磁束|空間を貫く磁気エネルギーの流れ

磁束

磁束(じそく、magnetic flux)とは、ある曲面を通り抜ける磁場の総量を表す物理量である。記号にはΦ(ファイ)を用い、SI単位はウェーバ(Wb)である。磁荷から放射状に伸びる「磁気の流れ」を視覚化する概念として導入され、電磁気学における電磁誘導・磁気回路・変圧器設計など幅広い分野で基本量として扱われる。磁束線は常に閉曲線を形成し、孤立した起点・終点(磁気単極子)は現実には存在しない。

定義と計算式

磁束Φは、向き付けられた曲面Sを法線方向に貫く磁束密度Bの面積分として定義される。数式で表すと以下のとおりである。

Φ = ∫∫S B · dS

ここでdSは面積要素ベクトルで、曲面の法線方向を向く。磁束密度Bが面全体で一様かつ面に対して垂直に入射する場合には Φ = B × A(Aは面積)と簡略化できる。B = 1 Tの一様磁場が断面積1 m²を垂直に貫くとき、Φ = 1 Wb となる。

単位:ウェーバ(Wb)

磁束のSI単位はウェーバ(Wb)であり、1 Wb = 1 V·s = 1 T·m²の関係が成立する。CGS単位系ではマクスウェル(Mx)が用いられ、1 Wb = 108 Mx である。単位の名称は19世紀ドイツの物理学者ヴィルヘルム・ウェーバに由来し、透磁率の単位H/mと組み合わせて磁気的な物理量の体系を構成する。

磁束とガウスの法則

閉曲面を通り抜ける磁束の総量は常にゼロとなる。これを磁気に関するガウスの法則といい、数式では ∇ · B = 0 と表される。この式はマクスウェルの方程式の一つであり、磁束線に起点や終点が存在しないことを意味する。すなわち、ある閉曲面から外へ出る磁束と内へ入る磁束は必ず等量であり、磁束は空間を閉ループとして循環する。

電磁誘導と鎖交磁束

閉回路に生じる誘導起電力は、その回路を境界とする曲面を貫く磁束の時間変化率に等しく、符号は磁束の増加を妨げる向きとなる。これをファラデーの電磁誘導の法則といい、式で表すと ε = −dΦ/dt である。コイルがN回巻きの場合、コイル全体に鎖交する磁束(鎖交磁束数)はNΦとなり、誘導起電力は ε = −N(dΦ/dt) となる。この原理は発電機・変圧器・インダクタなど多様な電気機器の動作基盤を成している。

レンツの法則との関係

ファラデーの法則における負符号はレンツの法則を内包している。コイルを貫く磁束が増加すると、その増加を打ち消す向きの誘導電流が流れ、逆に磁束が減少すると磁束を維持しようとする向きに誘導電流が生じる。エネルギー保存則と整合したこの性質により、外部から磁束変化を与えるには仕事が必要となる。

磁気回路における磁束

トランスやモータのコアに代表される磁気回路では、電気回路のオームの法則と対応した関係式が成立する。起磁力F(アンペア回数)、磁気抵抗(リラクタンス)Rmとすると Φ = F / Rm と表せる。磁束は磁気抵抗の低い経路(高透磁率材料)に集中して流れ、空気ギャップではリラクタンスが大きいため磁束密度が低下する。漏れ磁束の管理は高効率な電磁機器設計において重要な課題の一つである。

磁束の量子化

超伝導体の内部にはマイスナー効果により磁束が侵入できないが、リング状超伝導体の穴を貫く磁束は量子化され、磁束量子Φ0(≈ 2.068 × 10−15 Wb)の整数倍の値しかとれない。Φ0 = h / (2e)(hはプランク定数、eは素電荷)で定義されるこの量は、超伝導の基本特性を象徴する定数である。1961年にディーバー・フェアバンクらとドール・ネーバーらが独立に実験的証拠を報告し、超伝導状態の量子力学的性質を確認した。

第二種超伝導体と量子渦

第二種超伝導体では、ある範囲の外部磁場下で磁束量子が渦糸(ボルテックス)として内部に侵入する混合状態が現れる。各渦糸は1個の磁束量子Φ0を持ち、周囲を超伝導電流の渦が取り巻く構造となる。渦糸の密度と配置が材料の電気的・磁気的特性に影響を与えるため、超伝導マグネットや量子コンピュータ応用において精密な制御が求められる。

磁束の測定

磁束の測定には、サーチコイル(探索コイル)法が広く用いられる。既知の巻数Nと断面積Aをもつコイルを磁場中に置き、磁場変化に伴う誘導電荷Qを積分型電流計(フラックスメータ)で計測することで Φ = Q/N を求める。ホール素子センサやSQUID(超伝導量子干渉素子)も高精度計測に用いられ、SQUIDは磁束量子レベルの極めて微小な磁束変化を検出できる。

工業的応用

磁束の概念は工業分野に広く応用されている。変圧器では一次コイルの磁束変化が二次コイルに起電力を誘導する原理が電圧変換を実現し、電動機では回転子を貫く磁束とコイル電流の相互作用がトルクを生む。鉄心材料の磁束飽和特性(B-H曲線)は機器の設計上限を規定し、ヒステリシス損や渦電流損とも密接に関わる。非破壊検査の一種である磁粉探傷試験でも、試験体内の磁束漏洩を利用して表面・近傍の欠陥を検出する。

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