素粒子
素粒子とは、物質や力の最も基本的な構成要素である。古くは原子が「これ以上分割できない最小の単位」と見なされていたが、20世紀以降の実験物理の進展により、原子の内部には陽子や中性子、そしてそれらを構成するクォークなど、より深い階層の粒子が存在することが明らかとなった。今日では、自然界のあらゆる相互作用や物質の成り立ちを説明する鍵として、これらの基本粒子を体系化した標準理論が確立されているが、質量起源の謎や暗黒物質など、未解明な領域も多く残されている。
定義
「素粒子」とは、それ以上は内部構造を持たないと考えられる粒子の総称である。例えば、クォークや電子、ニュートリノなどがこれに該当する。一方で、陽子や中性子のようにクォークから構成される粒子は複合粒子として区別される。これらを突き詰めていくと、最終的に物質界を支配する相互作用も含めて、自然界の根源を理解しようとするのが素粒子物理学の狙いである。
分類
現代の理論では、物質を構成するクォークとレプトン、力を伝えるゲージボソン、そしてヒッグス粒子などに大別される。クォークは強い相互作用を介してハドロンを作り、レプトンは電荷を持つかどうかで性質が分かれる。ゲージボソンには光子やWボソン、Zボソン、グルーオンなどがあり、電磁力や弱い力、強い力を媒体として伝える役割を担っている。
相互作用
自然界には強い力、電磁力、弱い力、そして重力という4つの相互作用が確認されている。中でも重力だけは標準理論の枠組みに統合されておらず、量子重力理論の完成は素粒子物理学における未解決問題の1つである。強い力はハドロン内部でクォーク同士を結びつけ、電磁力は電荷同士の相互作用を司り、弱い力は放射性崩壊などで主要な役割を果たしている。
クォーク閉じ込め
クォークは単独で存在できず、常にほかのクォークと結合した状態(ハドロン)を形成する。この性質を閉じ込めと呼び、強い力が一定以上に離れると却ってエネルギーが高まるため、クォーク同士が離れにくい。実験的にも孤立したクォークの観測例はなく、陽子や中性子など複合粒子としての形でしか検出されないことがわかっている。
ニュートリノ振動
かつてニュートリノは質量がゼロと考えられていたが、ニュートリノ振動の発見によって質量がわずかではあるが非ゼロであることが判明した。これにより標準理論の修正が迫られ、素粒子の世代構造や大統一理論との関係も再検討の余地が生じている。ニュートリノは他の相互作用と極めて弱くしかやり取りしないため、宇宙の大規模構造や星の進化を探る上でも重要な手がかりになると考えられている。
標準理論と拡張
標準理論はクォーク、レプトン、ゲージボソン、ヒッグス粒子の存在を前提に、高い精度で実験結果を説明してきた。しかし、重力や暗黒物質、暗黒エネルギーなど理論外の現象を包含できないという限界も存在する。超対称性理論や余剰次元モデル、大統一理論など、多くの拡張理論が提案されているが、実験的に確固たる証拠はまだ得られていない。
最近の話題
近年は巨大加速器を用いた高エネルギー実験や、地下実験施設での暗黒物質探索などが活発である。各国の研究機関が国際的に協力し、大型コライダーや検出器を共同開発する動きが顕著である。将来的にはリニアコライダーの建設や新たな観測衛星の打ち上げにより、標準理論を超えた新物理の存在を解明できる可能性が高まっている。今後の成果によっては、物質とエネルギー、さらには時空の構造に対する我々の理解が大きく変化するだろう。