高速度鋼|タングステン,モリブデン

高速度鋼

高速度鋼はハイス(ハイスピードスチール high-speed steel)といい、切削速度が早いスピードに耐えうることからきている。合金工具鋼より早く削れ、大きい焼入性、高い硬度、高い靭性、耐久性に優位であることに特徴がある。高速に耐えるため、切削コストを抑えることができる。タングステン(W系)高速度鋼とモリブデン(Mo系)高速度鋼に分かれる。

開発の経緯

1868年、イギリスの金属工学者ロバート・フォレスター・マシェットが開発した「マシェット鋼」が高速度鋼の原型とされる。当時の炭素工具鋼は、高速切削時の摩擦熱によって硬さが低下(焼戻し軟化)し、急速に摩耗する問題を抱えていた。1899年から1900年にかけて、フレデリック・テイラーとマンセル・ホワイトがアメリカのベスレヘム・スチール・カンパニーと共同で改良を行い、タングステンを多量に含む「テイラー・ホワイト鋼」として実用化に成功した。これにより炭素工具鋼の数倍に相当する切削速度が実現し、金属加工の生産性は飛躍的に向上した。日本国内での製造は、現在のプロテリアル安来工場で初めて成功し、以後国内の製造業に広く普及している。

切削速度

通常の鋼(工具鋼)は、高速の回転で切削すると発熱し、硬さが焼き戻されて急速に摩耗が進む。炭素工具の数倍の切削速度に耐え、生産性を上げることが目的としている。

化学組成と合金元素の役割

高速度鋼の基本組成は炭素(C)0.7〜1.5%を中心に構成され、各合金元素が特定の役割を担う。クロム(Cr)は約4%添加され、焼入性の向上と耐食性の付与に寄与する。タングステン(W)またはモリブデン(Mo)は硬質炭化物(MC型・M₆C型)を形成し、高温域での硬度保持と耐摩耗性の向上に貢献する。バナジウム(V)はMC型炭化物を形成して耐摩耗性をさらに高め、結晶粒の粗大化を抑制する。コバルト(Co)は固溶強化により赤熱硬度(red hardness)を高める効果をもつ。これらの元素が複合的に作用することで、通常の合金工具鋼では得られない高温硬度特性が実現される。

JIS規格による分類(SKH)

JIS G 4403に規定される高速度鋼鋼材はSKHの記号で表される。タングステン(W)系はSKH2・SKH3・SKH4・SKH10などが代表的で、「18-4-1鋼」とも呼ばれ、W約18%・Cr約4%・V約1%を基本組成とする。硬度と耐摩耗性に優れ、旋盤用バイトなどの切削工具に用いられる。モリブデン(Mo)系はSKH51〜57に代表され、タングステンの一部をモリブデンで置換した組成をもつ。高温硬度はW系に若干劣るものの、靭性に優れるためドリルやタップなどの衝撃を受けやすい工具に広く採用される。コバルト(Co)を添加したSKH55・SKH57などは、難削材の加工にも対応できる高性能鋼種として位置づけられる。

W系とMo系の比較

タングステン(W)系とモリブデン(Mo)系の主な違いは靭性と高温硬度のバランスにある。W系は高温(約600°C)での硬度低下が小さく、重切削や仕上げ切削に適している。一方、Mo系はWよりも密度が低く(軽量)、靭性が高いためチッピングが起きにくいという特長をもつ。現在の切削工具市場ではMo系が主流となっており、ドリルやエンドミルなどの汎用工具の大部分を占める。

タングステン(W系)高速度鋼

タングステン(W系)高速度は、SKH2、SKH3、SKH4、SKH10に代表される。18-4-1鋼と呼ばれ、18がW、4がCr、1がCoを示している。旋盤のバイトに使われる。

モリブデン系高速度工具鋼材

モリブデン系高速度工具鋼材

モリブデン(Mo系)高速度鋼

モリブデン(Mo系)高速度鋼SKH51~SKH58である。タングステン(W系)高速度鋼の廉価版として開発された。タングステン(W系)高速度鋼に比べ、粘性に優れ衝撃に強いため、ドリルやタップとして使われる。

モリブデン系高速度工具鋼材

モリブデン系高速度工具鋼材

高速度鋼の性質

高速度鋼に含有する成分はW、Mo、Cr、Vと炭化物形成元素で構成される。そのため基地が硬く、かつ2次硬化を示している。

高速度鋼の熱処理

高速度鋼は高炭素以外に高いタングステン(W)、高クロム(Cr)、コバルト(Co)、バナジウム(V)と多くの合金元素と量を含有している。基地への固溶が困難で、熱伝導が悪いため、鍛造後は時間をかけて、焼なましして軟化し、内部応力を除去する。機械加工のあと、焼入れを行うが、熱伝導性が悪いため、予熱して内外の温度を一定にしてから温度をあげる必要がある。最大温度は1200~1300℃で熱し、合金元素を固溶する。十分に固溶するが、油冷で冷却を行う。焼戻温度は2次硬化を得るため、550~600°Cで行う。

高速度鋼の焼入れ温度

高速度鋼の焼入れ温度

粉末高速度鋼

通常の溶解・圧延で製造された高速度鋼(溶解ハイス)は、凝固時に偏析が生じやすく、炭化物の粗大化や不均一分布が起こりやすい。これに対し、粉末冶金法を応用した粉末高速度鋼(粉末ハイス)は、アトマイズ法で製造した微細粉末を熱間静水圧プレス(HIP)や熱間押出しで成形・焼結するため、炭化物が微細かつ均一に分散した組織が得られる。その結果、耐摩耗性・靭性・工具寿命のいずれも溶解ハイスを上回り、難削材加工や精密加工用途の工具材として普及が進んでいる。コスト面では溶解ハイスより高価になるが、工具寿命の延長によりトータルコストの低減に貢献する場面が多い。

主な用途

高速度鋼は、ドリル・タップ・リーマ・ホブ・フライスカッター・旋削バイト・ブローチなど、あらゆる切削工具に用いられる。また、冷間鍛造ダイスやプレス用パンチなど、高い強度と耐摩耗性が求められる成形工具にも使用される。切削工具材料の中では超硬合金に比べて靭性に優れるため、断続切削や衝撃荷重が加わる加工条件、あるいは複雑形状の工具製作において優位性を発揮する。表面処理との組み合わせも一般的で、TiNやTiAlNなどのPVDコーティングを施すことで、さらなる耐摩耗性の向上と工具寿命の延長が図られる。

超硬合金との比較

高速度鋼超硬合金の最も大きな違いは、硬度・耐摩耗性と靭性のトレードオフにある。超硬合金は常温硬度(HRA92前後)・耐摩耗性ともに高速度鋼を大きく上回り、より高速な切削加工を可能にする。一方で超硬合金は脆性が高く、断続切削や衝撃的な負荷に対しては欠けやすい。高速度鋼は靭性に富み、複雑形状への加工性・再研削性・コスト面での優位性があるため、精密部品の少量加工や汎用加工工場では依然として広く使われる。両材料の特性を理解したうえで、加工条件・ワーク材質・コスト要件に応じて使い分けることが実務上重要である。

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