アメリカの政党政治
アメリカの政党政治は、アメリカ合衆国の憲法が想定していなかったにもかかわらず、歴史の過程で形成された政治制度上の慣行である。建国当初は派閥にすぎなかった政治集団が、やがて全国組織をもつ近代政党へと発展し、今日では民主党と共和党を中心とする二大政党制が一般的な政治構造となっている。大統領制・連邦制・権力分立といった制度の下で、政党は有権者の利害を集約し、選挙を通じて政府を形成し、公共政策をめぐる争点を提示する役割を担ってきた。
政党の起源と二大政党制の成立
アメリカの政党政治の起源は、建国期の連邦派と反連邦派の対立にさかのぼる。やがて連邦派は衰退し、トマス=ジェファソンらの共和党が支持を伸ばすが、これも内部分裂を経て、19世紀前半にはジャクソン派の民主党が全国政党として台頭した。一方、奴隷制拡大に反対する勢力から、19世紀半ばに新たな共和党が成立し、南北戦争期にアブラハム=リンカーンを大統領に送り出す。以後、民主党と共和党が全国レベルで主要な政党として競合する構図が確立し、小政党は存在するものの、実際の政権担当はこの二党にほぼ限定されてきた。
民主党と共和党の性格
民主党と共和党は、ともに大衆政党として幅広い支持基盤をもつが、その政策志向や支持層には一定の傾向がみられる。20世紀前半、特に大恐慌とニューディール政策以降、民主党は労働者や都市部、マイノリティ層の支持を背景に、政府による経済・社会への積極的介入を重視する傾向を強めた。これに対して共和党は、企業や中産階級、郊外の有権者を主な支持基盤とし、市場メカニズムや小さな政府を重視する立場を掲げることが多い。ただし両党とも内部には多様な潮流が存在し、時代によって政策や支持構造は変化し続けている。
予備選挙と候補者選出のしくみ
アメリカの政党政治に特徴的なのが、予備選挙による候補者選出である。大統領選挙や連邦議会選挙などでは、本選挙に先立って各党が州ごとに予備選挙や党員集会を行い、一般有権者や党員の投票によって候補者を決定する。このしくみによって、党指導部だけでなく草の根の支持者が候補者選びに大きく関与することが可能となり、政党組織は全国レベルで恒常的な選挙運動体として機能する。とりわけテレビ・インターネットの普及以後、候補者はメディア戦略や資金調達能力によって支持を拡大し、党内の力学に影響を与えるようになった。
利害集団・ロビー活動と政党
アメリカの政党政治は、多数の利害集団やロビー組織と密接に結びついている。企業団体、労働組合、市民団体、専門職団体などが政治献金や情報提供を通じて議員・政党に働きかけ、政策決定への影響力を確保しようとする。政党側も、こうした団体からの支援を選挙運動の資金・動員力として活用しつつ、政党綱領や法案の内容に反映させることで関係を維持する。利害集団の活動は、多元的な利益代表として評価される一方、金権政治・格差の拡大をもたらすとの批判も強く、政治倫理やロビー規制の議論を呼び起こしてきた。
アメリカ政治史の中での政党の役割
アメリカの政党政治は、歴史の転換点ごとに重要な役割を果たしてきた。独立以来の国家建設、南北戦争後の再建期、20世紀のニューディール政策や公民権運動、さらには冷戦やグローバル化への対応にいたるまで、政党は新たな連合を築きながら有権者を動員し、政治的選択肢を提示してきた。その過程で、地域対立、人種問題、宗教対立、経済格差など、多様な社会的亀裂が政党対立の線に重ねられ、ときに激しい政治的対立を生じさせている。こうした歴史的経験を踏まえると、アメリカの政党政治は単に二大政党が競い合う制度というだけでなく、社会の分断と統合をめぐる長期的な営みとして理解されるべきである。