音響伝播|媒質と周波数で変わる音の広がり

音響伝播

音響伝播とは、媒質(気体・液体・固体)中の微小な圧力・密度・速度の摂動が波として空間と時間に広がる現象である。通常は線形近似が成り立ち、粒子速度は微小、等温・等エントロピー近似の下で記述できる。基本量は周波数f、角周波数ω=2πf、波数k=2π/λ、位相速度c、群速度cg、音圧p、粒子速度u、インテンシティI=⟨p·u⟩である。実務ではdB表記、周波数依存吸収、境界条件、伝播経路の幾何、乱流・温湿度の影響を併せて評価する。

定義と基礎

静止媒質に小摂動を与えると、圧力・密度・速度の結合方程式から波動解が得られる。線形近似では重ね合わせ原理が成り立ち、単色波はp(x,t)=Re{P₀e^{i(ωt−k·x)}}で表される。平面波・球面波・円筒波が代表形で、遠距離では幾何拡散により振幅が距離で減衰する。媒質の粘性・熱伝導・緩和は内部損失(周波数依存吸収)を与える。

波動方程式と音速

無損失・均質媒質では音圧pは∂²p/∂t²=c²∇²pに従う。音速cは媒質物性で決まり、気体の等エントロピー近似ではc=√(γRT/M)、液体・固体では体積弾性率Kや弾性定数と密度ρから定まる。分散が小さい場合、位相速度と群速度は一致し、パルスの波形は保存されやすい。

伝播様式(自由場・導波・室内)

自由場の平面波は反射のない理想伝播である。ダクト・配管・海中音響チャネルなどでは導波路効果によりモード化し、遮断周波数以下は減衰する。室内や機械筐体では多重反射により定在化・拡散化し、残響時間やモーダル過密度が支配的になる。

反射・屈折・回折とインピーダンス

境界での連続条件から反射・透過係数が定まる。平面境界の法線入射ではR=(Z₂−Z₁)/(Z₂+Z₁)、T=2Z₂/(Z₂+Z₁)であり、Z=ρcは音響インピーダンスである。斜入射では音響スネルの法則に従い屈折する。回折は開口・エッジで顕著で、低周波ほど影に回り込みやすい。

減衰と分散(吸収・散乱・緩和)

粘性・熱伝導による古典吸収は周波数とともに増大する。気体では分子緩和、液体では粘性散逸、固体では内部摩擦や粒界散乱が効く。不均質媒質中では散乱減衰が追加され、平均自由行程や相関長に依存する。分散性媒質では位相速度が周波数で変化し、パルスがひずむ。

非線形・高振幅効果(衝撃波・音響流)

高音圧では波形の前縁が速く進み、波面が急峻化して衝撃波に至る。非線形相互作用により高調波生成・自己変調・差周波成分が生じる。また境界層の整流により音響流(acoustic streaming)が発生し、微小混合や輸送に利用される。

周囲条件と実務(温湿度・風・乱流)

大気中のcは温度で主に決まり、湿度は吸収特性に影響する。風や勾配層は屈折を生み、背風側伝播を強める。屋外騒音評価では気象条件・地表面インピーダンス・地形の影響を考慮し、統計的伝播モデルや幾何音響を併用する。

計測と解析(伝搬の評価手法)

近傍場・遠方場で計測方針は異なる。アレイ計測とビームフォーミングは音源定位に有効で、伝達関数H(ω)やインテンシティ測定はパワーフローの同定に用いる。解析はFEM/FVM/BEMや射線法(GO/GEO)、パラキシアル近似、統計的エネルギー解析(SEA)を目的に応じて選定する。

代表的な適用例

  • 超音波:探傷・医用診断・溶着で短波長・指向性を利用する。
  • 騒音対策:吸音・遮音・防振・ダクト消音で反射・損失を設計する。
  • 配管・ダクト:モード遮断やインピーダンス整合で放射抑制を図る。
  • 水中音響:多重経路とサーモクラインを考慮した通信・ソナー設計。

主要パラメータ一覧

  • 音速c、密度ρ、インピーダンスZ=ρc
  • 周波数f、波長λ=c/f、波数k=2π/λ
  • 音圧p、粒子速度u、インテンシティI
  • 吸収係数α、散乱係数σ、残響時間T₆₀
  • 境界条件(剛壁・吸音・放射)、幾何指標(指向性係数)