酸化皮膜|金属表面を腐食から守る極薄の保護層

酸化皮膜

酸化皮膜とは、金属や半導体の表面に生じる酸化物の薄い層のことである。大気中に置かれたアルミニウムやステンレス鋼が長く光沢を保つのは、厚さ数nmの酸化物層が素地と酸素の接触を遮っているからにほかならない。自然に形成されるものと、陽極酸化や黒染めのように人工的に厚く生成させるものがあり、防食、装飾、電気絶縁、耐摩耗など用途は幅広い。一方、鉄の赤錆のように素地を守らない酸化物も同じ「酸化物の層」であり、保護性の有無は皮膜の緻密さと密着性で決まる。

守る皮膜と守らない皮膜

同じ酸化反応から生まれるのに、アルミニウムの表面は安定し、炭素鋼は内部まで錆が進む。この違いを説明する古典的な指標が、1923年にN.B.PillingとR.E.Bedworthが提案したPilling-Bedworth比(PB比)である。生成した酸化物の体積を、もとになった金属の体積で割った値で表す。

PB比 = V酸化物 / V金属 = (Mox × ρm) / (n × Am × ρox)

ここでMoxは酸化物の分子量、Amは金属の原子量、nは酸化物1分子中の金属原子数、ρは密度を指す。値が1未満だと皮膜は素地を覆いきれず多孔質になり、2を大きく超えると圧縮応力で割れやはく離が起こりやすい。マグネシウムは約0.81、アルミニウムは約1.28、鉄(Fe2O3)は約2.1とされ、実際の耐食性の傾向とおおむね一致する。ただし例外も多く、現在は目安の一つとして扱われる。

自然に生じる不動態皮膜

ステンレス鋼の耐食性を支えるのは、クロムを主体とした厚さ1~3nm程度の不動態皮膜である。クロム含有量がおよそ10.5%を超えると、この皮膜が連続的に形成されるようになる。

面白いのは、傷が付いても酸素さえあれば数秒から数分で自己修復する点にある。逆に、隙間の奥や堆積物の下のように酸素が届きにくい場所では修復が追いつかず、孔食やすき間腐食の起点になる。塩化物イオンも皮膜を局所的に破壊する代表的な因子で、海浜地区でSUS304よりモリブデンを含むSUS316が選ばれるのはこのためである。

人工的に生成する方法と比較

自然皮膜は薄く、摩耗や薬品には耐えられない。そこで工業的には皮膜を意図的に厚く、あるいは機能を持たせて生成させる。主な手法を並べると次のようになる。

手法 対象材料 主な皮膜 代表的な膜厚 関連規格
陽極酸化(アルマイト) アルミニウム合金 Al2O3 5~25μm(硬質は50μm以上) JIS H 8601、JIS H 8603
黒染め(四三酸化鉄皮膜) 炭素鋼、低合金鋼 Fe3O4 1~2μm JIS K 8576(処理液成分の参考)
熱酸化 シリコン SiO2 数nm~数μm SEMI規格ほか
化成処理(クロメート等) 亜鉛めっき、アルミニウム 酸化物・水和物の複合層 0.1~1μm JIS H 8625

黒染めは140℃前後の濃厚な水酸化ナトリウム溶液に鋼材を浸漬して生成させる。寸法変化がほぼなく単価も安いため、治具や機械部品の外観処理として多用されてきた。ただ皮膜自体の防錆力は低く、防錆油との併用が前提となる。屋外で使う部品に黒染めだけを指定すると、出荷後まもなく赤錆のクレームにつながりやすい。

アルマイトで起こる寸法変化

陽極酸化皮膜は素地を消費しながら成長するため、膜厚の約1/2が外側へ、残りが内側へ向かうと説明されることが多い。膜厚20μmなら片側で約10μm寸法が増え、穴径なら直径で約20μm小さくなる計算である。はめあい公差がh7やH7クラスの部位では、図面段階でマスキングを指示するか、処理後の寸法で公差を設定しておかないと組立不良を招く。外注加工ではこの指示漏れが意外に多い。

高温で成長するスケール

熱間圧延や熱処理の工程では、鋼の表面に黒皮(ミルスケール)と呼ばれる厚い酸化物層ができる。570℃を超える温度域では内側からFeO、Fe3O4、Fe2O3の3層構造となり、厚さは数十μmから100μm超に達する。

黒皮は一見すると保護膜のように見えるものの、冷却時の熱収縮差で微細な割れを抱えている。そのまま塗装すると、黒皮ごと塗膜がはがれる事故が起こる。重防食塗装ではショットブラストでISO 8501-1のSa2½以上に除錆するのが一般的で、鋼構造物の塗装仕様書でもまず確認される項目となっている。

溶接焼けと皮膜の再生

ステンレス鋼を溶接すると、ビード周辺に黄色から青、黒へと変化するテンパーカラーが現れる。これは高温で厚く成長した酸化物層で、色は膜厚による光の干渉によって生じる。

問題は、この焼けの直下にクロムが欠乏した層ができることにある。外観を整えるだけでなく耐食性を回復させるには、焼けを除去したうえで不動態皮膜を再生させなければならない。現場で使われる処置には次のようなものがある。

  • フッ硝酸系の薬剤による酸洗い(浸漬またはペースト塗布)
  • リン酸系電解液を用いた電解焼け取り
  • ステンレス専用ブラシやバフによる機械的除去
  • 硝酸系溶液による不動態化処理(ASTM A967などに規定)

食品機械や配管ではバックシールドガスで焼けそのものを抑える方法も併用される。機械研磨だけで済ませると表面に鉄粉が埋め込まれ、もらい錆の原因になるので、研磨工具はステンレス専用に分けて管理するのが現場の常識となっている。

半導体製造でのシリコン酸化膜

防食とは別の役割を担うのが、半導体のシリコン酸化膜である。シリコンウエハーを800~1200℃の酸素または水蒸気雰囲気で加熱すると、きわめて均質なSiO2膜が得られる。乾燥酸素によるドライ酸化は成長が遅いが膜質に優れ、水蒸気を使うウェット酸化は厚膜を短時間で形成できる。成長速度は1965年に発表されたDeal-Groveモデルで記述され、初期は表面反応律速、厚くなると酸素の拡散律速に移る。

MOSトランジスタのゲート絶縁膜としては長く主役を務め、微細化の進展とともに膜厚は2nm以下まで薄くなった。リーク電流の増大を抑えるため、先端ロジックでは酸化ハフニウムなどの高誘電率材料に置き換えられているものの、素子分離や保護膜としての酸化皮膜は今もプロセスの各所で使われている。

膜厚と品質の評価方法

アルマイトの膜厚管理には渦電流式膜厚計が広く使われ、JIS H 8680に試験方法がまとまっている。非破壊で数秒のうちに測れるため、受入検査ではまずこれが用いられる。断面を樹脂に埋めて研磨し顕微鏡で観察する方法は時間がかかるが、局所的な膜厚ムラまで確認できる。

ナノメートル級の不動態皮膜になると、X線光電子分光(XPS)やオージェ電子分光で深さ方向の組成を調べる必要がある。耐食性そのものは塩水噴霧試験(JIS Z 2371)で評価されることが多く、アルマイトやめっき部品の仕様書では「中性塩水噴霧240時間で腐食面積率○%以下」といった形で合否基準が設定される。

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