定圧比熱|圧力一定下における熱容量

定圧比熱

定圧比熱熱力学において、圧力が一定の状態で物質の温度を1Kだけ上昇させるために必要な熱量を示す指標でディーゼルエンジンの燃焼のような圧力一定で加熱するときの比熱である。一般的には定圧比熱をCpと表記し、単位はJ/(kg·K)などを用いる。物質の温度変化に着目するとき、外部へ仕事をしたりされたりする場合があるが、圧力が一定であれば体積が変化する可能性が高く、系からの仕事の授受が発生しやすい。このため、同じ温度変化でも体積一定の場合とは異なる熱量が必要となり、これが定圧比熱定容比熱(Cv)の違いとして現れる。工学分野ではエンジンやボイラ、空調設備など、多くのシステムで定圧比熱が用いられ、エネルギー収支や効率計算において重要な役割を果たしている。

定義と概要

物質を加熱したとき、圧力が一定であれば膨張や収縮といった体積変化をともなう。この体積変化が伴う過程で必要となる熱量定圧比熱に相当し、熱力学第一法則などを用いて系のエネルギーバランスを解析するときに欠かせないパラメータになる。気体の膨張や圧縮が理想的な可逆過程である場合、ピストンやタービンなどの装置を通じて外部に仕事がなされるため、加えた熱の一部がその仕事として系外に流出する。このような状況でどれだけの熱が必要なのかを定量化したのが定圧比熱の考え方である。

定容比熱と定圧比熱

定圧比熱は下記で表される。また、容積が同じときの比熱は定容比熱という。

ガス定数R

ガス定数は「定圧比熱-定容比熱」で表される。

比熱比

比熱比Kは定容比熱/定圧比熱で表される。

定容比熱、定圧比熱、比熱比、ガス定数

定容比熱、定圧比熱、比熱比、ガス定数は下記の図で表される。

気体と液体の違い

気体の場合、温度変化とともに体積や密度が大きく変わるため、圧力一定下での体積変化が顕著に現れやすい。一方、液体や固体では体積変化が小さいため、定圧比熱と定容比熱の差異が気体ほど大きくならない。ただし、液体でも高温高圧条件下では物性値が大きく変動することがあるので、定圧比熱を扱う際には具体的な作動条件を明確にすることが重要である。また、気体でも理想気体近似が成り立つかどうかによってCpの計算や実測値が大きく変わる可能性がある。

温度依存性

定圧比熱は温度によって変化する場合が多く、特に気体や高温領域での金属・液体では顕著な温度依存性を示す。実際の設計では、各温度帯でのCp値を適切に補正したり、材料データベースから取り出した補間式を用いて計算する必要がある。例えばNASAのポリトロープ近似やShomate式などの経験式を用いて、温度依存性をパラメータ化する手法が広く活用されている。このような補正をしないまま一定のCpで計算を行うと、高温側や低温側で大きな誤差が生じるリスクがある。

実用例

航空機エンジンの燃焼ガスや、火力発電所のボイラ・タービン系統での熱効率評価には定圧比熱の正確な算出が欠かせない。ガスタービン内の空気や燃焼ガスが圧力一定の過程で熱交換器を通る場合、どれだけ熱を与える(あるいは奪う)と何度まで温度が変化するかを予測する必要がある。さらに燃焼解析においては、燃料や空気の組成が変わればCpも変化するため、燃料種別による違いを含めた包括的な熱計算が行われる。また、化学プラントや冷凍サイクルなどでも、熱交換器設計において流体の定圧比熱を考慮することが省エネルギーや装置効率化のカギとなっている。

定圧比熱と熱力学

熱力学第二法則エンタルピーエントロピーの概念を扱う際には、定圧比熱が計算上の便利なツールとなる。例えばエントロピー変化ΔSを評価する際、理想気体近似ではΔS = ∫(Cp/T)dTの形で計算することが多い。圧縮・膨張過程が等圧か等容かによって熱の出入りが異なるため、目的のサイクル(例: ボイラで加熱→タービンで膨張→コンデンサで冷却→ポンプで圧縮)を解析するときにCpやCvなどの値を正しく選択することが不可欠となる。

測定方法

定圧比熱を測定するには、カロリメータと呼ばれる装置を用いる場合が多い。顕熱を測定しながら圧力を一定に保ち、温度上昇量と投入した熱量からCpを算出する手順が典型的である。気体の場合は断熱膨張や絞り膨張を組み合わせた間接的な手法でCpとCvを別々に測定し、Cp-Cv=R(理想気体定数)の関係を検証する例もある。高温高圧下での測定には特殊な耐圧容器や耐熱部品が必要となり、実験コストがかさむため、数値シミュレーションや相関式を利用する研究も盛んに行われている。

留意点

定圧比熱は圧力一定であることを前提として定義されるが、実際の産業プロセスでは圧力や温度が同時に変動する複雑な過程が多い。そのため、単純に定圧かどうかの判断が難しい場合もある。プロセス解析や装置設計の段階で、どの過程が近似的に定圧にあたるかを見極め、必要に応じて厳密なエンタルピー計算やシュミレーションを導入することが肝要である。こうした工程管理や評価の精度が向上するほど、最適運用が可能となり、エネルギーコストの削減と環境負荷の低減が期待できる。