現象界
現象界(感性界)とは、哲学において、感覚を通して人間が普通に現象の中でいきる、経験の世界である。プラトンやカントにおいて語られることが多い。
プラトンにおける現象界
現象界とは、プラトンが見たり聞いたりする感覚によってとらえられる現実の世界で、完全である、理想的なイデア界との対比で使われる。プラトンは、世界を感覚的な現象界と知性がとらえる理性的なイデア界(英知界)とに分け、二元論的世界観を説いた。絶えず変化する現象界はそもそもが不完全であり、イデア界にはもったく存在していない質料(非存在 メーオン me on)をもち、それによって制約されている。不変のイデア界を原型・模範とし、それを模倣することによって存在性を確保する。現象界はイデアの影であり、本質的に低次の存在である。
カントにおける現象界
現象界(感性界)とは、カントの用語で感性を通して人間に現象する経験の世界である。これに対して経験を交えず、純粋に思惟された世界は英知界(可想界)と呼ばれる。人間の認識は、感性が受け取る素材を必要とする限り、現象界の範囲内にとどまってしまう。純粋に思惟された英知界は、認識の限界外である。現象界を経験する条件として、時間と空間という感性の形式、それを総合する知性(カテゴリー)が挙げられる。通常、我々はこのようにして、現象界にとどまっているが、道徳律においてはそのかぎりではない。道徳法則に従う自由な人格としての人間は、必然的な自然の現象界、つまり感覚で捉えられる世界をこえて、道徳的に自由な英知界に属している。感性的人間としては現象界に属しながらも、道徳を実践する自由な主体としては英知界に住むところから、人間の尊厳が保たれる。