溝付きスプリングピン|応力分散性と固定力を両立するピン部品

溝付きスプリングピン

溝付きスプリングピンとは、機械部品や構造体の位置決め・結合・回転防止を目的として使用される機械要素の一種である。円筒状のばね鋼材に縦方向の溝を備え、挿入時には弾性変形によって相手穴にしっかりと圧入される構造を持つ。一般のスプリングピンと異なり、溝の存在により応力分散性と変形吸収性に優れる特徴を有している。

構造と機能

溝付きスプリングピンは、中空円筒形状のスチール材を巻いて作られており、1本または複数の縦方向の溝(スロット)を持つ。この溝は開口部とは異なり、一定の幅を持って連続しており、ピン自体の柔軟性とばね特性を高める役割を果たす。これにより、圧入時に均一な荷重で変形し、挿入穴に対する面圧を一定に保つことができる。

一般的な材質と表面処理

溝付きスプリングピンは、ばね鋼(SK5やSUS304)が主に使用される。強度と耐久性に優れる炭素鋼が一般的であり、ステンレス製は耐食性が必要な環境に用いられる。また、黒染め亜鉛メッキニッケルメッキなどの表面処理により、腐食への耐性や滑り性が強化されることが多い。

用途と使用例

  • 機械部品の固定:歯車、プーリー、シャフトとの結合
  • 位置決めピン:板金部品やハウジング部の整合
  • 振動吸収:弾性特性により応力緩和に寄与

従来のピンとの違い

一般的なロールピン(巻きバネピン)や直径一定のダウエルピンと比べて、溝付きスプリングピンは挿入時の応力分散に優れているため、穴の変形や割れを抑える効果がある。また、繰り返しの衝撃や振動にも耐えやすいため、可動部に用いられるケースが多い。加えて、軽量で取り付けが容易な点も大きな利点である。

取付け方法と注意点

溝付きスプリングピンの取り付けには、ハンマーや圧入工具が使用される。穴径との公差が適正でないと、挿入困難や緩みの原因となる。過度な衝撃を避け、まっすぐ挿入することでピンの偏心や曲がりを防げる。また、再利用時にはピンの弾性が劣化していないかを確認する必要がある。

規格と寸法

溝付きスプリングピンには、JIS B 2808やISO 8752などの国際・国内規格が存在する。これにより、ピン径、長さ、溝幅、公差が規格化されており、設計者は目的に応じた適切なサイズを選定できる。標準品は直径1mmから10mm程度、長さは5mmから60mm程度まで用意されている。下記に寸法例を書いたが、JISやISO、メーカーカタログを確認すること。

溝構造のバリエーション

溝付きスプリングピンには、1本溝タイプ、2本溝タイプ、ねじれ溝タイプなどが存在し、使用目的に応じて選択される。1本溝は汎用性が高く、2本溝はより高い柔軟性と応力分散性を持つ。ねじれ溝は高い弾性と保持力を兼ね備えており、重荷重用途に用いられる。

重荷重用スプリングピン(単位 ㎜)2-19

呼び径 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 6 8 10 12 13 14 16 18 20
取付け前
d₁
最大
1.3 1.8 2.4 2.9 3.5 4.0 4.6 5.1 5.6 6.7 8.8 10.8 12.8 13.8 14.8 16.8 18.9 20.9
取付け前
d₁
最小
1.2 1.7 2.3 2.8 3.3 3.8 4.4 4.9 5.4 6.4 8.5 10.5 12.5 13.5 14.5 16.5 18.5 20.5
取付け前
d₂
(参考)
0.8 1.1 1.5 1.8 2.1 2.3 2.8 2.9 3.4 4 5.5 6.5 7.5 8.5 8.5 10.5 11.5 12.5
面取りの量
a
最大
0.35 0.45 0.55 0.6 0.7 0.8 0.85 1.0 1.1 1.4 2.0 2.4 2.4 2.4 2.4 2.4 2.4 3.4
面取りの量
a
最小
0.15 0.25 0.35 0.4 0.5 0.6 0.65 0.8 0.9 1.2 1.6 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 3.0
厚さ
0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.75 0.8 1 1 1.2 1.5 2 2.5 2.5 3 3 3.5 4
せん断強さ
最小値
(kN)
0.7 1.58 2.82 4.38 6.32 9.06 11.24 15.36 17.54 26.04 42.76 70.16 104.1 115.1 144.7 171 222.5 280.6
4
5
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
90
95
100
120
140
160
180
200
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19

d₁の最大は、スプリングピンの円周上における最大値とし、d₁の最小は、D₁、D₂およびD₃の3か所の平均値とする。
表中の4-200はl寸法を示す。

重荷重用スプリングピン(単位 ㎜)

