燃料電池|低炭素社会を支える次世代発電

燃料電池

燃料電池とは、水素などの燃料と酸素を電気化学反応させて化学エネルギーを直接電気エネルギーを取り出す発電装置である。化石燃料の燃焼による排ガス削減やエネルギー効率の向上を狙って開発が進められ、近年では自動車や家庭用分散型電源など多彩な用途で実用化が進んでいる。燃焼工程を経ずに化学反応で電気を得るため、CO₂や大気汚染物質の排出量を大幅に低減できるメリットがある。高効率なエネルギー変換を可能とする技術として、世界各国で研究開発が続けられ、将来的には既存の発電方式に代わるクリーンな電力供給手段として期待が高まっている

燃料電池の歴史

燃料電池(fuel cell)の原理は、1839年にイギリスのグローブ卿(Sir W.R.Grove)によって発明された。現代の多くの燃料電池も、基本原理はグローブ卿の燃料電池を踏襲したもので、水の電気分解の逆の現象を用いて、水素と酸素から発電させるものである。

燃料電池の特長

燃料電池の特長は、燃焼反応をともなわずに発電することができるため高効率(約40%)であること、さまざまな燃料を利用することができること、水素を使う場合、生成物として水が排出されるため環境性に優れている。

基本原理

燃料電池の動作原理は、アノード(燃料側電極)とカソード(酸素側電極)を電解質で隔て、燃料と酸素の電気化学反応を直接利用して電気を取り出す点にある。一般的な水素型の場合、水素がアノード側でプロトンと電子に分解され、プロトンは電解質を通過し、電子は外部回路を経てカソードへと流れ、そこで酸素と再結合して水となる。従来の熱機関のように燃料を燃焼してからタービンなどで運動エネルギーを取り出すプロセスがなく、化学エネルギーを直接電気に変換するため、高いエネルギー効率を実現できる

セル

セルとは、燃料電池は、燃料極、空気極、電解質などから構成される電池であるが、燃料電池はセルを組み合わせることで作られる。1つのセルが作ることができる電気は、約0.7Vであるため、大きな電気をつくるためには乾電池を直列につなぎ、セルを積み重ねていく。

主な種類

燃料電池には用途や作動温度、電解質の種類によって複数のタイプが存在する。代表的なものとしてPEFC(固体高分子形)は低温動作が可能であり、自動車や家庭用コージェネレーションシステムで広く用いられる。PAFC(リン酸形)は中温域で安定稼働し、大規模な業務用の分散電源として活用される事例が増えている。MCFC(溶融炭酸塩形)やSOFC(固体酸化物形)は高温域での動作によって熱回収率が高く、大規模発電や産業プロセスと組み合わせた高効率システムとして期待を集めている

セラミックス系の固体酸化物燃料電池

セラミックス系の固体酸化物燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)は、燃料電池の中で発電効率が最も高く、しかも全固体なので耐久性が高いものとして、期待されている。

利点と課題

燃料電池の利点は、電気と熱を同時に取り出すコージェネレーション活用による効率向上や、排ガスのクリーンさにある。一方で、高性能電解質や白金などの貴金属を触媒として必要とするため、コスト面や原材料の確保が課題となる。加えて水素の生成・輸送インフラが未整備の地域では普及が進みにくい点も見逃せない。各国の政府や民間企業は、再生可能エネルギーを利用した水素の製造や触媒材料の低コスト化、インフラ整備を含む総合的な研究開発を推し進めることで、この課題を克服しようとしている

水素供給とインフラ

燃料電池を大規模に普及させるためには、水素の安定供給が不可欠である。従来の化石燃料由来の水素にはCO₂排出の問題があるため、再生可能エネルギーを用いたグリーン水素の製造技術に大きな期待が寄せられている。ただし水素は貯蔵や輸送に高度な技術を要するため、配管網や水素ステーションなどのインフラを整備し、利用者に安全かつ安定的に供給できる体制を構築することが重要である。エネルギー輸送手段としてアンモニアやメタノールなどを介在させる方式も研究されており、実用化に向けた技術開発が活発化している

多様な応用例

自動車向けではPEFCを搭載した燃料電池車が注目を集め、トラックやバス、鉄道にまで利用範囲が拡大している。さらに災害時の電源確保や離島・遠隔地でのオフグリッド供給、携帯端末のバックアップ電源などにも活用が進んでいる。また建物単位のコージェネレーションシステムとして、家庭用や集合住宅向けの燃料電池ユニットが普及しつつあり、電力の地産地消や系統負荷の平準化にも寄与している。こうした取り組みにより、環境負荷の低減だけでなく、エネルギーの自律性や災害耐性を高める効果が期待される

タイトルとURLをコピーしました