放電加工|複雑形状にも対応する高度精密加工

放電加工

放電加工とは、放電を利用した加工で、絶縁性のある加工液の中で、短時間のパルス性アーク放電を繰り返すことで、工作物の放電の起こった部分が溶解あるいは蒸発させる加工である。通常のドリル加工では困難な硬度の高い加工ができ、複雑な形状を作ることができる。また工具の摩耗というものがなく、自動化もしやすいが、加工機械そのものは非常に高価となる。また、大きな材料の加工では対応できない。また大規模な装置が必要なためコストは高い。

歴史的背景

放電加工の起源は1940年代にさかのぼる。第二次世界大戦中、放電現象による電極の消耗を調べる過程で、意図しない形状変化が加工として応用できることが発見された。その後、ソビエト連邦やスイスでの研究を経て実用化が進み、1960年代には世界的にも普及が始まった。当時は制御技術や電源装置が未熟であり加工速度も遅かったが、トランジスタ集積回路の進歩に伴い電源のパルス制御が精密化され、放電加工の高精度・高速化が実現したのである。

原理とプロセス

放電加工では、工作物と電極の間に絶縁液を満たし、パルス状に高周波放電を行う。放電時に生じる瞬間的な高温で金属の表面が溶融・蒸発し、微小なクレーターを形成しながら加工が進行する。具体的には以下のステップを経る:

  1. 工作物と電極を近接させ、絶縁液(一般に灯油や専用オイル)で満たす
  2. パルス電源を用いて電極と工作物間で放電を起こす
  3. 瞬間的な熱エネルギーで金属を除去し、絶縁液で加工屑を洗浄・排出する
  4. 電極をサーボ制御しながら必要な形状になるまで繰り返す

種類

放電加工には大きく分けて型彫り放電加工(Sinker EDM)とワイヤ放電加工(Wire EDM)の2種類がある。型彫り放電加工は電極形状に合わせて工作物を彫り込む方式で、金型などの複雑な三次元形状の加工に適している。一方、ワイヤ放電加工は細いワイヤ電極を工作物に対して連続的に供給しながら放電を行い、主に平面的または上下形状に制約がある形状の切断に用いられる。いずれも高精度かつ複雑形状の加工を得意としており、従来の切削加工では困難だった領域に進出している。

形彫り放電加工(Sinker EDM)

形彫り放電加工とは、加工したい形状にあわした特殊な工具を電極として、材料との間に電気を通し、加工液の中で火花放電し、任意の形状に加工する方法である。非常に高度が高い、超硬合金などが加工できるのが大きなメリットで、複雑な形状を作ることができ、加工精度が高いメリットがある。一方で、加工速度が遅いく特殊な工具も消耗するためコスト性はない。

ワイヤ放電加工(Wire EDM)

ワイヤ放電加工では、細いワイヤーを使った放電加工で、ワイヤと材料の間に電気を通し、火花を発生させながら、ワイヤーでなぞるように切断する加工方法である。数値で制御できるため、精度は高い。

装置構成と要素

放電加工機は、パルス発振電源、ギャップサーボ、CNC制御、ダイ電槽、ポンプ・フィルタ、(ワイヤ方式では)送給・張力ユニットで構成される。CNCとサーボがギャップを一定に保ち、短絡やアークを回避する。機械本体は高剛性・高減衰が望ましく、熱変位対策やスケール補正が精度確保に作用する。これらは典型的な工作機械の技術要素と共通する。

加工条件とプロセス制御

代表的なパラメータは、パルス幅、ピーク電流、デューティファクタ、無負荷電圧、ギャップ電圧である。荒加工ではパルス幅・電流を大きくして除去能率を高め、仕上げでは微小パルスで表面の再溶融層を抑える。ジャンプ(リトラクト)やオービット(軌跡補正)を併用し、スラッジの排出と放電安定を図る。適切なフラッシングとフィルタ管理が加工の継続安定性を左右する。

電極材料と誘電体

放電加工の電極材料は銅、グラファイト、銅タングステンなどが多い。銅は仕上げ面に優れ、グラファイトは能率と摩耗バランスが良い。ワイヤでは真鍮・亜鉛拡散ワイヤなどを用いる。誘電体は型彫りで油(低粘度絶縁油)、ワイヤで脱イオン水が一般的であり、電解・腐食を抑えるため比抵抗管理が要となる。

長所と限界

  • 長所:切削力ゼロによる薄肉・微細・高アスペクト形状、硬脆材・難削材への適用、バリレス、複雑形状の直彫り。
  • 限界:加工速度が比較的低い、電極摩耗の補正が必要、誘電体・スラッジの環境管理が不可欠、熱影響層の管理が課題。

適用材料と事例

放電加工は工具鋼、超硬合金、チタン合金、耐熱合金(Ni基)などの難削材に有効である。微細ノズル、タービン冷却孔、金型の細溝やアンダーカット、微細電極の作製などで多用される。治具レスでも複雑形状を短時間に成形できる点が産業上の価値である。

運用・段取り・保全

量産では、自動工具交換と電極摩耗補正、ワイヤ破断監視、フィルタ差圧監視、油温管理を組み合わせて自律安定化を図る。段取りでは座標系の厳密化、基準面の確立、治具の再現性が重要である。生産の視点では生産技術・品質保証と連携し、加工履歴のトレーサビリティと条件最適化を進める。

他法との役割分担

放電加工は、他の除去法と補完的に用いると効果が高い。例えば、輪郭や平面は切削加工、微細形状や鋭角部はEDM、最終仕上げは研削加工という流れで、全体としての能率と精度を両立できる。工程設計は総合的な加工技術の知見に基づくべきである。

安全・環境上の留意点

油系誘電体では防火・換気・ミスト管理が必須であり、水系では電解・錆の抑制と比抵抗維持が重要である。スラッジと使用済み誘電体は法規に従い適切に処理する。設備のアース・漏電保護、タンク内清掃、消耗品(フィルタ・ワイヤ・電極)の適正管理が、放電加工の安定稼働と職場安全を保証する。