金属射出成形
金属射出成形は、微細な金属粉末と樹脂系のバインダーを混ぜ、プラスチックと同じように金型へ射出したあと、脱脂と焼結を経て金属部品に仕上げる加工法である。英語のMetal Injection Moldingの頭文字をとってMIMと呼ばれる。粉末冶金の一分野にあたり、切削では手間のかかる三次元形状の小さな部品を、高い寸法精度で大量に作れる。腕時計の外装、スマートフォンの内部部品、医療用の鉗子など、身近な製品にも多く使われている。
開発の経緯と規格化
MIMの原型は1970年代の米国で生まれた。カリフォルニア州のParmatech社でRaymond E. Wiechらが研究を進め、1979年には同法でつくった航空機用部品などが米国粉末冶金工業会(MPIF)の賞を受けた。これをきっかけに、工業的な価値が広く知られるようになった。日本には1980年代半ばに技術が入り、時計メーカーや粉末冶金メーカーが量産技術を育ててきた。規格としては、米国のMPIF Standard 35が材料特性の基準となっている。国際規格ではISO 22068:2012が、MIM材料の化学成分や機械的性質を定めている。
製造工程の流れ
工程は大きく4つに分かれる。プラスチックの射出成形と焼結を組み合わせた構成で、各工程の条件が最終的な寸法を左右する。焼結のときに線収縮率で15〜20%ほど縮むため、金型はその分を見込んで大きめにつくる。
- 混練:粒径3〜20μm程度の金属粉末とバインダーを、体積比でおよそ60:40の割合で加熱しながら練り合わせ、ペレット状の「コンパウンド」にする。
- 射出成形:コンパウンドを150〜200℃前後で溶かして金型に充てんし、「グリーン体」と呼ばれる成形体を得る。
- 脱脂:グリーン体からバインダーを取り除く。脱脂後の多孔質な状態を「ブラウン体」と呼ぶ。
- 焼結:水素や真空の雰囲気で加熱し、粉末同士を結合させる。SUS316Lであれば1300〜1380℃程度で処理し、相対密度は95〜99%に達する。
脱脂方式の違い
脱脂には、熱で分解する熱脱脂、溶剤でバインダーの一部を溶かし出す溶剤脱脂、硝酸ガスでポリアセタールを分解する触媒脱脂がある。触媒脱脂はBASF社の「Catamold」で広まった方式で、110〜120℃という比較的低い温度で速く進む。現場の感覚では、脱脂のしやすさは肉厚で決まる。肉厚1〜6mmなら扱いやすいが、10mmを超えると膨れや割れが出やすく、脱脂時間も大きく延びる。厚い部分は肉盗みで減らすのが設計の定石である。
他の工法と比べたときの位置づけ
金属部品の量産方法はほかにもある。MIMがどこで有利になるかは、部品の大きさと形状、生産数で判断することが多い。
| 項目 | 金属射出成形 | ダイカスト | 切削加工 | ロストワックス |
|---|---|---|---|---|
| 主な材料 | 鉄系、ステンレス、チタン、タングステンなど | アルミ、亜鉛、マグネシウム合金 | ほぼすべての金属 | 鋼、ステンレス、耐熱合金など |
| 得意な部品質量 | 0.1〜100g程度 | 数g〜数十kg | 制限は少ない | 数g〜数十kg |
| 形状の自由度 | 高い(小型で複雑な形状) | 高い(薄肉の大物) | 工具が届く範囲に限られる | 高い |
| 材料歩留まり | 高い(ランナーは再利用可能) | 比較的高い | 低い(切りくずが多い) | 中程度 |
| 適したロット | 年間1万個以上 | 大量生産 | 単品〜中量 | 中量 |
寸法公差は呼び寸法の±0.3〜0.5%が一般的な目安である。精密切削ほどの精度は出ないが、ロストワックスよりは細かい形状を正確に再現できる。融点の高いステンレス鋼や鉄系材料を複雑な形に成形できる点は、ダイカストにはない強みである。
使われる主な材料
量産で最もよく使われるのはステンレス鋼である。耐食性を重視する部品にはオーステナイト系のSUS316L、強度が必要な部品には析出硬化系のSUS630(17-4PH)が選ばれる。構造部品にはFe-2NiやFe-8Niなどの低合金鋼が多く、浸炭焼入れで表面を硬くして歯車やレバーに使う。医療やスポーツ用品では、純チタンやチタン合金Ti-6Al-4Vの需要が伸びている。チタンは酸素や炭素を取り込みやすく、粉末の管理と焼結雰囲気の制御が品質の決め手になる。比重の大きいタングステン重合金はスマートフォンの振動用おもりに、熱膨張率の低いコバール(Fe-29Ni-17Co)は電子部品の気密パッケージに使われる。
量産現場でのコストの考え方
MIMを採用するかどうかは、ほとんどの場合コストで決まる。金型は複雑さによって数百万円かかり、MIM用の微粉末は同じ材質の棒材と比べてkgあたり数倍高い。そのため試作や年間数千個程度では割高になりやすい。逆に、切削で1個あたり数十分かかるような複雑形状の小物を年間数万個以上つくるなら、置き換えによる効果は大きい。
二次加工まで含めた見積もりも欠かせない。焼結したままの表面は表面粗さRa1μm前後で、外観部品なら研磨やバレル仕上げを加える。厳しい公差がある部分にはサイジングや追加工を行う。航空機や医療用途では、熱間等方圧加圧(HIP)で内部に残る空孔をつぶし、密度を99.5%以上に高めることもある。
採用が進む分野
早くから使われてきたのは時計で、ステンレス製のケースやバンドの駒はMIMの代表的な製品である。スマートフォンではSIMトレイ、カメラ周りの小さな部品、折りたたみ機種のヒンジ部品などに採用され、数千万個単位で生産されることもある。
自動車分野では、可変ジオメトリーターボのノズルベーンが代表例である。耐熱鋼を使い、排気温度が900℃を超える過酷な環境に耐える。そのほか燃料噴射系やドアロック機構の部品にも広がっている。医療分野では、内視鏡用鉗子の先端部品や歯科矯正用ブラケットが量産されており、微細な形状を一体でつくれるMIMの特性がよく生かされている。
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