やすり(平)|平面の整形と仕上げに用いる工具

やすり(平)

やすり(平)は断面が矩形で、広い平面や直線エッジの整形・仕上げを主用途とする金工作業用の手工具である。鋼材や非鉄金属の寸法合わせ、直角出し、面取り、バリ取り、仕上げ粗さの改善などに用いられ、切削は押し行程で行うのが基本である。木工用のラスポに比べ、金属用の平やすりは目が規則的で切れ味と面品位の両立に優れる。一般に高炭素工具鋼に焼入れ・焼戻しが施され、硬さはおおむねHRC60前後が与えられる。JISでは形状・寸法・目の分類や表示方法が整理され、ISOにも共通原則が存在するため、番手や呼び寸法を基準に用途に適合する選定ができる。

形状と構造

平やすりのブランクは先端に柄を取り付けるためのタングを備え、刃部は一定の厚みと幅をもつ。片面または両面に目が刻まれ、側面(木口)に無目の「セーフエッジ」を採る製品もある。全長は150〜300mm程度が汎用域で、剛性・制御性・生産性の観点から作業対象と求める精度に応じて長さを選ぶ。柄は木製や樹脂製が一般的で、タングに圧入またはねじり込みで装着する。柄なし使用はタングが手掌を刺傷する危険が高く厳禁である。

目の種類と番手

切刃の配置は単目(single cut)と交差目(double cut)が代表である。単目は平行な斜め目で削り感が軽く、仕上げ寄りの用途に適す。交差目は二方向の目が交差し、食いつきが強く能率が高い。粗さは荒目・中目・細目・油目などの番手により表され、荒目は能率重視、細目は面粗さ・寸法精度重視に向く。軟質材やアルミ・銅合金には目詰まり抑制に配慮した油目や特殊目の平やすりが有効である。

用途と選定

直線エッジの仕立て、基準面の摺り合わせ、ケガキ線までの追い込み、バリ取りやC面取りなどに広く用いる。選定は①素材(軟鋼・焼入れ鋼・アルミ・銅・樹脂)、②要求粗さ(Ra、Rz目標)、③許容公差(面内平面度・直角度)、④生産性(除去量)で行い、荒取り→中仕上げ→仕上げの順で番手を段階的に細かくする。熱処理鋼や硬脆材にはダイヤモンドやすりの平形状を併用することがある。

基本操作(クロスフィリングとドローフィリング)

平面を効率よく均すには、やすりを送り方向に対し斜め45°前後で当てるクロスフィリングが有効である。長いストロークで全長を使い、押し行程のみ荷重を与え、戻しは軽く沿わせて目を傷めない。直線性や面の通りを高めたい場面では、ブランクを被削面に対し直交させ左右に引くドローフィリングが有効で、工具のたわみを抑え均一な仕上げ模様が得られる。作業中は頻繁に姿勢を変え、面全体の当たり具合を観察する。

直角出し・平面出しの勘どころ

直角出しはバイスや直角定規を活用し、当て面と仕上げ面の当たりを交互に確認する。ケガキを残し気味にクロスで寄せ、最後に一方向で通すと通りが安定する。平面出しでは当たりマーク(青ニスやマーカー)を用い、高い部分のみを選択的に削る。ハイトゲージの筋をガイドにする場合、セーフエッジを活かして隣接面を保護しながら攻めると段差や傷の混入を避けられる。

バリ取りと面取り(C面)の実務

穴縁や切断縁の微小バリは、平やすりの角を軽く当てて除去する。C0.2〜C0.5程度の面取りは、やすりを傾け一定荷重で短いストロークを繰り返すと均一に仕上がる。角部の面取りでは、片側無目のセーフエッジが有効で、仕上げたい面だけに切刃を作用させられる。仕上げ後は指腹で縁をなぞって引っ掛かりを検査し、必要に応じて細目で均し、ペーパーで最終調整する。

保持・治具とマーキング

ワークは万力で確実に固定し、キズ防止に銅当てやアルミ当てを併用する。薄板や細長物は撓みを抑えるため当て板を重ねる。ケガキはスコヤ・スチール直尺・スプリングコンパスなどを用いて明瞭に行い、余肉を把握しながら段階的に寄せる。基準面を明確に定め、常に基準に対する相対関係(直角・平行)を意識して当て方を決めることが精度維持の鍵である。

目詰まり対策と手入れ

軟材の削りかすはピンニング(目詰まり)を招き面傷の原因となる。作業前にチョークを薄く塗ると付着を抑制できる。詰まりはワイヤーブラシや専用のファイルカードで目に沿って清掃し、刃先を傷めないよう注意する。使用後は切粉と油分を拭い、防錆油を薄く塗布して個別に収納する。やすり同士を直接接触させると目が潰れやすいため、仕切りや鞘で保護するのが望ましい。

安全上の注意と品質保持

柄は必ず装着し、押し行程のみ力を掛ける。グローブは薄手で指先感覚を損なわないものを選び、切粉による刺傷を防ぐ。目の摩耗が進んだ工具は能率低下だけでなく面傷の誘因となるため更新する。回転物への当てやすりは厳禁で、手工具は手工具として用いる。番手や目の種類、長さ表示を明確に管理し、用途に応じた適正な組み合わせを保つことが、作業品質の安定に直結する。