板金加工
板金加工は、厚さおおむね0.5〜6mm程度の金属の薄板を切断し、曲げ、接合して目的の形に仕上げる加工法の総称である。専用の金型で一気に成形するプレス加工とは違い、汎用の機械と展開図を組み合わせて形を作る。そのため、1個だけの試作から数百個程度の小ロット品までを得意とする。制御盤の筐体、工作機械のカバー、業務用厨房機器、鉄道車両の外板など、工場や街中で見かける「箱」や「カバー」の多くはこの方法で作られている。
手作業の打ち出しからNC化までの歩み
起源は、金属板を槌でたたいて器や甲冑を作った鍛金・打ち出しの技法にさかのぼる。日本では明治期以降、ブリキ職人が雨どいや煙突、ダクトを手がけ、建築板金として技術が広まった。工場の量産現場で大きな転機となったのは1970年代である。NC制御のタレットパンチプレスが国内に普及し、展開図のデータから穴あけと外形の打ち抜きを自動で行えるようになった。1980年代にはCO2方式のレーザー加工機が導入され、2010年代以降は発振効率に優れたファイバーレーザーへと主役が移っている。現在は出力6〜12kW級の機種も珍しくなく、軟鋼なら25mm前後の厚板まで切断できる。
加工の基本的な流れ
図面を受け取ってから製品になるまで、多くの工場では次の順で作業が進む。どの工程を社内で持ち、どこを外注に出すかは工場ごとに大きく異なる。
- 展開:立体の図面を平面の展開図に起こし、曲げによる伸びを補正する
- ブランク加工:レーザーやパンチで板から外形と穴を切り出す
- 曲げ:プレスブレーキで所定の角度に折り曲げる
- 溶接・組立:TIG溶接やスポット溶接で部品同士をつなぐ
- 仕上げ・表面処理:歪み取り、バリ取りのあと、塗装やめっきを施す
ブランク加工の方式比較
外形を切り出す方式は、板厚や形状、数量によって選び分ける。
| 方式 | 得意な板厚の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| ファイバーレーザー | 0.5〜25mm | 複雑形状に強く段取りが少ない。熱影響が残る |
| タレットパンチプレス | 0.5〜3.2mm | 穴数が多い部品で速い。成形加工やタップも可能 |
| シャーリング | 〜6mm程度 | 直線切断のみ。短冊材や定尺の切り分けに使う |
| ウォータージェット | 〜100mm超 | 熱が入らない。切断速度は遅い |
曲げ加工とスプリングバック
曲げは上型のパンチで板を下型のV溝へ押し込んで行う。V溝の幅は板厚の6〜8倍を選ぶのが定石で、板厚1.6mmの冷間圧延鋼板なら10〜12mm程度になる。厄介なのは、型から外した瞬間に板が弾性で少し開いてしまうスプリングバックである。戻り量は材料で異なり、SUS304のようなステンレス鋼は軟鋼よりも大きく戻る。90°曲げで1〜3°ほど開くことも多いため、オペレーターは狙いの角度より深く曲げる「オーバーベンド」で調整する。近年は角度センサーで実測しながら自動補正する機種も増えた。
展開長の求め方
曲げの内側は縮み、外側は伸びる。伸び縮みしない中立面の位置をK値(一般に0.3〜0.5)で表し、外寸A、B、内側曲げ半径R、板厚tの90°曲げでは、展開長Lを次のように求める。
L = A + B − 2(R + t) + (π / 2)(R + K·t)
実際の工場では計算値をそのまま使わず、自社の金型と材料ロットで試し曲げを行い、曲げ1か所あたりの「伸び値」を表にまとめて使っている。
よく使われる材料と規格
材料の選定は、強度だけでなく、仕上げ方法や溶接の有無とセットで考える。現場で流通量の多い板材は次のとおりである。
- SPCC(JIS G 3141):冷間圧延鋼板。塗装前提の筐体やブラケットの標準材
- SECC(JIS G 3313):電気亜鉛めっき鋼板。OA機器や電装品のシャーシに多い
- SGCC(JIS G 3302):溶融亜鉛めっき鋼板。屋外盤や建築金物向け
- SUS304(JIS G 4305):耐食性に優れ、厨房・食品機械で多用される
- A5052(JIS H 4000):アルミニウム合金の代表格。軽量化したいカバー類に使う
設計段階で押さえたい寸法の目安
板金品のコストと品質は、図面の段階でかなりの部分が決まる。曲げの立ち上がりが短すぎると板がV溝にかからず曲げられないため、最小フランジ長はV幅の0.7倍程度を下限とみるのが一般的である。穴を曲げ線の近くに配置すると、曲げたときに穴が楕円に伸びてしまう。曲げ線から穴の縁までは板厚の2倍に曲げ半径を足した距離を確保したい。寸法公差にも注意が要る。曲げをまたぐ寸法に±0.05mmのような切削並みの公差を入れると、全数検査や手直しが発生して単価が跳ね上がる。曲げ寸法は±0.2〜0.3mm程度に収め、厳しい精度が必要な箇所だけを個別に指示するのが実務上の定石といえる。公差を特に指示しない場合、JIS B 0408の普通寸法公差を参照するケースが多い。
プレス加工・切削加工との使い分け
判断の軸になるのは生産数量である。プレス加工は金型費が数十万〜数百万円かかる代わりに、1個あたりの加工時間は数秒で済む。板金は型費がほぼ不要な反面、曲げや溶接に人手がかかる。月産数千個を超えるあたりから、金型を起こしたほうが総額で安くなることが多い。ブロック材から削り出す切削加工は寸法精度で勝るものの、箱物を作ると材料の大半が切りくずになる。一方で、試作段階は板金、量産移行後はプレスという切り替えも珍しくない。その際は板金で決めた形状がプレスで成形できるか、早めに確認しておくと手戻りが減る。
精密板金と技能の担い手
業界では、半導体製造装置や医療機器の部品のように±0.1mm級の精度を求める分野を「精密板金」と呼び、建物の屋根や外壁を扱う建築板金と区別している。精密板金の工場ではCAD/CAMによる展開の自動化、ロボットによる曲げ、レーザー溶接の導入が進んだ。それでも溶接後の歪み取りや外観仕上げには熟練の手作業が残る。技能の水準を示す指標として、国家検定の技能検定には「工場板金」と「建築板金」の職種が設けられており、1級・2級の取得者は現場の品質を支える中核として扱われている。粉体塗装まで一貫して請け負う工場も多く、発注側にとっては工程をまとめて任せられるかどうかが外注先選びのポイントになる。
コメント(β版)