帯電列
帯電列とは、2種類の物質をこすり合わせたときに、どちらが正に、どちらが負に帯電しやすいかを順に並べた序列である。英語ではtriboelectric seriesと呼ばれ、摩擦帯電系列とも表記される。列の上位(正側)にある物質と下位(負側)にある物質を接触させてから引き離すと、上位側は正、下位側は負の電荷を帯びる。両者の位置が離れているほど発生する電荷は大きくなりやすい。このため静電気対策や静電応用機器の材料選定では、基礎的な目安として使われている。
帯電列が生まれるまで
こすった物が軽い物を引き寄せる現象は古くから知られていた。紀元前600年ごろ、古代ギリシャのタレスが、布でこすった琥珀に羽毛などが吸い付く様子を記録したと伝えられている。英語のelectricityは、琥珀を意味するギリシャ語「elektron」に由来する。1600年にはイギリスのウィリアム・ギルバートが著書『磁石論』で、琥珀のほかガラスや硫黄も同じ性質を示すことを報告した。物質を体系的に順序づけたのはスウェーデンの物理学者ヨハン・カール・ヴィルケで、1757年に最初の帯電列を発表している。その後、1917年にイギリスのP. E. Shawがより多くの材料を対象とした詳しい系列を示した。20世紀に入ると、ここに高分子材料が次々と加えられていった。
代表的な序列と身近な例
絹でこすったガラス棒は正に、羊毛でこすった塩化ビニル管は負に帯電する。理科の実験でおなじみのこの結果は、系列上の位置関係からそのまま読み取れる。細かな順序は文献ごとに違うものの、よく引用される系列はおおむね下表のとおりである。金属の多くは中ほどに位置する。
| 帯電の傾向 | 主な材料 | 性質の目安 |
|---|---|---|
| 正に帯電しやすい | 人の皮膚、ウサギの毛皮、ガラス、雲母、人毛、ナイロン、羊毛 | 電子を放出しやすい |
| やや正 | 絹、アルミニウム、紙、綿 | 相手材によって極性が変わりやすい |
| 中間付近 | 鉄、木材、琥珀、硬質ゴム、銅、銀、金 | 帯電量は比較的小さい |
| やや負 | ポリエステル、ポリスチレン、アクリル、ポリウレタン | 繊維や成形品で帯電が問題になりやすい |
| 負に帯電しやすい | ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン | 電子を受け取りやすい |
電荷が移動する仕組み
接触と分離で電荷がやり取りされる現象を接触帯電という。こすり合わせを伴うものは摩擦帯電と呼ばれる。摩擦そのものが電気を生み出すわけではない。こすることで実際に触れ合う面積が広がり、電荷が移る接点の数が増える点に意味がある。移動する担い手としては、電子、イオン、表面から剥がれた微小な物質片の3つが挙げられ、組み合わせによって主役が変わると考えられている。
金属どうしの場合
金属の組み合わせは仕事関数の差で説明できる。仕事関数は、表面から電子を1個取り出すのに必要な最小エネルギーを指し、アルミニウムで約4.3 eV、金で約5.1 eVである。両者が接すると仕事関数の小さいアルミニウムから金へ電子が移り、アルミニウムが正に帯電する。
絶縁体・高分子の場合
絶縁体には自由電子がほとんどないため、仕事関数の考え方はそのまま当てはまらない。表面の官能基、吸着した水分子に由来するイオン、分子鎖が切れてできたラジカルなどが関わるとされるものの、統一された理論はまだ確立されていない。PTFEが系列の負側の端に来る理由は、電気陰性度の高いフッ素原子が分子表面を覆い、電子を引き付けやすいためと説明されることが多い。
序列が入れ替わる理由
帯電列は便利な目安ではあるものの、密度や融点のような決まった物性値の表ではない。同じ材料の組み合わせでも、表面の汚れや酸化膜、こすり方の強さや速さ、温度によって極性が逆転することがある。影響がとりわけ大きいのは湿度である。相対湿度が30%を下回ると電荷が逃げにくくなり、60%を超えると表面の吸着水を通じて漏えいが進む。Shawの時代から、AがBより正、BがCより正なのに、CがAより正になるという循環型の例も報告されてきた。2019年にはジョージア工科大学の研究グループが液体の水銀を基準に用い、50種類以上の材料の摩擦電荷密度を同じ条件で測定して、定量的な帯電列を発表した。
帯電列を応用した技術
材料どうしの位置関係をうまく使えば、電源を使わずに狙った極性の電荷をつくれる。工業分野での代表的な応用は次のとおりである。
- 静電塗装:トリボ式の粉体塗装ガンでは、粉体塗料がPTFE製の管内を通るときの摩擦で正に帯電し、接地された被塗物に付着する。高電圧発生器を必要としないことが特徴である。
- 電子写真:レーザープリンターや複合機の現像器では、トナーとキャリアをかき混ぜて摩擦帯電させ、トナーに決まった極性と電荷量を持たせている。
- プラスチックの静電選別:粉砕したPETとPVCの混合片を摩擦帯電させ、数十kVの電極間に落とすことで極性ごとに振り分ける。容器リサイクルの工程で使われている。
- 摩擦発電機(TENG):2012年にZhong Lin Wangらが提案した発電素子である。PTFEとナイロンのように系列上で離れた材料を組み合わせるほど出力が大きくなる。
製造現場での材料選定と静電気対策
工場では、帯電列を「帯電させない」ための逆引きに使う場面のほうが多い。ポリエチレンフィルムを搬送するローラーや、ポリプロピレンペレットを空気輸送するホースに系列上で離れた材料を使うと、ライン速度が上がるほど帯電が激しくなる。その結果、ほこりの付着、フィルムの巻き乱れ、作業者への電撃といった不具合が起きやすい。実務では、製品と系列上の位置が近い材料を接触部に選んだうえで、配管やローラーを接地し、それでも残る電荷を除電器で中和する。導電グレードの樹脂は標準品よりかなり割高になるため、製品が直接触れる部分だけに限って使うのが一般的である。電子部品の工程では静電気放電による素子の破壊を防ぐ必要があり、管理の要求事項はJIS C 61340-5-1(IEC 61340-5-1)で定められている。繊維製品の帯電性はJIS L 1094で評価する。
放電エネルギーの見積もり
帯電した物体や人体が放電するときのエネルギーEは、静電容量Cと電位Vから次の式で求められる。
E = 1⁄2 CV2
人体の静電容量を約150 pFとし、乾燥した冬に床を歩いて10 kVまで帯電したと仮定すると、Eは約7.5 mJになる。メタンの最小着火エネルギーは約0.28 mJ、水素は約0.019 mJとされ、これらを大きく上回る値である。溶剤を扱う工程で帯電防止靴や導電床が必須とされるのは、この差による。
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