呼び径 21 25 28 30 32 35 38 40 45 50
取付け前
d₁
最大
21.9 25.9 28.9 30.9 32.9 35.9 38.9 40.9 45.9 50.9
取付け前
d₁
最小
21.5 25.5 28.5 30.5 32.5 35.5 38.5 40.5 45.5 50.5
取付け前
d₂
(参考)
13.5 15.5 17.5 18.5 20.5 21.5 23.5 25.5 28.5 31.5
面取りの量
a
最大
3.4 3.4 3.4 3.4 3.6 3.6 4.6 4.6 4.6 4.6
面取りの量
a
最小
3.0 3.0 3.0 3.0 3.0 3.0 4.0 4.0 4.0 4.0
厚さ
s
4 5 5.5 6 6 7 7.5 7.5 8.5 9.5
せん断強さ
最小値
(kN)
298.2 438.5 542.6 631.4 684 859 1003 1068 1360 1685
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
90
95
100
120
140
160
180
200
19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

d₁の最大は、スプリングピンの円周上における最大値とし、d₁の最小は、D₁、D₂およびD₃の3か所の平均値とする。
表中の4-200はl寸法を示す。

軽荷重用スプリングピン(単位 ㎜)

呼び径 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 6 8 10 12 13
取付け前
d₁
最大
2.4 2.9 3.5 4.0 4.6 5.1 5.6 6.7 8.8 10.8 12.8 13.8
取付け前
d₁
最小
2.3 2.8 3.3 3.8 4.4 4.9 5.4 6.4 8.5 10.5 12.5 13.5
取付け前
d1
最大
2.25 2.75 3.25 4.4 5.4 6.4
取付け前
d₁
最小
2.15 2.65 3.15 4.2 5.2 6.2
取付け前
d₂
(参考)
1.9 2.3 2.7 3.1 3.4 3.9 4.4 4.9 7 8.5 10.5 11
面取りの
径d₃
最大
1.9 2.4 2.9 3.9 4.8 5.8
面取りの量
a
最大
0.4 0.45 0.45 0.5 0.7 0.7 0.7 0.9 1.8 2.4 2.4 2.4
面取りの量
a
最小
0.2 0.25 0.25 0.3 0.5 0.5 0.5 0.7 1.5 2.0 2.0 2.0
厚さ
s
0.2 0.25 0.3 0.35 0.5 0.5 0.5 0.75 0.75 1 1 1.2
せん断強さ
最小値
(kN)
1.5 2.4 3.5 4.6 8 8.8 10.4 18 24 40 48 66
せん断強さ
最小値
(kN)
1.55 2.42 3.49 6.21 9.7 14 48 66
4
5
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
90
95
100
120
140
160
180
200

d₁の最大は、スプリングピンの円周上における最大値とし、d₁の最小は、D₁、D₂およびD₃の3か所の平均値とする。
軽荷重用スプリングピンのせん断強さ欄の上段はISO 13337での値(参考)、下段はJISの値を表す。
表中の4-200はl寸法を示す。

軽荷重用スプリングピン(単位 ㎜)

呼び径 14 16 18 20 21 25 28 30 35 40 45 50
取付け前d1最大 14.8 16.8 18.9 20.9 21.9 25.9 28.9 30.9 35.9 40.9 45.9 50.9
取付け前d1最小 14.5 16.5 18.5 20.5 21.5 25.5 28.5 30.5 35.5 40.5 45.5 50.5
取付け前d1最大
取付け前d1最小
取付け前d2(参考 11.5 13.5 15 16.5 17.5 21.5 23.5 25.5 28.5 32.5 37.5 40.5
面取りの径d3最大
面取りの量a最大 2.4 2.4 2.4 2.4 2.4 3.4 3.4 3.4 3.6 4.6 4.6 4.6
面取りの量a最小 2.0 2.0 2.0 2.0 2.0 3.0 3.0 3.0 3.0 4.0 4.0 4.0
厚さs 1.5 1.5 1.7 2 2 2 2.5 2.5 3.5 4 4 5
せん断強さ最小値(kN) 84 98 126 158 168 202 280 302 490 634 720 1000
せん断強さ最小値(kN) 84 98 126 158 168 202 280 302 490 634 720 1000
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
90
95
100
120
140
160
180
200
呼び径 14 16 18 20 21 25 28 30 35 40 45 50

d₁の最大は、スプリングピンの円周上における最大値とし、d₁の最小は、D₁、D₂およびD₃の3か所の平均値とする。
軽荷重用スプリングピンのせん断強さ欄の上段はISO 13337での値(参考)、下段はJISの値を表す。
表中の4-200はl寸法を示す。

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