鋳鉄
鋳鉄とは、炭素(2.14%~6.67%)とケイ素(1~3%)を含む鉄合金(Fe-C-Si)のものを指す。鋳鉄は融点が低く流動性に優れているため、通常は鋳造によって成形される。主にシリコンやマンガンなどの元素が添加され、材料の性質が調整される。機械的性質については、圧縮強さや耐摩耗性に優れている一方で、硬くてもろいため、炭素鋼と比べて、引張強さ、曲げ強さ、粘り強さは劣る。代表的な鋳鉄として、ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄などがある。鋳鉄は安価で加工が容易なため、古くから建築や機械部品、管材など多岐にわたる用途で使用されてきた。
鋳鉄の特徴
鋳鉄の特徴は、耐摩耗性と耐圧縮性の高さ、また優れた振動吸収性にある。これは、炭素がグラファイトとして析出することで金属組織が形成されるためである。ただし、靭性や引張強度は低く、割れやすいという欠点がある。この性質は材料内の炭素の形態に強く依存し、主に片状グラファイトを含む「灰鋳鉄」と球状グラファイトを含む「球状黒鉛鋳鉄」が存在する。
鋳造
鋳造は、金属を加熱して溶かし、型に流し込んで形を作る加工方法である。大量生産が必要な場合や、複雑な形状の部品を作る際に、鍛造や切削加工よりも効率的でコストを抑えられる特徴がある。また、鋳鉄は鋳造によって作られることから、その名前がつけられている。
炭素鋼との比較
鋳鉄は炭素鋼と比べて炭素の含有量が非常に多く、その大部分は黒鉛(graphite)として存在している。また、シリコン(Si)の含有量も多い特徴がある。さらに、炭素鋼が主に棒材や板材として加工されるのに対し、鋳鉄は融点が低いため、鋳造によって成形される点が大きな違いである。
全体の組織
鋳鉄の組織は主にフェライト、パーライト、黒鉛で構成されている。黒鉛は鋳鉄の大きな特徴であり、炭素含有量が多いため、鉄(Fe)と固溶せず、炭素がそのまま黒鉛として存在する。パーライトの中に不規則な形の黒鉛が分布し、その周囲は白いフェライトで囲まれているのが特徴である。
鋳鉄の性質
鋳鉄の機械的性質は、引張強さが約100〜300N/mm2と低く、伸びも1%程度と非常に脆い性質を持つ。しかし、その一方で硬さや圧縮強さ(300〜800N/mm2)が高く、耐摩耗性にも優れているため、工業材料として幅広く利用されている。

鋳鉄の種類と機械的性質
平衡状態図
平衡状態図は鋳鉄の組織を示す図で、炭素鋼の状態図を基に、横軸に炭素量の上限まで目盛りが取られている。鋳鉄では冷却速度の違いによって炭素(C)がセメンタイトや黒鉛に変化することが知られており、これを反映した図が「複平衡状態図」である。この図では、実線で示される鉄-セメンタイト系を「準安定状態図」、破線で示される鉄-黒鉛系を「安定状態図」と呼ぶ。

Fe-c系複平衡状態図
炭素(C)とケイ素(Si)の含有量と冷却速度
炭素(C)とケイ素(Si)の含有量、および冷却速度は鋳鉄の組織に大きく影響する。マウラーの組織図では、炭素(C)とケイ素(Si)に注目して鋳鉄の組織変化が示されている。例えば、炭素(C)とケイ素(Si)の含有量が少ない場合は白鋳鉄となり、含有量が多い場合は黒鉛を含むねずみ鋳鉄になることが知られている。

マウラ―組織図
製造工程
鋳鉄は高炉で溶解した鉄に炭素や他の合金元素を加え、鋳型に流し込んで冷却することで製造される。この工程では鋳造性が重要視されるため、融点が比較的低く、流動性に優れる灰鋳鉄が主流である。製造過程で発生する鋳肌や内部欠陥を減少させるため、適切な鋳型や温度管理が必要である。
用途
鋳鉄はその性質を活かし、さまざまな用途に利用される。建築分野では、装飾的な柱やフェンス、またマンホールの蓋として使用される。機械部品では、歯車やベアリングハウジング、ポンプケーシングなどが一般的だ。さらに、家庭用品として鋳鉄製の鍋やフライパンは熱伝導性に優れ、調理に適している。
メリット・デメリット
鋳鉄はコストが低く、大量生産に向いているため、幅広い分野で活用されている。その一方で、脆さや溶接性の低さ、また腐食しやすいという課題も抱えている。これらの課題を克服するため、合金設計の最適化や防錆処理技術の開発が進められている。
鋳鉄の種類
鋳鉄はその成分や構造によって分類される。代表的なものにはねずみ鋳鉄、まだら鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、鋳鋼、黒心可鍛鋳鉄、白鋳鉄、白心可鍛鋳鉄、可鍛鋳鉄、パーライト可鍛鋳鉄、合金鋳鉄などがある。JIS規格では、FC□□□として分類されている。(鋳鉄の種類)
鋳鉄の分類
名称 | 規格 | 用途 |
---|---|---|
普通鋳鉄 | FC100-250 | 一般用機械部品、内燃機関部品、工作機械部品 |
強靭鋳鉄 | FC300-350 | 一般用機械部品、内燃機関部品、工作機械部品 |
フェライト球状黒鉛鋳鉄 | FCD370-400 | 耐圧鋳物、耐熱部品 |
フェライト+パーライト鋳鉄 | FCD450-500 | 鋳鉄管、バルブ部品 |
パーライト鋳鉄 | FCD600-700 | カム軸、クランク軸 |
黒心可鍛鋳鉄 | FCMB270-360 | 管継手、農機具 |
白心可鍛鋳鉄 | FCMW330-540 | – |
パーライト可鍛鋳鉄 | FCMP440-690 | 車軸、シリンダライナ |