かんばん方式|必要な物を必要な時に届ける生産管理

かんばん方式

かんばん方式は、後工程が必要な部品を必要な量だけ前工程へ引き取りに行き、前工程は引き取られた分だけを補充生産する生産管理の手法である。トヨタ自動車が開発したトヨタ生産方式の運用ツールで、部品名・品番・収容数・置き場などを記した「かんばん」と呼ばれる札が、工程間で生産と運搬の指示を伝える。JIS Z 8141(生産管理用語)にも用語として収録されており、国内外の製造業で引っ張り型(プル型)生産の代表例として扱われている。

誕生の経緯とスーパーマーケットの発想

考案者として知られるのは、トヨタの技術者であった大野耐一である。1950年代、大野は米国のスーパーマーケットで、客が棚から商品を取ると店側はその分だけを補充する仕組みに着目したといわれる。これを工場に当てはめ、後工程を「客」、前工程を「店」とみなした。1953年ごろに本社工場の機械工場で試行が始まり、1963年には全社規模での運用に広がった。当時の日本の自動車メーカーは資金が乏しく、大量の在庫を抱える余裕がなかった。作りすぎを抑える仕組みは、経営上の切実な要請から生まれたのである。1973年の第一次石油危機の後、減産局面でもトヨタが比較的早く利益を回復させたことから、この手法は国内の他業種からも注目を集めた。

トヨタ生産方式の中での位置づけ

トヨタ生産方式は「ジャストインタイム」と「自働化」の二本柱で説明される。かんばん方式はこのうちジャストインタイムを実現するための情報伝達手段にあたる。誤解されやすいが、かんばんそのものが目的ではない。札の枚数を少しずつ減らすと工程間の在庫が減り、隠れていた設備トラブルや品質問題が表面化する。そこを改善して、また枚数を減らす。この繰り返しでムダを削っていく点に本質がある。

かんばんの主な種類

工場内で使われるかんばんは大きく「引き取りかんばん」と「生産指示かんばん」に分かれる。前者は後工程が前工程の置き場から部品を運ぶときの指示書で、後者は前工程に対して何をいくつ作るかを伝える。プレスや鍛造のように段取りの関係でロット生産が避けられない工程では、三角形の「信号かんばん」を用い、在庫が一定量まで減った時点で生産を開始させる。協力会社との間では「外注部品納入かんばん」が流通し、納入時刻や受入場所まで記載される。

電子かんばん

近年は紙の札に代えてバーコードやQRコードを読み取る電子かんばん(eかんばん)が普及した。遠方の仕入先へ札を物理的に返送する手間がなくなり、発注情報をEDIで即時に送れる。ただし、紙の札が持つ「現物と情報が一体で動く」という視認性は薄れるため、現場では紙と電子を併用する工場も少なくない。

運用を支える6つのルール

大野耐一は著書『トヨタ生産方式』(1978年、ダイヤモンド社)の中で、かんばんの使い方として次のルールを示している。

  1. 後工程は、かんばんが外れた分だけ前工程へ引き取りに行く
  2. 前工程は、引き取られた量だけを引き取られた順に生産する
  3. かんばんがないときは運搬も生産もしない
  4. かんばんは必ず現物に付けておく
  5. 不良品を後工程に送らない
  6. かんばんの枚数を減らしていく

特に3番目は現場で破られやすい。手が空いた作業者が「先に作っておこう」と判断した瞬間、作りすぎのムダが発生し、仕組み全体が崩れる。

かんばん枚数の算出

必要なかんばんの枚数 N は、一般に次の式で求める。

N = D × (Tw + Tp) × (1 + α) ÷ C

ここで D は1日あたりの平均需要量、Tw は待ち時間、Tp は加工時間(いずれも日単位)、α は安全係数、C は1容器あたりの収容数である。例えば日当たり需要480個、リードタイム0.5日、安全係数0.1、収容数20個なら、480×0.5×1.1÷20で13.2となり、切り上げて14枚を発行する。安全係数を大きくすれば欠品は起きにくいが、その分在庫が膨らむ。実務では初期値を0.1~0.2程度に置き、稼働実績を見ながら1枚ずつ抜いていく運用が多い。

MRPとの違い

押し出し型(プッシュ型)の代表であるMRP(資材所要量計画)と比べると、性格の違いがはっきりする。

項目 かんばん方式 MRP
生産の起点 後工程の実際の消費 需要予測と基準生産計画
情報の流れ 後工程から前工程へ 計画部門から各工程へ
在庫水準 かんばん枚数で上限が決まる 計画の精度に左右される
得意な環境 繰り返し生産・需要が安定 多品種少量・個別受注
システム依存度 低い(紙でも運用可) 高い(計算機が前提)

実際の工場では両者を併用する例が目立つ。月次の大枠はMRPで部材を手配し、日々の工程間の動きはかんばんで制御するという組み合わせである。

導入の前提条件と限界

かんばんが機能するには、生産量と品種の流れをならす平準化が欠かせない。日々の生産量の変動がおおむね±10%を超えるような環境では、枚数の調整が追いつかず欠品か過剰在庫のどちらかに振れやすい。段取り替え時間が長い工程も障害となる。小ロット化ができなければ、かんばんの回転に合わせた多頻度生産は成り立たない。トヨタが1970年代にプレスの段取りを10分未満に縮めるシングル段取りへ取り組んだのは、この制約を外すためでもあった。

取引先への負担という論点もある。1日に8回、12回といった多回納入を求められると、仕入先側の輸送費や人件費が増す。発注側の在庫が減っても、サプライチェーン全体で見ると在庫を仕入先の倉庫へ押し付けただけ、という批判は1980年代から繰り返されてきた。2011年の東日本大震災では、在庫を絞った供給網が部品の途絶で一斉に止まり、重要部品に限って安全在庫を厚めに持つ見直しが各社で進んだ。

現場で起きやすいトラブル

運用段階で最も多いのは、かんばんの紛失と回収遅れである。札が1枚なくなれば、その分の補充指示が永久に出ず、気づいたときには欠品している。このため多くの工場では、かんばんポストの回収時刻を1日数回に固定し、発行枚数と回収枚数を毎日照合している。もう一つ厄介なのが、担当者が欠品を恐れて札を余分に複製する「隠しかんばん」で、在庫が増えた原因を追っても帳簿上は見えない。部品の収容数を設計変更のたびに見直さず放置するケースも散見され、容器の大きさと実際の入数が食い違っていく。

製造業の外への広がり

1990年に出版された『The Machine That Changed the World』(邦題『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える。』)を契機に、トヨタの手法はリーン生産方式として欧米で体系化された。2000年代後半にはソフトウェア開発でも、作業をカードにして「未着手・作業中・完了」の列に並べ、仕掛かり作業の上限数(WIP制限)を設ける手法が「カンバン」の名で広まった。物を運ぶ札ではないものの、後工程に余力が生じたときだけ作業を引き取るという考え方は、かんばん方式の原理をそのまま受け継いでいる。

コメント(β版)