角鏝|角部と隅部の面出し仕上げ用こて

角鏝

角鏝は、左官用の鏝の一種で、刃先の角が直角に立った形状を持ち、出隅や入隅の稜線をシャープに出すために用いる工具である。モルタルや漆喰、石膏などの塗り材を押さえながら、角部の寸法・通り・平滑度を同時に確保できる点が特長で、下塗りから上塗りの最終押さえまで幅広く活躍する。板(ブレード)の平面精度と「しなり」、柄(グリップ)の握りやすさ、首(柄と板をつなぐ部分)の角度が操作性と仕上がりを左右する。一般に炭素鋼やステンレスの薄板を用い、0.3〜0.6mm程度の薄さで微小な面圧を均一に伝え、角のダレや波打ちを防ぐ。

形状と機能

角鏝の板は矩形で、先端のコーナーが立っているため、定規や当て木に沿わせて走らせると直線的な稜線が形成できる。首の角度は柄を軽く寝かせても板面が材料に密着するよう設定され、水平・垂直どちらの面でも押さえやすい。板の「そり」は材料の追従性を高め、微細な凹凸をつぶす一方、過度なそりはエッジの食い込みを招くため、仕上げ用途では穏やかなそりが好まれる。

刃先の幾何とエッジ処理

直角エッジは稜線の直進性に寄与するが、材料により微小な面取り(R付与)が有効な場合がある。Rは角欠けの抑制や引っ掛かり防止に効くが、R過多は角の甘さにつながるため最小限が基本である。板端の研ぎは#400程度の砥粒でバリを落とし、均質な当たりを確保する。

材質と仕様

板材は炭素鋼がコシと研ぎ感に優れ、ステンレスは耐食性に優れる。薄板は微小変形で面圧を均しやすく、厚板は成形時の平面維持に強い。柄は木製(朴木など)が汗でも滑りにくく、樹脂柄は耐候・衛生性に優れる。代表寸法は板幅30〜60mm、板長150〜240mm程度で、狭小部には短寸・細幅、広面には長寸・標準幅が望ましい。

  • 板材:炭素鋼(研ぎやすくコシが強い)/ステンレス(錆に強い)
  • 板厚:おおむね0.3〜0.6mm、仕上げは薄め、成形はやや厚め
  • 柄:木製はフィット感、樹脂はメンテ性と耐久
  • 首角度:壁・天井・床いずれでも板面が密着する設計が理想

用途と基本操作

  1. 下地調整:出隅・入隅は先に下塗りで形を出し、通りを当て木で確認する。必要に応じ盛板で材料量を安定供給する。
  2. 立ち上げ:当て木や定規に沿って角鏝を上下に走らせ、面から稜線へ材料を送り込む。片側からだけでなく両側から交互に寄せて空隙を消す。
  3. 押さえ:硬化初期の「戻り」を見極め、軽い面圧で数回に分けて押さえる。強圧は材料の引きずりや角の潰れを招く。
  4. 仕上げ:最終パスは長手方向に一定速度で、稜線を先導して曳く。必要に応じ霧吹きで表面水分を整え、鏝ムラを消す。
  5. 関連工具:広面はの本体(中塗り鏝・仕上げ鏝)で均し、角部にのみ角鏝を当てると効率的である。粗均しにはくまでを使う場合がある。

他の鏝との違い

角鏝は稜線を立てる専用性が高く、広面の平滑化に特化した仕上げ鏝や、材料を載せて面を起こす中塗り鏝とは役割が異なる。目地や細幅部は目地鏝、シーリングや充填材の均しはコーキングヘラの領域であり、工具選択の棲み分けが施工品質を安定させる。

  • 仕上げ鏝:面粗さの均一化に適し、角の立ち上げは不得手
  • 中塗り鏝:材料搬送量が多く、成形・肉付けに適する
  • 目地鏝:幅の狭い溝や入隅の充填に特化
  • 角鏝:稜線形成・角の直進性と通り出しに特化

選定のポイント

  • 寸法:狭小部は幅30〜45mm、一般的な柱際・窓回りは45〜60mm
  • 板厚としなり:仕上げ重視は薄め、成形重視はやや厚め
  • 材質:屋外・湿潤作業が多いならステンレス、研ぎ直しで切れを保つなら炭素鋼
  • 握り:長時間作業は木柄のフィット感、衛生性重視は樹脂柄
  • 併用工具:材料の供給・受け台に盛板、平面出しにはパテベラを併用すると効率的

手入れ・保管

使用後は材料が硬化する前に水で洗い、板・首・柄の境目の残渣を徹底除去する。炭素鋼は乾拭きの後、薄く防錆油を塗布する。平面を狂わせないよう板面を下にして重ね置きせず、吊り下げや個別スリーブで保管する。エッジは定期的に面直しし、バリを除去して当たりの均一性を保つ。

トラブルシューティング

  • 角が甘い:エッジR過多/押さえタイミングが早い→エッジ再研磨とタイミング見直し
  • 引きずり:面圧過多/含水不足→面圧低減・微霧吹きで表面水を整える
  • 角欠け:骨材粗大/当て木の通り不良→ふるい・通り直しで再成形
  • 錆:洗浄不十分→即時洗浄・乾拭き・薄油塗布を徹底

安全と品質確保

足場・脚立上での角鏝作業は落下・転倒のリスクがあるため、工具の落下防止コードと滑りにくい手袋を併用する。定規・当て木は固着状態と直線性を事前確認し、基準線の墨出しと照合しながら通りを維持する。材料は本体で面を安定させ、仕上げ工程で角鏝に切り替える運用が品質と再現性を高める。