超高分子量ポリエチレン
超高分子量ポリエチレン(Ultra High Molecular Weight Polyethylene、略称UHMW-PE)は、平均分子量がおよそ100万〜700万g/molに達するポリエチレンである。一般的な高密度ポリエチレンの分子量は数万〜数十万程度なので、その10倍以上の長い分子鎖をもつ。分子鎖が長くなると絡み合いが強くなり、耐摩耗性、耐衝撃性、自己潤滑性が大きく向上する。その一方で、溶融しても流れにくいため、通常の樹脂のような成形はできない。材料規格はISO 11542、国内ではJIS K 6936で定められており、医療用途向けにはISO 5834やASTM F648がある。
開発の経緯
起源は1950年代の西ドイツにある。カール・ツィーグラーが見いだしたチーグラー・ナッタ触媒によって低圧重合が可能になり、ルールケミー社(のちのヘキスト社)が1955年ごろに工業化した。当初の商品名「Hostalen GUR」は、今もこの材料の代名詞として通用している。日本では三井石油化学工業が1970年に「ハイゼックスミリオン」を発売し、国内メーカーによる供給が始まった。医療分野ではもっと早く、英国の整形外科医ジョン・チャンレーが1962年に人工股関節の臼蓋側の材料として採用している。
分子量がもたらす性質
密度は0.93〜0.94g/cm3で水より軽い。融点は約136℃と通常のポリエチレンとあまり変わらないものの、性質は大きく異なる。とくに知られるのが耐摩耗性で、砂を混ぜたスラリー中で試験片を回転させるサンドスラリー摩耗試験では、ナイロンやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)よりも減りが少なく、炭素鋼を上回る結果が出ることもある。動摩擦係数は0.10〜0.20程度。シャルピー衝撃試験では、ノッチを入れても破断しないグレードが多い。低温にも強く、−200℃付近でも脆くなりにくいので、液化ガス設備の部品にも使われる。
ただし弱点もある。荷重をかけ続けると変形が進むクリープが起きやすく、連続使用温度の目安は80℃前後にとどまる。剛性も金属やエンジニアリングプラスチックには及ばないため、構造材としてではなく、こすれる面や当たる面に使うのが基本になる。
| 項目 | 超高分子量PE | 高密度PE | PTFE | ナイロン6 |
|---|---|---|---|---|
| 密度(g/cm3) | 0.93〜0.94 | 0.94〜0.96 | 2.1〜2.2 | 1.13 |
| 動摩擦係数(対鋼) | 0.10〜0.20 | 0.20〜0.30 | 0.04〜0.10 | 0.20〜0.40 |
| 耐摩耗性 | 極めて良好 | 普通 | 劣る | 良好 |
| 吸水率 | ほぼ0% | ほぼ0% | ほぼ0% | 1.5〜3% |
| 連続使用温度の目安 | 約80℃ | 約80℃ | 約260℃ | 約100℃ |
成形が難しい理由と加工法
溶けても流れない、というのがこの材料の加工を難しくしている点である。メルトフローレートは通常の測定条件(190℃、21.6kg)でもほぼゼロで、普通の射出成形機では金型の中を満たすことができない。そこで主に使われるのが圧縮成形である。粉末を金型に入れ、200℃前後に加熱しながら数MPaの圧力をかけて板やブロックをつくる。丸棒や異形材には、プランジャーで粉末を少しずつ押し出すラム押出という押出成形の一種を使う。成形品は数時間かけて冷やさないと内部ひずみが残り、切削したあとに反りが出る。
切削加工での注意点
現場では、メーカーから板材を仕入れて切削で部品を仕上げることが多い。刃物はよく研いだものを使う。切りくずが長くつながりやすいので、送りを大きめにして熱をこもらせないのがコツになる。もう一つ見落とされやすいのが熱膨張で、線膨張係数は約2×10−4/Kと鋼の15倍以上ある。伸び量は次の式で見積もれる。
ΔL = α × L × ΔT
長さ1000mmのライナーで温度差が40Kある場合、伸びは約8mmになる。このため、ボルト穴を長穴にする、皿ボルトで頭を沈めるといった設計上の工夫が欠かせない。接着剤もほとんど効かないので、機械的に固定するのが一般的である。
産業での使われ方
こすれる、ぶつかる、付着するといった問題を抱える箇所の多くで採用されている。代表的な用途を挙げる。
- 石炭・鉱石・穀物を扱うシュートやホッパーの内張り(ライナー)
- 食品・飲料工場のコンベヤガイドレール、スターホイール
- 製紙機械のサクションボックスカバー、ドクターブレード
- 港湾の防舷材、浚渫船の部品、人工スケートリンクのボード
- 人工股関節・膝関節の摺動部材
値段は一般的な高密度PEの数倍だが、PTFEよりは安い。粉体のホッパー内張りでは、ステンレスの上に厚さ10〜20mm程度の板を張って付着を減らし、ブリッジの発生を抑える使い方がよく見られる。粉じんが多い現場では静電気が問題になりやすく、カーボンを配合した導電グレードを選ぶことになる。
医療材料としての進化
人工関節では、金属やセラミックの骨頭とこすれ合う相手材として、半世紀以上使われ続けている。課題だったのは摩耗粉で、体内に散らばると周囲の骨が溶ける骨溶解を起こし、ゆるみの原因になる。1990年代後半からは、50〜100kGyのガンマ線や電子線を当てて分子鎖どうしを結びつけた架橋品が普及し、摩耗量は大きく減った。照射後に残るラジカルによる酸化を防ぐため、ビタミンEを加えたグレードも登場している。
高強度繊維への展開
分子鎖を引き伸ばしてそろえると、繊維として驚くほどの強さが出る。1979年にオランダのDSM社がゲル紡糸法を発明し、1990年ごろ「ダイニーマ」として事業化した。米国ではハネウェル社が「スペクトラ」を手がけている。引張強さは約3.5GPa、弾性率は100GPaを超え、重さあたりの強さはスチールワイヤーの約8倍、アラミド繊維と比べても高い。密度0.97g/cm3で水に浮くため、係留ロープや漁網に向いており、防弾チョッキや切創防止手袋にも使われる。融点が低く150℃程度で強度を失うので、高温になる場所では使えない。
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