高誘電率膜
高誘電率膜は、従来のシリコン酸化膜や窒化酸化膜に比べて誘電率が高い薄膜材料の総称である。半導体デバイスの微細化が進む中で、ゲート絶縁膜としての厚さを極限まで薄くする要求が高まり、従来膜ではリーク電流や信頼性の面で課題が生じていた。そこで高誘電率膜を利用し、物理膜厚をある程度確保しつつも有効的な電気的厚さを薄く抑える技術が注目されるようになった。代表例としてHfO2やZrO2などの金属酸化物があり、近年のCMOS技術を支えるコア要素として広く導入されている。さらにIoTや5Gなど新たな市場の拡大に伴って、集積度や性能がますます求められるため、この高誘電率膜のさらなる高性能化と信頼性向上が、半導体産業の重要なテーマとなっている。
概要
高誘電率膜とは、誘電率(κ値)がシリコン酸化膜よりも大きい絶縁材料を指し、MOSトランジスタのゲート絶縁膜として特に注目されてきた。従来用いられてきたSiO2が1nm以下の微細化レベルに達すると、リーク電流や信頼性問題が深刻化するため、より高い誘電率で同等の容量を確保しながら物理的に厚めの膜を形成できることが利点である。これによって微細化を継続しつつ、MOSデバイスの特性を保つアプローチが実現したのである。
微細化との関連
シリコンICの微細化が進むほど、ゲート長は数nmオーダーに近づいていく。ゲート絶縁膜も同様に薄膜化しなければ高いドライブ電流を得られず、同時に低リーク特性も要求される。しかしSiO2やSiONでは膜を極限まで薄くするとトンネル電流が増大し、消費電力や発熱、誤動作などの課題が顕在化する。そこで誘電率の高いHfO2系膜などを使って等価酸化膜厚(EOT)を減らしつつ、膜自体はある程度の厚さを確保する手法が採られている。これが高誘電率膜が微細化を下支えする要因である。
代表的材料
HfO2(ハフニウム酸化物)やZrO2(ジルコニウム酸化物)に代表される金属酸化物がよく用いられている。これらはSiO2に比べ数倍以上の誘電率をもつうえ、半導体プロセスとの整合性を比較的確保しやすい特性がある。さらにAl2O3などの素材も研究対象となっており、それぞれの誘電率や熱安定性、界面特性を総合的に考慮しながら選択・組み合わせが行われている。
作製プロセス
高誘電率膜の成膜には化学気相成長(CVD)や原子層堆積(ALD)などの手法が用いられる。ALDは原料ガスを1層ずつ吸着・反応させるプロセスであり、原子レベルで均質な膜形成が可能であることから高い評価を得ている。ゲート絶縁膜としての信頼性を高めるためには、膜の欠陥密度を低減し、シリコンとの界面制御を厳密に行うことが欠かせない。この界面特性の優劣がMOSFETの閾値電圧やキャリア移動度に大きく影響するため、プロセス制御技術が競争力の源泉になっている。
界面制御
高誘電率膜はシリコンとの界面での不安定要素がSiO2より大きくなりやすい。金属酸化物の結晶構造や表面エネルギーの違いにより、界面電荷が蓄積したり欠陥生成を誘発する恐れがある。これを抑制するために、シリコン酸化膜の極薄バッファ層を形成して界面特性を改善したり、堆積後のアニーリングで欠陥を補償する技術が導入されている。特に微細領域では数nm以下の界面でも大きな影響を及ぼすため、高度な分析技術と制御手法が研究開発の焦点となっている。
リライアビリティ
従来のSiO2に比べて誘電率が高い分、高誘電率膜はリーク電流の改善に寄与する一方で、信頼性面の課題も存在する。電界を印加するたびに膜中の欠陥が徐々に増加し、絶縁破壊や閾値電圧のドリフトなどが顕在化する可能性がある。デバイスの長期動作を保証するために、加速試験やパラメータ測定を通じて膜特性の経時変化を詳細に評価し、プロセス条件や材料組成を最適化する取り組みが行われている。
応用分野と展開
スマートフォンやデータセンター用の高性能プロセッサ、次世代メモリなど、高密度かつ省電力動作を要求される分野で高誘電率膜の存在は不可欠になっている。またパワーデバイス領域でも絶縁耐圧やスイッチング特性を引き上げる目的で導入が検討されている。将来的には3次元構造をより活かしたデバイスや、新たな量子現象を利用した先端技術への適用も期待されており、微細化の限界を打破するキーマテリアルとして多方面から注目を集めている。