拡散ドーピング
拡散ドーピングは、半導体ウェハに不純物を供給し、pn接合などの必要な電気的特性を形成する伝統的なプロセスの一つである。主にシリコンウェハを高温下で処理し、不純物ガスや固体ソースから拡散させて所望の領域に不純物を導入する。シリコンの結晶格子内にボロン、リン、またはヒ素などを拡散させることで、p型やn型にドープされた層を生成できる。イオン注入法が主流となった現在でも、拡散ドーピングは大量生産や特定のアプリケーションで有用性を発揮し、半導体製造の基礎技術として根強く活用されている。
原理
拡散ドーピングの原理は、不純物が高温下でシリコン内部に拡散していく現象を利用する点にある。熱エネルギーによって不純物原子の移動が促され、濃度勾配が大きい領域から小さい領域へと徐々に広がっていく。このとき、不純物の拡散速度は温度や拡散時間、半導体材料の種類によって変化し、最終的に得られる不純物濃度分布を制御することができる。Fickの法則をはじめとする拡散理論を応用することで、設計段階から厚さ方向の不純物濃度を予測し、目的に応じたデバイス特性を得られるよう調整が行われる。
一般的な半導体の経時劣化として、ドーピング工程で打ち込んだイオンが拡散してぼやける、というのは半導体工学の授業でやった!(教科書知識w
— やまねこ⚙楢ノ木技研 (@felis_silv) February 4, 2024
拡散プロセス
拡散プロセスは大きく「プレデポジション」と「ドライブイン」の2段階に分けられる。最初のプレデポジション工程では、不純物ソースを用いてシリコン表面に高濃度の不純物を吸着・拡散させる。続くドライブイン工程では、高温熱処理によって表面付近に存在する不純物をウェハ内部へと拡散させ、所望の拡散プロファイルを形成する。通常、拡散前には選択的な領域に酸化膜をマスクとして設置し、不要なエリアにドーピングが進まないようにする方法が一般的である。このプロセスの組み合わせによって、デバイスの性能を最適化する。
●N型半導体とP型半導体
ドーピングする不純物はいずれも「陽子数と電子数がつりあっている」ので,ドーピングしても電気的に中性.むしろ電荷の移動によってP型はマイナスに,N型はプラスに帯電しやすい.●ドリフト電流と拡散電流
半導体中では「一時的にある部分だけ電荷が多くなる」という状況が— リニア・テック 別府 伸耕 (@linear_tec) April 22, 2023
装置構成
拡散ドーピングに用いられる代表的な装置は拡散炉である。水平型や縦型の石英管炉の内部を高温(約900〜1200℃)に維持し、ここにウェーハを装荷して拡散を行う。ガスソースを用いる場合には、リンやボロンを含むガスを炉内に流し込むことでウェハ表面へ不純物を供給する。一方、固体ソースや液体ソースを使用する場合もあり、プロセス目的やコスト、歩留まりなどによって使い分けられる。炉内の温度制御やガス流量の管理が拡散プロファイルに直結するため、正確なプロセス管理が求められる。
ドーピング制御
拡散ドーピングで意図した電気特性を実現するには、不純物濃度や拡散深さを厳密に制御する必要がある。特にプレデポジション時間やドライブイン時間、温度を正しく設定しないと、拡散プロファイルが不均一になり、デバイス特性に悪影響を及ぼす可能性が高い。また高温環境下では、ウェハ内部の結晶欠陥や不純物の再分配が起こる場合もあるため、一連の工程を通じて濃度制御のみならず、結晶品質維持の観点も重要になる。拡散温度の計測精度を高めるために、熱電対や赤外線センサーなどの補助システムを用いて管理を徹底する。
応用例
拡散ドーピングはCMOSトランジスタのソース・ドレイン領域形成や抵抗器などの受動素子作製に活用される。大量生産が要求されるロジックデバイスやメモリデバイスの一部工程でも、依然として拡散技術が用いられることがある。さらにパワー半導体分野では、厚膜の拡散領域が求められるケースが多く、イオン注入よりも拡散法が適している場合がある。コスト面やスループットの観点からも優位性があり、実際に複数の製造ラインで現役のプロセスとして機能している。