アセチレン調整器
アセチレン調整器は、溶接・ろう付け・加熱作業に用いるアセチレンガスのシリンダ圧力を安定した低圧に減圧し、流量を制御するための機器である。多くは一次減圧・二次減圧・安全弁・圧力計(高圧計と低圧計)・調整ハンドル・ダイヤフラム・バルブシートで構成され、供給圧の変動や使用中の流量変化に対しても一定圧を維持する。アセチレンは不安定性が高く、分解爆発の危険を伴うため、機器の設計・選定・運用において酸素用とは異なる固有の安全要件が課される。
原理と構造
減圧原理は弾性体ダイヤフラムとスプリングによる平衡機構である。入口側(シリンダ側)高圧がバルブシートを経由して出口側に流入し、ダイヤフラムにかかる二次圧とスプリング荷重が釣り合う位置で開度が決まる。二段式は一次側で大きく減圧し、二次側で微調整するため、流量変動やシリンダ圧低下時でも設定圧の安定性が高い。ダイヤフラム材はゴム系や金属薄膜が用いられ、シート材はガス適合材が選定される。安全弁は二次側異常上昇時に開放して機器を保護する。
アセチレン特有の安全要件
アセチレンはおよそ0.2MPa以上で自己分解の危険が増すため、一般的な作業では二次圧を0.01〜0.1MPa程度に管理する。シリンダ内部は多孔質物質にアセトン等の溶剤が含浸され、化学的安定化が図られている。銅含有率の高い合金はアセチリド生成の懸念があるため接ガス部材には不適合であり、材質選定に注意する。また、逆火・逆流防止のため、調整器とトーチの間にはフラッシュバックアレスタとチェックバルブの併用が推奨される。
接続ねじと識別
燃料ガス系の接続は左ねじ(LH)で識別されることが多く、酸素系は右ねじ(RH)が一般的である。これにより誤接続を防止する。入口継手はシリンダ規格に合わせ、出口側はホース内径・流量に適合させる。圧力計は高圧計(シリンダ側)と低圧計(作業側)を備え、目盛範囲は使用圧の2〜3倍程度とし可読性を確保する。
セットアップ手順
- シリンダの転倒防止を確実に行い、バルブ保護キャップを外す。
- アセチレン調整器入口継手の異物・油脂を除去し、パッキン面を点検する。
- 手締め→適正トルクで固定し、調整ハンドルは必ず緩めておく。
- シリンダバルブを徐々に開き、漏えい検査液で全ねじ部・継手を点検する。
- 二次圧を目的圧まで上げ、トーチの開閉で圧力降下と回復挙動を確認する。
- フラッシュバックアレスタと逆止弁を所定向きで挿入し、点火は低流量から行う。
注意点(逆火対策)
ノズル詰まり・ホース折れ・過大圧力は逆火因子となる。小流量域では二段式や微調整バルブを用い、炎安定化を優先する。
選定のポイント
- 用途:ガス溶接、ろう付け、加熱用などで必要熱量が異なる。ピーク流量に10〜20%の余裕を持つ。
- 段式:単段式は軽量簡便、二段式は圧力安定性に優れる。低圧精密用途は二段式が有利。
- 材質:接ガス部の黄銅系は銅含有率や表面処理に配慮し、アセチレン適合の証明を確認する。
- 安全機構:安全弁の設定値・放出能力、逆火アレスタ接続可否、過圧保護の冗長性。
- 保守性:分解点検の容易さ、消耗品(シート、Oリング、ダイヤフラム)の入手性。
よくあるトラブルと対策
(1)二次圧が上がらない:ダイヤフラム破損やシート固着の疑い。分解清掃・部品交換を行う。(2)自動的に二次圧が上昇する(クリーピング):一次側弁の密閉不良。直ちに使用を中止し、シート・ニードルの当たり面を交換する。(3)圧力脈動:一次圧低下または供給流量の過剰。シリンダ交換や二段式採用で安定化を図る。(4)漏えい:継手面の傷やパッキン劣化。シール材は油脂を含まず、ガス適合品を用いる。
保守・校正
定期点検では外観(腐食・亀裂・ねじ山損傷)、機能(設定圧の再現性、弁の応答)、漏えい(静圧・作動時)の確認を行う。圧力計は基準器と比較し、偏差が許容を超える場合は交換もしくは校正を実施する。Oリング・シートは使用時間と開閉回数で劣化が進むため、予防交換が有効である。油脂の付着は発火・分解の誘因となるため厳禁である。
関連機器とシステム全体
アセチレン調整器は単体ではなく、シリンダ、逆止弁、フラッシュバックアレスタ、ホース、トーチ、ノズルから成る燃料ガス系の一部として設計される。各機器の圧力損失と許容流量を合算し、末端の炎安定条件を満たすよう系統設計を行う。環境温度やホース長、標高による密度変化も影響するため、実機条件での余裕度検討が重要である。
リスク評価と運用管理
リスクアセスメントでは、過圧、漏えい、逆火、材料不適合、誤接続、メンテ未実施を主要ハザードと定義し、設計(段式・安全弁・逆火防止器)、運用(手順書・点検記録・教育)、保全(予防交換・校正)の三層で対策を講じる。作業前点検、着火・消火手順、非常時の遮断手順を標準化し、変更管理により装置更新時の互換性と安全を担保する。
用語
フラッシュバック(逆火):火炎が流れに逆行して装置内部に侵入する現象。アレスタは多孔質または逆止弁一体型で阻止する。クリーピング:二次側閉止中に二次圧が上昇する現象。シート漏れが原因。