遠心分離
遠心分離は、容器を高速で回転させて遠心力を発生させ、密度の異なる物質を分ける操作である。重力だけでは数時間から数日かかる沈降が、数分から数十分で終わる。牛乳からクリームを分ける用途から始まり、現在は化学、食品、医薬、下水処理、原子力など多くの産業で使われている。液体中の固体粒子を取り除く固液分離と、混ざり合わない2種類の液体を分ける液液分離のどちらにも使える点が特徴である。
酪農から始まった技術の歩み
工業用の遠心分離機の原型は、1864年にドイツのアントニン・プラントルが考案した牛乳用のクリーム分離機とされる。その14年後の1878年、スウェーデンのグスタフ・ド・ラバルが連続運転できる分離機を開発した。これがのちのアルファ・ラバル社の出発点である。一度に決まった量を処理するバッチ式から連続式に変わったことで、乳業の生産性は大きく上がった。学術の分野では1920年代にテオドール・スヴェドベリが超遠心機を完成させ、タンパク質の分子量を測れるようにした。スヴェドベリは1926年にノーベル化学賞を受け、沈降係数の単位「S(スヴェドベリ)」に名前が残っている。
遠心力で沈降が速くなる理由
液体の中で粒子が沈む速さは、ストークスの法則でおおよそ求められる。重力のもとでの沈降速度vは、v = d2(ρp − ρl)g / 18μ で表される。dは粒子の直径、ρpは粒子の密度、ρlは液体の密度、μは液体の粘度である。回転させるとgの代わりにrω2(r:回転半径、ω:角速度)が入るため、沈降速度は角速度の2乗に比例して大きくなる。粒子径も2乗で効くので、直径1µmの粒子は10µmの粒子と比べて100倍沈みにくい。密度差の小さい乳化液や、比重が水に近い有機物を分けるのに高い回転数が必要になるのはこのためである。
相対遠心加速度(RCF)
遠心機の能力は回転数(rpm)では比べず、重力加速度の何倍かを示すRCF(単位:×g)で比べる。計算式は RCF = 1.118 × 10−5 × r × N2(r:回転半径[cm]、N:回転数[rpm])である。たとえば半径10cmのローターを10,000rpmで回すと、約11,180×gになる。回転数が同じでもローターの半径が違えば加速度も変わる。そのため、論文や作業標準書では回転数ではなくRCFで条件を書くのが一般的である。
機種ごとの構造と得意分野
産業用の遠心機は、固形分を排出する方法と回転体の形によって分類される。とくによく使われるのは分離板型とデカンタ型の2つである。分離板型は円錐形の板を数十〜百数十枚重ねた構造で、板と板のすき間を1mm前後にして粒子が沈む距離を短くしている。デカンタ型は、外側の筒(ボウル)とその内側のスクリューをわずかに異なる速さで回し、沈んだ固形分をかき出しながら連続して処理する。
| 形式 | 代表的な遠心加速度 | 主な処理対象 | 運転方式 |
|---|---|---|---|
| 分離板型(ディスク型) | 5,000〜15,000×g | 乳製品、油脂、ビール | 連続 |
| デカンタ型(スクリュー型) | 2,000〜4,000×g | 汚泥、でんぷん、樹脂粉 | 連続 |
| 円筒型(チューブラー型) | 10,000〜20,000×g | 微粒子、ワクチン、潤滑油 | 半連続 |
| バスケット型 | 500〜1,500×g | 結晶、化学品の脱液 | バッチ |
| 超遠心機 | 最大約1,000,000×g | タンパク質、ウイルス | バッチ |
産業ごとの使われ方
分けたい物質の大きさや濃度によって使う機種は変わるが、主な用途は次のとおりである。
- 食品:牛乳の脱脂、果汁の清澄化、食用油の精製
- 下水・排水:排水処理で出る汚泥の脱水(含水率を約98%から80%前後まで下げる)
- 石油・船舶:燃料油や潤滑油からの水分とスラッジの除去
- 医薬・バイオ:培養液からの菌体の回収、血液成分の分離
- 原子力:ガス遠心法によるウラン濃縮
機種選定と運用での注意点
機種を選ぶときは、まず処理量、固形分の濃度、粒子径、求める清澄度の4点を確認する。濾過で十分に処理できる液を遠心機で処理すると、設備費が高くつくことが多い。デカンタ型は処理量が数m³/h程度の機種でも、本体価格が数千万円に達する場合がある。そのため、本体価格だけでなく、電力費や保守費を含めた長期の総費用で比べることが欠かせない。スクリューの羽根は固形分によってすり減りやすいので、超硬合金のチップを取り付けたり、タングステンカーバイドを肉盛りしたりして保護する。液に触れる部分にはSUS316Lなどのステンレス鋼を使うのが基本で、塩化物を多く含む液では二相ステンレスを選ぶこともある。
安全管理と定期点検
高速で回る部品は、壊れたときに放出されるエネルギーが大きい。ローターがわずかに不釣り合いなだけでも、振動や軸受の損傷につながる。日本では労働安全衛生規則第141条により、遠心機械は1年以内ごとに1回、定期自主検査を行うことが義務付けられている。実験室用のローターは使用回数や累積運転時間で寿命を管理し、上限を超えたものは最高回転数を下げて使う(ディレーティング)か廃棄する。対向する位置に置くサンプルの重さの差を0.1g以内にそろえるといった基本動作を守ることも、事故の防止につながる。
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