ポーラス層の細孔は染料や金属イオンを吸着できるため、封孔前の段階で着色を施すことが多い。代表的な着色方式は次の通りである。
- 染料染色:有機染料を細孔内に浸透させる方式で、発色の自由度が高い
- 電解着色(二次電解):スズ塩やニッケル塩を電解析出させ、耐候性の高い色調を得る方式
- 自然発色:合金元素の含有量差で灰色や青銅色を得る方式
- 複合着色:染料染色と電解着色を組み合わせ、深みのある色調を狙う方式
用途と採用分野
建築用サッシや外装パネルでは耐候性と美観の両立が求められ、シルバー・ブロンズ・ブラックといった発色が定番となっている。カメラボディや光学機器筐体では絶縁性と傷つきにくさが評価され、半導体製造装置では耐薬品性の高さから薬液配管周辺の部材にも採用される。一方、鏡面のような平滑さが必要な部位には電解研磨を前処理として組み合わせ、地肌の凹凸を減らしてから陽極酸化する事例も少なくない。屋外の大型構造物では重防食塗装との使い分けが検討され、軽量なアルミ部材ならアルマイト、鋼材主体の骨組みなら塗装系という選定になりやすい。
加工現場での注意点
前処理としての脱脂・エッチング精度が仕上がりを大きく左右する。油分や酸化被膜が残っていると、皮膜の色ムラや密着不良の原因になるため、脱脂装置による洗浄工程の管理が欠かせない。素材選定にも注意が要る。鋳物用アルミニウム合金のようにケイ素含有量が多い材料は皮膜が濁りやすく、装飾用途には向かない場合がある。金属材料の種類を踏まえた合金選定と、ねじ穴や勘合部へのマスキング設計を図面段階で織り込んでおくことが、量産時の歩留まりを左右する実務上のポイントである。コスト面では、通常アルマイトは比較的安価だが、硬質アルマイトや二次電解着色は工程が増える分、単価は数割高くなる傾向がある。
規格と検査
国内ではJIS H8601(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜)が普通アルマイトの等級・膜厚区分を定め、JIS H8603が硬質皮膜を対象としている。膜厚測定には渦電流式の非破壊測定器が使われ、耐食性評価には塩水噴霧試験やCASS試験が用いられる。皮膜の密着性は碁盤目試験で確認するのが一般的で、表面粗さや下地の仕上げ状態も検査項目に含めて管理することで、量産部品の品質を安定させることができる。
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