圧縮性流体|密度変化と音速で挙動が決まる

圧縮性流体

流れの速度や熱の出入りで密度が顕著に変わる流体を圧縮性流体という。気体は体積弾性率が小さく、加熱・冷却・微小流路・高速化などで密度変化が支配的になる。指標はMach数Mで、M≲0.3なら非圧縮近似が有効、Mが大きいと圧力・温度・密度が強く結合し、音波・膨張扇・衝撃波が現れる。設計では状態方程式、全温T0・全圧p0、比熱比γが中心量となる。圧縮性流体では熱力学と力学を同時に扱う視点が必須である。

基本概念

音速a=sqrt(γRT)は擾乱の伝播速度で、M=V/aが支配無次元数である。M<1の亜音速では情報は上流へも伝わるが、M>1の超音速では上流影響が遮断される。静的量(p,T,ρ)と全量(p0,T0)は等エントロピーで結ばれ、ノズルや翼列で不可欠である。理想気体ならp=ρRT、h=cpTで表され、γは圧縮・膨張の温度変化を規定する。圧縮性流体では密度変化が連続の式とエネルギー式を強固に結び付ける。

基礎方程式

連続の式∂ρ/∂t+∇·(ρV)=0、運動量ρDV/Dt=−∇p+∇·τ+ρg、エネルギーρDe/Dt=−p∇·V+τ:∇V−∇·q+????̇を用いる。q=−k∇T、理想気体ではp=ρRT、e=h+V²/2で閉じる。高温では解離・実在性でγ,cpが変化する。数値解析では保存形離散、Riemann解法、フラックス分割が衝撃波捕捉に有効である。

代表現象

  • 音波: aで伝播する微小擾乱。
  • 膨張扇: 超音速で生じる等エントロピー膨張。
  • 衝撃波: 薄い不連続で全圧損失を伴う。
  • チョーク: 喉でM=1、質量流量が頭打ち。
  • Fanno/Rayleigh: 摩擦支配/加熱支配の1次元管流。
  • 圧縮性補正: 亜音速翼にPrandtl-Glauert。

ノズルとチョーク

収縮-拡大ノズル(de Laval)では喉でM=1となり、下流で超音速へ遷移する。面積-マッハ関係は亜音速で面積減少が加速、超音速で面積増加が加速を与える。背圧が高いと拡大部に正規・斜め衝撃波が立ち、効率と騒音が悪化する。チョーク時の質量流量はp0,T0と喉面積で決まり、下流圧に鈍感となる。

衝撃波の力学

Rankine-Hugoniot条件は保存則から導かれ、上流Mとγで下流状態が定まる。衝撃波通過でエントロピーと静温は上昇し、全圧は低下する。斜め衝撃波では転向角と入射Mで弱解・強解が分かれ、超音速翼の波形抵抗や境界層剥離に影響する。微小擾乱の広がりはマッハ角μ=sin^-1(1/M)で与えられる。

低速での影響

M<0.3では非圧縮近似が実務上有効であるが、高ΔTの自然対流、微小流路、気液混相では密度変化が支配的になりうる。空力ではM=0.4〜0.7で圧縮性が顕著化し、薄翼にはPrandtl-Glauert、厚翼には修正式を用いる。音響・配管過渡では弾性波伝播が律速で、圧縮性流体として扱う。

数値解析(CFD)

高Reの粘性圧縮性流れでは、上流情報遮断と不連続が安定性を難しくする。Godunov系スキーム、TVD/ENO/WENO、HLLCなどが衝撃波捕捉に有効。低Mでは前処理(preconditioning)で剛性を緩和する。乱流はk-ε、k-ω、RSMやLES/DESを状況に応じて選ぶ。

物性と実在ガス

低温・高圧では実在ガス効果が無視できず、VirialやRedlich–Kwong系の状態方程式を用いる。高温超音速では解離・電離でγが低下し、放射・化学非平衡が支配的となる。蒸気、湿り空気、LNG配管なども圧縮性流体の範疇であり、相平衡の取り扱いが重要である。

設計・計測の指針

  1. レジーム判定: M,Re,Knで連続体/希薄を識別。
  2. モデル選択: 理想/実在、等エントロピー/摩擦・加熱を選ぶ。
  3. 全量の活用: p0,T0で性能整理、面積-Mとチョークを確認。
  4. 計測: ピトー、静圧孔、熱電対、シュリーレン、PIVを状況で組合せ。
  5. 不確かさ: 応答速度とサンプリングを事前評価。

応用分野

航空宇宙の推進・空力、ターボ機械の圧縮機・タービン、超音速風洞やロケットノズル、配管過渡のサージ、消音器の音響設計、半導体の真空配管など、圧縮性流体の理論は産業の基盤技術として広く用いられる。車両空力やHVACのダクト設計でも有用である。都市ガス網にも応用する。