固有振動数
固有振動数とは、外力がなく理想化された線形系が微小振幅で自由振動するときに自発的に示す周波数である。物体や構造は質量と剛性の組合せにより多数のモードを持ち、各モードに対応する固有振動数が存在する。外力の周波数がこの値に近づくと応答が著しく増幅し、疲労破壊や騒音・振動問題の主因となるため、設計段階で把握し制御することが不可欠である。評価には理論式、実験モード解析、有限要素法などを併用するのが一般的である。
数学的表現
線形時不変の多自由度系では、運動方程式を行列形で表すと Mx¨+Kx=0 となる。調和解 x=φe^{jωt} を仮定すると (K−ω²M)φ=0 の一般化固有値問題が得られ、固有値 λ=ω²、固有ベクトル φ を解く。角速度 ω を 2π で割れば f=ω/(2π) が固有振動数である。ここで M は質量行列、K は剛性行列であり、正定対称であればモードは直交性をもつため、モード重ね合わせによる解析が可能となる。
1自由度系の例
質量 m とばね定数 k の 1自由度系では、角固有振動数は ω_n=√(k/m)、固有振動数は f_n=ω_n/(2π) である。単振り子(長さ ℓ、重力加速度 g)なら小振幅近似で ω_n≈√(g/ℓ) となる。これらは微小変位・線形ばね・剛体近似を前提とするため、大きなたわみや非線形ばねでは実効剛性が変化し、固有振動数も変動する点に注意する。
減衰の影響
粘性減衰 c を考慮すると Mx¨+Cx˙+Kx=0 となる。減衰比 ζ=c/c_c(c_c は臨界減衰)を導入すれば、自由振動の角周波数は ω_d=ω_n√(1−ζ²) に低下する。共振点も僅かにずれ、帯域幅は減衰で決まる。実務では、無減衰の固有振動数(ω_n)と、減衰を含む減衰固有振動数(ω_d)を区別し、応答予測や防振設計に使い分けることが重要である。
連続体と境界条件
梁・板・殻などの連続体では、固有振動数は材料定数と幾何、そして境界条件に強く依存する。例えば Euler–Bernoulli 梁は √(EI/ρA) に比例し、固定–固定よりも片持ちが低くなる。節点や節線の形状(モード形)は節数に応じて変化し、高次モードほど周波数は高い。接触・締結・支持のばらつきは実効剛性を変えるため、試作段階での実測確認が推奨される。
共振回避の設計要点
- 使用回転数・励振周波数と固有振動数の離隔を確保し、余裕率を設ける。
- k を上げる(リブ追加、断面増強、短スパン化)か m を下げる(軽量化)ことで f_n を上方に移す。
- 必要に応じダンパや制振材を追加し、共振ピークと帯域幅を抑える。
- 支持条件を見直し、実機境界条件と解析モデルを整合させる。
- 共振通過が不可避な起動・停止ではランアップ/ランダウンを速やかに行う。
計測と同定
実験モード解析では加振器やインパクトハンマで入力し、加速度計で応答を測る。周波数応答関数(FRF)を算出し、ピークから固有振動数を、半値幅法で減衰比 ζ を見積もる。複数点・多方向の同時計測によりモード形を同定でき、試験体と解析モデルの相関評価(MAC 等)でモデル更新を行うのが一般的である。測定系の質量付加やセンサ配置は結果に影響するため軽量化と最適配置が要点となる。
数値解析
有限要素法(FEA)では Kφ=λMφ を解き、λ=ω² から固有振動数を得る。メッシュ・要素種類・境界条件・接触定義が結果を左右し、ボルト締結やゴム支持はバネ要素・ジョイントで近似する。高次モードは局所剛性やメッシュ品質に敏感で、収束性を確認する。必要モード数のみ抽出するには Lanczos などの反復法が用いられる。
材料・幾何の影響
一般に剛性 k は弾性係数 E と断面二次モーメント I に比例し、質量 m は密度 ρ と体積に比例するため、E の高い材料や厚肉化は固有振動数を上げる。逆に付加質量や配管内流体は f_n を下げる。軽量化では局所座屈や疲労を招かない範囲で剛性を維持し、モード形の腹部に補強を集中させると効率がよい。
注意すべき誤解
- 固有振動数と共振周波数は減衰で僅かに異なる。
- Hz(f)と rad/s(ω)は 2π が係るため単位混同に注意。
- 小振幅線形近似が破れると固有振動数は振幅依存となる。
- 多自由度では固有振動数は複数個あり、最小だけでは不十分。
- 測定治具の質量付加で見かけの f_n が低下することがある。
応用例
回転機の基礎では運転帯域から十分離した固有振動数を設計し、配管・ダクトは防振ハンガで節点支持を選ぶ。精密装置ではアイソレータで励振を遮断し、建築・土木では風・地震入力に対し TMD や免震で応答を低減する。産業規格としては JIS や ISO の振動評価・計測標準が整備され、評価手順や指標の統一により、設計と保全の一貫性が確保されている。