原子層堆積(ALD)|精密制御可能な薄膜成膜技術

原子層堆積(ALD)

原子層堆積(ALD: Atomic Layer Deposition)は、原子レベルで厚みを制御可能な薄膜成膜手法であり、半導体製造プロセスをはじめ、各種機能材料分野で広く活用されている。原子層堆積(ALD)は、前駆体ガスを表面に周期的・交互的に供給することで、1サイクルあたり数オングストローム単位の膜厚制御を実現する。このため、微細化が極限に達した半導体デバイスやMEMSデバイス、高性能キャパシタ、バリア膜形成など、従来のCVDPVDでは困難な緻密性と均一性が求められる分野で重要な役割を果たしている。また、原子層堆積(ALD)では表面での自己制限反応が鍵となり、膜厚均一性や高い再現性を確保しやすいため、立体形状や複雑なナノ構造へのコーティングが容易である。この特徴は、多孔質材料や3次元構造体への成膜にも有利であり、微細デバイスや先進材料設計に欠かせないプロセスとなりつつある。

ALDの特徴と原理

ALDは、表面化学反応を基盤とする自己制御的な成膜手段である。反応は「前駆体A → パージ(除去)→ 前駆体B → パージ」のようなステップで構成され、各ステップは表面上に原子層を1層ずつ堆積する。反応が飽和するまで進行するため、過剰な材料供給による膜厚の不均一化が起きにくい。また、プロセス温度範囲や表面材質に応じて、様々な前駆体組み合わせが利用可能であり、特定の膜組成や特性に合わせた反応設計が可能となる。

前駆体と反応プロセス

ALDで用いる前駆体は、揮発性、熱安定性、表面反応性が求められる。金属前駆体としては、Clや有機リガンドを有する金属錯体が用いられ、酸化物膜の場合はH2OやO3などが酸素源となる。プロセス中は各前駆体ガスを交互に導入し、不要な副生成物はパージ工程で除去される。こうした反応管理が、膜組成や膜質改善に大きく貢献する。

ALDの成膜制御性

ALDでは、1サイクルあたりの膜厚成長が自己制限的なため、サイクル数を制御すれば膜厚を精密に調整できる。また、基板表面上でのみ反応が進むため、凹凸や複雑な3次元形状に対しても均一なコーティングが可能である。この特性は、微細なパターン上でのコンフォーマルな薄膜形成を実現し、半導体デバイスのスケーリングや、バリア層、拡散防止層などの性能向上に資する。

代表的な材料と応用例

ALDは、Al2O3、HfO2、ZrO2などの高誘電率(High-k)ゲート酸化膜、TiNなどのメタルバリア膜など、半導体プロセスで多用されている。また、太陽電池や有機EL、触媒担体材料における機能性薄膜形成、Liイオン電池用セパレータへの保護膜堆積など、エネルギー・環境分野にも応用が拡大する。高度な膜質と均一性は、微細構造制御や新規デバイスコンセプトの実現に直結する。

ALD装置と工程設計

ALDは、反応チャンバ内で前駆体ガスを精密に制御するため、ガス導入ラインやバルブ、流路設計、温度制御などが重要となる。成膜速度が比較的遅いため、生産性を向上させるために複数枚のウエハを同時処理するバッチ式装置や、高スループットを狙ったプラズマ援用ALD (PEALD)技術も研究・実用化されている。工程設計では前駆体の選択、パージ時間、処理温度など、多くのパラメータを最適化する必要がある。

微細化への対応

半導体微細化が進むほど、制御可能な薄膜形成法が求められる。ALDは、原子レベルでの均一性、側壁を含めた3D構造への成膜、欠陥低減など、微細化に対応するための最適な技術である。その結果、次世代ロジックデバイスやメモリデバイス、ナノフォトニクス構造物など、先端領域での役割が一層増大している。

バッチ式とシングルウエハ式 ALD

生産性向上の観点から、ALDにはバッチ式とシングルウエハ式が存在する。バッチ式は多数のウエハを一度に処理できるため、量産性に優れる。一方、シングルウエハ式は工程ごとの精密制御や品質均一性確保に有利であり、歩留まり向上と高品質膜形成を重視する先端製造ラインで採用されている。